「おし、じゃあ早速要望聞こっか。どんなのがいい?」
「よく斬れる奴! あと振り回しても戻ってくるやつ!」
「ブーメランみたいなのかな? まぁアイディアはあるよ。ちょいと待ってね」
<コメント>
:これ、親方側にも見えてんのか
:全員ガン見してる件
:セヴィオも少し羨ましそうだな
:ブーメラン武器で倒せるのなんてゴブリンくらいでしょ
:今、迫ってきてるのはオーガなんだよね
:勝てるわけない、オーガにブーメランなんて!
:そこはほら、先輩だし
:先輩は本当に簡単に武器作るよな
:これが最高難易度の金属ってマ?
:飴細工みたいに変形しよる
:コーディさっきから無言でメモ取ってるぜ
:鍛治の親方連中もガン見なの草
:ローディック師も夢中だなー
「でけた!」
<コメント>
:うん、ブーメラン
:ブーメラン?
:どう見ても円月輪です
:持ち手が円の中心なのね
:これ、どうやって受け取るんだ?
「使い方? 投げたらあとはこのガントレットに再装填されるから、タイミングよく呼び出せば一方的に攻撃できるよ。それとこのように腕につけた状態でグルンと回せば、相手の攻撃を弾くこともできーる」
「そういうの待ってた!」
<コメント>
:ゲームならではの発想で草
:ゲームだからな
:一方的に投げれるのは強い
:あれ、これゲームだよな?
:しれっとBW内に転送陣組み込んでんじゃねーよ!
:おかしいと思ったらそれだ
:いつの間に実装してたんですか!
「おっとこれは秘密だった。レシピは内緒。みんなで探してね! じゃあアメリアさん、使用チェックおねがーい」
「任せろ! うおー、すごい切れ味! 遠くまで飛ぶ! 大体15秒後には戻ってくる感じかな? ガントレット単品も丈夫でいいね! オーガの一撃も余裕で耐える!」
「メインはそっちのブーメランだけどね」
「全部まとめて合格だぞ!」
<コメント>
:おっそろしい武器が実装されてて草
:誰かレシピメモしたか?
:した、けど素材を集められるかどうかは話が別
:アメリアちゃんクラスの戦力が必須か
:あの数捌けて、尚且つドロップ狙いはなぁ
:全部の敵がドロップするんじゃないんだっけ?
:確殺しないと落とさないね
:クリティカルで倒すと落とすよ
:全部オーバーキルしないとなのか
:これ、もしかして数的にルナティックじゃないと材料集まりきらない?
:かも、通常モブ含めて数百単位でるルナだからこその配合か
:相当数の素材突っ込んでたもんなぁ
:ハード回ってるけどあの素材数は少し集め切れなさそう
:じゃあやぱりルナティック推奨なのか
:転送陣もきっとルナ準拠
:パーティメンバーのバランスが重要だな
:この配信、ルナに二人で挑んでる件
:あたおか
「おい、今の加工技術メモしたか?」
「何したかさっぱりだった。こういう時ゲームは困るよな」
「慌てなさるな。私もあのゲームをやったが、成功率が簡略化される以外は現実の製錬とそう変わらん。ゆえに答えは自ずと見えてくるはずじゃ」
「なら、見た目通りか。しかしあれほどの細かい技術、さすがボマーということか」
「目にするたび自分の常識が更新されてくな、世の中の広さが沁みるぜ」
<コメント>
:それを現実で再現しようとしてる連中がいます
:おい、セヴィオの武器槍だろ、ブーメランじゃねーから!
:真剣に円月輪を再現してる人たちー
:せや、この槍の穂先を円月輪にして飛ばせば!じゃないんだわ
:求めてねーよ、そんな武器
:完全に先輩に染められてんな
『おい、ちょっと面白そうとは思ったけど、俺の武器につけられても困るぞ?』
「ならばいっそドリルにするか!」
『槍だってーの!』
<コメント>
:ゲストの意向を全く汲んでなくて草
:職人たちは和気藹々としてていいな
:くっそ趣味に走ってるけどな
:見た目Vだから許されてる
:許されてないんだよなぁ
『要望が通ってないのに強いから扱いに困るぞ。遠くの敵にはこのブーメランアンカーが地味に便利だ。くそー』
<コメント>
:ツインヘッドドラゴンが秒殺されてて草
:ブーメランが飛んだだけで首が二本逝ったからな
:おかわりがゾロゾロきてます
:そういえばここ、SSランクダンジョンだったわ
:普通ならピンチもいいところだが?
『よいしょお!』
<コメント>
:セヴィオも単独で強いんだよなー
:遊びで作ったおもちゃみたいな武器で討伐タイム更新は気の毒すぎる
:前の武器も十分強いんだけどなー
:こっちのおもちゃみたいな武器が格段に強くて手放せなくなってそう
『そうだぞ。悔しいことにな。欲しい武器とは全く違うんだが、これはこれで欲しい』
「まだまだ序の口で満足されては困るの」
「そうだぞ、俺たちが合成オリハルコンを扱い慣れてない」
「次はもっといいの仕上げるから期待しててくんな」
『そりゃありがたい限りだな!』
<コメント>
:セヴィオつんよ
:腐ってもフランスの英雄やしな
:Sランクってのはどいつもこいつも超人だから
:足取りもそうだけど立ち回りが見てて気持ちいいんよ
:危なげないもんね
:ここまで被弾なし
:アメリアちゃんも相当上澄だけどセヴィオも上澄みだなぁ
:Sランクは大体そうでしょ
:キングやトールも危なげなかっただろ?
:ちょっと要求が行きすぎてたけどな
:トールが悪いよ、あれは
「ウヒョー素材がいっぱい! アメリアさん最高! 次はあれも作りたいなー? ドラゴンタイプ確殺できそう?」
「ドラゴンタイプは耐久が多すぎるから確殺は難しいな」
「ご要望があれば聞くよ?」
「なら強化付与希望! 切断が9は欲しい!」
「まかして。そのための素材は任せちゃうけど平気そう?」
「先輩の作ったガントレットがあれば遠距離もいけるから任せて」
「やったー」
<コメント>
:結構物騒な話してるけど
:見た目は和気藹々としてるから和む
:本当に仲良いよな、この二人
:てぇてぇ
:てぇてぇか?
:見た目はてぇてぇでしょ
:実際、ゲーム上で強化9って現実的なの?
:無茶言うな、強化5から3回に1回失敗するぞ
:強化8から9にするまでに一体何個の強化石を消費するか
:つまり?
:普通はそこまで狙ってあげない
:+5もらえたら御の字
:失敗したら素材が消し飛ぶからな
:運が悪いと強化値も下がる。これが地獄の入り口だ
:盛大なチキンレースなんよ、強化って
:あぁ、わかりみが深すぎる
:それって確率の話? 強化石の要求数が多いとかじゃなくて
:確率もあるけど純粋に要求数も多いな
:BW無知なので1から9までの要求数教えて
:おおよそ120個。そこに確率失敗も含めて完成まで600はほしい
:6ウェーブ分か、全部で何ウェーブあるっけ?
:ルナは12だね。ウェーブ数は難易度によって増減するから
:それでも多くて武器二種かぁ
:普通はそこまで求めないんだよ
:強化に回すかアイテム製造に回すかなんだよね
:そこで先輩は120で完成させると?
:2ウェーブで完成させるのはイカついなぁ、これを見てアタッカーが真に受けたら地獄だ
:多分よそ見しながら完成させるぞ、先輩なら
:豪運の申し子すぎる
:アメリアちゃんから全幅の信頼を受けすぎておる
:むしろ毎回誘われるのって先輩以上に任せられる人がいないからじゃ?
:一度これ味わっちゃったら、他は全部霞んで見えるでしょ
:悲しいなぁ
:あれ、このゲームアイテム合成の確率は無視するんじゃ?
:強化合成は多少マシになってるだけで運だぞ
:リアルは熟練度30辺りからお祈りゲーだからな
:リアルから見たら優しいよ、8から9の成功率10%は
:この配信見てると確かに高く見えるな
:普段1%を祈ってるからな
:今までに一体どれほど多くの同胞の嘆きが響き渡ってきたか
:草
◇
ダンジョンの奥深く、科学文明の発達した室内で。
頭からうさ耳を生やした女達が配信を眺めながら話し合っている。
「これが例のにゃん族のスパイか。随分と派手に暴れ回っているようだが、人間たちはあまり警戒してないように見える。なぜだ?」
「はい。どうやら名を売るのに成功しているようであり、皆から『先輩』の名で敬愛されているようです」
「そうか。まさかにゃん族に出し抜かれるとはな。でもこちらも負けてはおるまい?」
「ええ、ミリーを先行させて人間の協力者を仰いでいます。今では魔道具技術のトップになっている辺りでしょう」
「この配信に出ている我らのトレードマークを持つものだな。しかし随分と年若いが」
年配のうさ族がローディックの見た目を指摘して呟いた。
それを受け、地上で蔓延している偽りの姿を模したVチューバーをどのようにして語るか迷う。
こういう情報媒体では、見てくれの悪い姿より、見目麗しい方が好印象を持たれるのだが、100年すぎても美貌を損なわないうさ族の長老達は話を聞いても理解ができないという顔をした。
ダンジョンに住まう種族は長命種であるが故に、自分の当たり前を相手に押し付ける風潮にあった。
「これは加工映像によるもので本来のものとは逸脱しております」
「なんと。実際は異なるのか?」
「ええ。人間は寿命が短く、100年も生きられないそうです。ミリーが接触したのは40年前。協力者はご老体になっているとのこと」
「画面上ではそうは見えんが?」
若く、溌剌とした笑顔を向けている。
ギラギラとした視線はうさ族の科学者と同様だ。
これは引き込んだ先でも立派な個体として働いてくれるという思いがあった。
しかしそれが異なる、寿命による活動停止の危機を促されて興味をすぐに亡くしていた。
うさ族の後押しがあっても100までしか伸びない。
そんな劣等遺伝子を取り入れても大きな進歩はないと結論づけていた。
それでも、情報を仕入れる上では地上の権力者は側に置いておきたいという目論見がある。
そこで長老は協力者ではなく配信の主役に視線を移す。
「こちらは随分と若そうだ。それに才気に溢れておる」
「ミリーは接触する相手を間違えたのではないか?」
「ローディックは世界最高峰の頭脳の持ち主でありました。我々の後押しで熟練度を100まで上げた優秀な個体です」
「だがこの『先輩』というのは300を超えるそうだな?」
「多少盛り込んでもそこまでは吹けぬぞ?」
「我々に匹敵する技術力、捨て置けん。にゃん族め、うまいこと抜け駆けしおって」
「それにつきましては、我々も疑問が拭えません」
「と、いうのは?」
「あの蛮族にここまで技術力で差がついていた、という事実を認められません」
「今は、そうであろうな」
長老の一人が目を細める。
長く生きているからこそ長老と呼ばれているが、背格好は女子中学生ぐらいしかないうさ族。
そんなうさ族の生き字引きは、にゃん族もかつてうさ族と張り合える研究者がいたことを明かす。
たった一人の統率者。今はその妹が己の得意な武力で統率している。
かつてうさ族と張り合えていた技術は扱えこそするものの、理解はしていないだろう。
「そんな相手がいたのですか?」
「あやつが地上で行方不明になってから何年が経つか」
「サルバ様のライバルであられましたか」
「そうよ。小憎たらしいことにな」
「確かサリー達と同時期に地上に侵入していたのではありませんか?」
「そうじゃったか。まだ40年も経っておらぬか。ライバルを失ってからの年月はやたらと長く感じたが。そんなものか」
「その頃のサルバ様はあまり本調子ではありませんでしたからね」
「あやつが地上で野垂れ死ぬ姿は想像もつかんが、かわりものじゃったしのぅ」
変わり者はお前もだろう、そんな視線を受けつつサルバと呼ばれたうさみみ少女は独りごちた。
「ミゼリー、貴様は今どこで何をしている? 早く現場に戻ってこぬか、馬鹿者め。お前が帰ってこなければ張り合いが持てぬわ」
かつてにゃん族を率いていた最高責任者で技術者に呼びかける。
返ってくる言葉はなく、ただ憧憬の中でライバルを思う。
「しかしこやつ、あの者の面影を持つな。まさかミゼリーの娘か?」
「バカな。地上で長期間潜伏できるはずもないでしょう」
地上にはマナが行き渡っていない。
ダンジョン生命体である種族は空気中に含まれるマナを糧に生きながらえている。
地上での活動はマナの確保がうまくいかない限りは長期潜伏は難しいというのがうさ族の見解だった。
が、それが覆っていたら?
「誰か、この者との接触を試みよ」
「でしたら交友関係を結んだミリーと協力者に任せましょう」
「親しいのか?」
「コラボ、一緒に共同研究を申し出るくらいには仲が良いとのことです」
「ふぅむ。では後は頼む。私は少し手土産を仕込んでくる」
「連絡は第一研究所へ?」
「そんな大掛かりなモノではない。自室ですこーし遊ぶだけよ」
「了承しました」
額から角を生やしたうさ耳少女サルバは、るんるん気分で自室に篭った。
その姿は推しを見つけたファンの如く軽やかな足取りである。
残された研究員達は、あんな乙女みたいな上官を見るのは初めてだと瞠目していた。
それほどまでに珍しい姿であった。
『はい、こちらミリー。え、サルバ様から直々の伝令ですか?』
「どうした、エミリー?」
『上層部からの新たな伝令よ』
「なんと数十年ぶりじゃの」
第一回目のゲストを無事に送り出し、2回目のゲストを呼び出すインターバル時間内。
ローディックはオーストラリアの自室に戻るなり秘書からそんな言葉を受け取っていた。
最初期に接触してきた時は技術込みで情報を受け取った者だが、世界のトップに君臨してからはとんと情報が途絶えていた。
その間は独学で熟練度200まで至ったが、牛歩の如く。
歳ばかりとっていく現状を憂いたものだ。
しかし槍込聖と出会ってからのここ一年で劇的な成長を遂げている。
まさに活力剤の如く。
自身を軽々超えていく若者に負けてられないと睡眠時間を削って魔道具技術のみならず、門外漢の鍛治や錬金術にまで手をつけ始めた。
それもこれも絶対に乗り越えたい存在がいてからこそである。
確かに熟練度100の壁を越えるきっかけをくれたうさ族に感謝はしているローディック。
しかし槍込聖と出会ってからは「ああ、いたなそんな存在」ぐらい過去になっていた。
「上はなんと?」
『個人的に先輩とコラボしてこちらの敷地内に誘致して欲しいと』
「先輩の能力に目をつけたか」
『あれは個人の力でどうこうできるモノではないですよね』
これにはミリーも苦笑している。
うさ族の先兵として送り込まれたのはもう40年も前のこと。
地上で安定して潜伏できるようになってから、すっかり人間に感化された生活を送っていた。
とっくに地上を行き来できる情報を秘匿してるのは、自分の休暇時間を労働に置き換えたくないという願望も含まれていた。
特にうさ族はワーカーホリック気味な生活に身を置きたがる。
若い個体のミリーはそれを嫌ったのだ。
「私でも煙に撒かれそうだ」
『我々でもお手上げですよ』
「じゃが、これもいい機会なのかもしれんな」
『その心は?』
「地上にはうさ族を凌ぐ技術者が溢れている現実を知るいい機会ということだ」
『あー』
ミリーはここ一年で急成長した錬金技術者を思い出して遠い目をする。
その先頭に立っているのは我らが『先輩』槍込聖である。
タチが悪いのは本人にそのつもりはなく、ただ遊びで作ったレシピを公開してるだけ。
技術者はそれを糧に熟練度を爆増させている。
今や熟練度10で足踏みしていた初心者は少なく、その全てが80に至る急成長を遂げていた。
今まさに餌に飢えている状況だ。
そんなところに未知の技術力の到来だ。
みんな飛びつくと思う。先輩も同様に。
実際にローディックも過去においては到底理解できない技術の塊も、ここ数年で入手した先輩の知識で輪郭を掴んできている。
それを手ずから教えてくれる存在を歓迎しないというのは無理があった。
『では話に乗る形でよろしいですか?』
「先方には二つ返事で了承したと答えておいてくれ。私も先輩に貸しを作れる。いいことづくめで笑いが止まらんよ」
『あなたもここ一年でずいぶん変わりましたよね』
「知ってしまったからのう。先の世界を。技術者としてはそれを理解せぬうちは落ち落ち寝てられんわい」
60を越えてなお、子供みたいな目をしながらローディックはこれから訪れる未来を歓迎した。