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第39話 先輩、にゃん族と接触する②

「ここかい、僕の同胞らしき人たちがいるって場所は、なんだか辛気臭いところだね」


 一応、ここら辺含めて演技としている。

 え、いつも通りすぎてわからないって?

 気のせい、気のせい。


『にゃ、誰にゃ!!』

『その姿、同胞にゃん?』

『そんなやつ知らないにゃ』

『警戒するにゃ』


 牢屋のニャンコたちは僕を見るなりにゃんにゃん言い始めた。

 うちの優秀な翻訳機は、全世界を通じて自動的に翻訳している。後輩、あとは頼むぞ?


<コメント>

:いつもの先輩で草

:猫ちゃん可愛いですねー

:先輩の方が可愛いだろ?

:草

:先輩衣装に似合ってますね


 そこ、どうでもいいところで興奮しない。


 ニャンコたちに一瞥くれながら、僕はこんなのと一緒にされるなんてごめんだとばかりに憤慨して見せる。


「盛りのついた雌猫みたいだね。これが僕の同胞? 何かの悪い冗談じゃないの?」

「失礼ながら、故郷はここでの暮らしとは相当に違うようです」

「ああ、そう」


 説明役の話を短く切り上げ、ん僕はかったるそうにニャンコたちに視線を向ける。

 情報では、この世界よりも技術水準が高いと聞いていた。

 だがそれは扱うものが高いってだけで、彼女らの知識が人類を上回るってわけではないみたいだ。


「ねぇ君たち。こっちに何しにきたのさ。僕みたいに迷い込んで暮らすは目になったクチってわけでもなさそうだけど」

『お前誰にゃん?』

『見たことないにゃー』

『姿形はにゃんたちにそっくりにゃん?』

『でもこんなちびっこ戦士のはずないにゃ』

「その通り、僕は戦士じゃない」

『……お前、にゃんたちの言葉がわかるにゃん?』


 今まで思いのままに話していたにゃん族たちが一斉に僕に視線を向けた。

 バカっぽい口調から一転、獲物を定める狩猟者のものとなる。

 ふーん、本性はこっちか。

 今までのは演技? それとも素か。

 判断がつかないな…


「わかるさ。君たちの言語くらい、嫌というほどわかる。僕の耳は生まれつき特別性でね」


 そりゃ、生えてないもんを無理やり生やしたんだ。特別以外の何者でもないさ。


『お前、こっちで向こうの味方についてるにゃんね? そっちはどれくらいの規模の土地が余ってるにゃん?』

「それを聞いてどうするのさ」

『もちろん、住むにゃ。ダンジョンでは人口が増えすぎてもう住めないにゃん。エネルギー維持も難しくなってきたところに、新しい棲家を探しに出てきたんにゃ、お前、にゃんたちの同胞なら棲家提供するにゃ』


 ありゃ。ただの民族移動か。

 しっかしダンジョン生まれの種族が地上にね。

 ダンジョン側の策略か?

 それとも全容を知らせられてない捨て駒か。


「それは全然大丈夫だけど、僕の興味は全く別のところにある」

『棲家もらえるにゃん?』

『やったにゃ!』

『お前、いいやつにゃん』

『棲家より大事なところなんてないにゃ!』


 話を聞け!

 まるで抑えの利かない子供を相手にしている気分になりながら、僕は続ける。

 今までは声を翻訳するに至っても、会話の類は一切通じなかった。

 アメリアさんたちはそれが猫耳薬を飲んで一時的に得た付け焼き刃だからではないかと突き止め、常日頃から常用している僕ならばどうか? と提案したのが今回の顔合わせだった。


 結果は想定通り。

 僕の言葉は彼女たちに届き、見事会話が成立したのだ。


「君たち、こういう道具の扱いが巧みだって聞くよ。それは僕が考案したものなんだけど、まるでもっとすごい道具を知ってるみたいじゃないか」

『ああ、おもちゃにゃん?』

『ツノありがたまに持ってくるにゃんね』

『これはもう見飽きたにゃん。にゃんたちの自前の牙や爪には負けるにゃんね』

『そうにゃん、いつもみがいてるにゃん』


<コメント>

:ツノあり?

:ダンジョンでツノが生えてる相手っていうと鬼系?

:ゴブリンは生えてないぞ

:オーガとかだろうか?

:サイクロップスも生えてますよ

:熟練度30の炸裂玉で爆散した、あの?

:悲しい事件だったね

:自前の武器は大事だもんね

:自分の体を信じられて偉いね

:これ、アメリアだから捕らえられたって事実をみんな忘れてないよな?

:腐ってもSSランク出身モンスターな件

:じゃあ先輩も?

:先輩は過去にSSSランクダンジョンの壁を完全破壊した実績

:悲しい事件だったね

:先輩の炸裂玉が出禁になったわけだ

:流石に鉱床消し飛ばしたらあかんでしょ

:RIPダマスカス鉱床


 なるほどな。頭脳の発達した種族はまた別に存在するわけか。

 それとも突然変異でツノが生えるとかあるんだろうか?


「なるほどね、だいたいわかった。君たちはこれらの利便性を全く履き違えているということが」


 僕は腕輪をベルトに認証させてこう叫ぶ。


「変、身!」


 僕は真っ赤なスーツにアーマーをつけた戦隊レッドへと早替わり……

 しなかった。


「ぎゃあああああ!」


 なんということでしょう!

 僕は一瞬全裸になったかと思った瞬間、謎のシルエットによって顔以外の姿を覆い隠す。

 ついでポップな音と共に可愛いリボンが装飾された魔法少女に変身してしまっていた。

 全てを理解したあと、絶叫したのは様式美である。

 想定してないことを急にされたら誰だって驚く。

 僕だって例外ではない。


<コメント>

:《後輩》すり替えておいたのさ!

:草

:後輩ちゃんエ……

:でかした

¥50,000:衣装代

:この衣装代が今の先輩の姿なんやなって

:高額スパチャの結果か、これが


「うおおお、ついさっきまでは確かに男気溢れる戦隊レッドの衣装だったのに、いつの間に!」


<コメント>

:《後輩》なーに言ってんですか、転送陣でいつでもどこでもすり替え可能ですよ。私に権利渡した人が何言ってるんですか

:草

:悪用され放題やんけ

:それは権利を渡した先輩が悪いわ

:こうされるって予想できるじゃんか


 それを言われたら弱い。実際は僕が使う機会って少ないからね。だからって僕の私物まで何でもかんでもすり替えるのは酷いと思う。


『なんにゃ?』

『姿が変わったにゃ』

『すごい強そうに見えるにゃ』

『侮れないにゃん』


 お、ニャンコたちへのハッタリは通用したか。

 僕は気を取り直して胸を張った。


「ふふん、ちょっと想定は通りとはいかなかったけど、これは僕の提案するガジェットの一つさ。バトルスタイルから日常の衣装、そして回復薬の支給まで何でもかんでもこなしてしまう。無論、制限はある。君たちにゃん族は運べない。あくまでも運べるのは荷物や衣装だけだ」

『それはすごいのかにゃ?』

『食べ物も取り出せるにゃん?』

『それはすごいことにゃ!』

『食事は大事にゃ!』


 厳密には登録した人物以外は運べないというだけだ。

 それを彼女たちに話す理由がないのでこの場はカードを伏せておく。

 もしバカなフリをしているだけだった場合、後で痛い目を見るのは僕だけではないのだ。

 しいてはこのアメリカ合衆国全体のピンチになりかねない。

 なので余計なことは喋らずに、相手からの情報を抜くのが僕の役目だった。


「そうだ、記念の印にこれをあげよう」

『板にゃん?』

『脆そうにゃ』

『にゃん達の爪掻きに耐えられそうもないにゃんよ?』

『にゃー、弱っちぃにゃ』

「あーもー、この脳筋ども」


 早速専用コンソールをボロボロにしやがって。

 精密機械なんだぞ、もっと丁重に扱えっての。


<コメント>

:この子達……

:三歳児でももう少し頭を働かせるぞ?

:子供のおもちゃが超合金な理由

:無茶したって壊れないためにか

:先輩、いっそオリハルコン製にした方が……


 バカじゃないのか?

 なんで映像送信ツールにそんな規格外の素材を投入しなきゃいけないんだ。

 だったらこのニャンコ達を直接鍛え直した方が。


 そう考える向こう、マジックミラー側のある壁から日本語が流れる。にゃん族達は読めない言語。

 この一族は賢そうで実際はバカなので、他言語を並べられても即座に理解しないのだそうだ。

 そこには大統領からの許可令が出ていた。


 要はオリハルコン使っていいから、にゃん族が扱っても壊れないコンソールを作れというお達しだった。

 今日は僕が対応できるが、流石に毎日は行けないので、だったら今度は遠隔でやり取りしてくれって話らしい。

 アメリカの将来が僕の小さな肩にかけられた瞬間だった。

 やめろよな。そうやって国単位で僕に頼るの。


 まぁ、責任は向こうが取るっていうならやるけどさ。

 オリハルコンゲットの許可が出た。

 が、実際はあれが最高強度と言われたら首を傾げてしまう。

 確かに軽く、魔力の通りは良い。

 魔力の通りで切れ味を増す、そういうタイプの金属だ。

 硬さも同様。つまりは魔力媒介としては最適だがある意味ではそれだけだ。

 この蛮族達に与えて壊されない保証はどこにもない。


「しょうがないにゃあ」


 こんなこともあろうかと、取り置きしておいたかつての遺産!

 ローディック氏やコーディ、ドリィちゃんと共に作り上げた特殊合金をここで使う!

 要は使い回しだ!


 僕はコンソールを魔改造し始める。

 ニャンコ達は僕が何かしらやってるのに興味津々だった。


『それは何をしてるにゃん?』

『爪研ぎ用に変えてくれてるにゃん?』

『すごいにゃ、乱暴に扱っても壊れなさそうな硬さを感じるにゃん』

『すごいにゃん』


 早速言いたい放題言われてら。

 が、僕はそんな言葉を今まで耳に入れてこなかった男だ!

 年季が違うよね、ふふん。


「ヨシ、これでいいかな」


<コメント>

:もうできたのか

:早い

:オリハルコンの許可を出した途端にそれ以上の素材を出す暴挙

:なまじ責任を取るって言った手前

:これオリハルコンどころじゃなくない?

:《アメリア》これ、あたしの武器と防具に使ったあれか?


 そだよー。

 軽く反応してからニャンコ達の檻に再度投入する。

 結果雑に扱われても壊れず、転送陣の機能を持たせることに成功した。

 一応映像受信構造もつけてる。

 これでお役目の一つは完了したな。

 我ながらいい出来だ。


『にゃ、すごいにゃ!』

『にゃん達の爪でも壊れないにゃん!』

『にゃんだか無性にイラつくにゃ』

『にゃ! 何がなんでも壊してやりたくなったにゃ』

「やめろ、せっかく作ったんだぞ。壊すんならもう作らないからにゃ!」


<コメント>

:先輩……

:噛んだ?

:いや、これは語尾が移っただけかも

:その語尾似合ってるねぇ

:今後その語尾運用しましょうよ

:猫耳と相まって最強に見える

:《後輩》いいですね、採用します

:やった!


 地獄かな?

 なんで僕に断りを入れずに勝手に採用しちゃうんだろう。

 まぁ後輩が今まで僕に断りを入れたことなんて一度もないけどね。

 そう思えば幾分か気は楽だ。

 向こうがこちらの話を聞かないというのであれば結構。

 こちらも向こうの話を聞かなければいいだけのことである。

 それはニャンコ達も同様に。

 壊そうとする前にこちらの要求を飲ませてやる。

 そう思った。


「壊すな壊すな。これの運用法を伝えるから、そっちで受け取ってくれ。オーダー、冷たいコーヒーを」

『ラージャ』


 音声アナウンスがコンソールから鳴り、僕の手元に魔法陣が起動。何もないところからテーブルと椅子ごとコーヒーセットが運ばれた。

 タネも仕掛けもありまくる、転移装置の運用スタイルの一種である。

 今回は配信を兼ねているので、予めの準備はしておいた。

 どうせ度肝を抜かせるなら、オーバーな方がいい。

 欧米の人はオーバーリアクションを好むと聞いてるし。


『なんにゃ、何もないところから何か出てきたにゃ』

『ご飯も出てくるにゃ?』

『ここのご飯は味が濃くてよくわからないにゃ』

『そうにゃ、舌がバカになるにゃ』


 頭が可哀想なのはわかっていたけど、舌も可哀想だとは、いよいよもって救いがない。

 これは人間と同じような食事を与えてもダメだろう。

 いっそキャットフードの方がいいのでは?


「オーダー、キャットフード」

『ラージャ』


 音声アナウンスの後、これまたアメリカンサイズのフードと猫用の皿が出てくる。それにザラザラと入れて、僕の手元からニャンコ達の独房に直接転送した。


「どうぞ、僕から君たちへの二つ目のプレゼントだ。遠慮なく口にするといい。味覚の薄い君たちに向けて作ったものだ」

『まずいにゃ』

『でも、味はわかるにゃ』

『肉が食いたいにゃ!』

『にゃんは魚にゃ!』


 おーおー、わがまま言いやがる。

 が、これくらいは当然予想の範疇内。

 僕は振り返り、リスナーに向けてニャンコ達への餌付け大作戦を行うことを決行する。


 要はリスナーの書き込みに準じて、それを提供するというものだ。その中から好みが合致するものが現れたら、何か報酬をつけることとする。

 僕としては国の命運を賭けた餌付けだからもっと豪華な報酬で釣ろうと思ってたんだけど、なぜかみんな【むくみとりポーション:品質S】なんかで妥協しちゃうんだよなぁ。欲がないのか?

 そんな粗末なもんじゃなくて、もっとちゃんとしたもの頼もうよ。合衆国のピンチなんだよ?

 そう言ってもまるで聞く耳持たないでやんの。


 いよいよもってくるところまで来たなって感じ。

 今回はあらかた雑に終わらせて、次回からはお家で配信だ。

 場を整えるのが僕の役目であって、問題の解決は二の次だからね。


 会話の場を設けて、相手の知性の洗い出し。

 餌付け、そして交流。

 全て上手いこと言ったと勘違いしていたけど、後日うちの倉庫に大量のキャットフードが届いて、これはやっちまったなと新たな貸し倉庫を契約したところだ。


「後輩、このフードどうしよっか?」

「引き取った以上、消費してもらいますが?」


 にっこりと。もらったんなら使わないのは筋が通らないと言われた。まぁそりゃそうなるよなぁ。

 後輩が愛でたいのは僕で、あの子達ではないのだから。


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