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第38話 先輩、にゃん族と接触する①

「こんにちは、今日は普通の配信をお休みして、生配信を決行することになって『なんで?』と思ってる先輩と」

「お世話係の後輩でーす! 衣装は私が考案しました!」


<コメント>

:生の先輩、やっぱり可愛い!

:その格好でおじさんは無理があるのでは?


「おじさんなんだよなぁ。原因はむくみとりポーションと性転換ポーションにある。後者に至っては僕が望んで口に入れたことはない。なお、まだ男のシンボルは死守してるよ」

「そこは頑なに諦めてくれないんですよねー。まぁこれでも十分に愛で甲斐があるからいいんですけど!」


<コメント>

:やっぱりむくみとりポーションやべー性能やんけ!

:おじさんが飲み続けるだけでこうなるのか?

:猫耳かわいいよ、猫耳!

:後輩ちゃんは変装越しでも絶対に可愛いってわかるよね

:それ

:生粋のオタクは主役を食うことはない

:オタクの鏡やでぇ

:さすが自ら壁に溶け込む女

:主役が誰かわかってるムーブ

:先輩は絶対ホルモンバランス女になってる

:それは草

:それで、今日のお題は?


「ああ、そうだね。今日はアメリアさんと合流して、にゃん族がどこからきたのか調査するべく派遣されたんだよ。向こうはこっちに流れてきてる、つまりは移民なわけだけど。当然こっちに全てを迎え入れる準備はできてないからね」

「先輩の転送陣で随時送り返してやろうという作戦です!」

「こらこら、人聞きの悪いことを言わないの。ちょっと便利空間に細工して、こちらから入って、出る時向こうに返してあげるだけだよ」


<コメント>

:入り口がここで、外に出ると元の世界に戻される?

:地獄で草

:まじもんの移民だったら人の心を疑うレベル

:実際山賊行為目的なので略奪者だぞ

:けどアメリアちゃんには手も足も出なかった模様

:ただでさえSランクで、先輩の装備所持者だぞ?

:あれは悲しい事件だったね

:実際バトルフィールドでも伝説の装備だもんな

:作るのにはハードじゃないと該当モンスターが登場しない件

:素材要求数がね

:実際威力はハードで無双できるからな

:ハードが緩くなった時は笑った

:あれが実在してる装備の時点で勝ち目ないわ

:あんなピーキーな武器を操れるアメリアちゃんもすごいんやで?

:それ


 話が脱線してきたな。

 ここからは巻こう。

 後輩にそれとなくアイコンタクトで伝えると、こくりと頷き、バッグに手を入れゴソゴソした。

 取り出したのは僕の顔ほどもある飴ちゃんだ。

 次元バッグだったっけ、それ。


「物欲しそうな顔をしてましたので」

「ちゃうわ! もらうけど」


 ぺろぺろしてると、急にコメント欄が静かになった。

 急激な糖分接種が疲れた脳に効くんだよね。

 アイコンタクトは失敗したけど、まぁヨシ!

 僕の頭に猫耳が生え、元気にピコピコした。

 あ、これ猫耳薬を加工したものか。

 どのタイミングで飲むんだろうと思ってたらこれである。

 一度飴にしちゃえば日持ちするからね。

 後輩め、考えたな。


<コメント>

:おじさんが飴を舐めてるだけなのに……

:なんかいけない場面を見てる雰囲気になってきたな

:アイスキャンディは、アイスキャンディはないんですか!

:おい、それは!


「残念ながら先輩に棒状のフードは厳禁です。私が悶絶しちゃうので!」


<コメント>

:後輩ちゃん……

:色々抑えてるんやな

:だって先輩可愛いもん

:普段やってることはえげつないけど

:愛でられることで溜飲を下げてる所あるからな

:可愛い子供がする発言じゃないんよ

:可愛いおじさんだぞ、履き違えるな!

:普通なら書き込み禁止になるやつだけど

:後輩ちゃんも同じ気持ちだったか

:ガシッ(握手)


 ゆっくり飴を舐め切って、移動する。

 移動すると言っても僕の研究施設から、アメリアさんのいる施設への徒歩の移動だ。

 転移陣なんて一瞬で過ぎ去るからね。

 なんで徒歩で行かないのかって?

 それはにゃん族がこちらの配信をのぞいてる可能性があるから。

 向こうはそれほど馬鹿じゃなく、飲み込む頭脳も持ち合わせているとアメリアさん談。

 なので情報は極力与えずに、こちらから一方的に技術の洗礼し続ける方向で行くことになった。

 故に真似できない技術の応酬対象に僕が選ばれた。

 不本意ではあるけどね。


 けど逆に言えば熟練度100くらいは模倣できると言いたげだった。

 ならば熟練度370に至った僕の出番も頷ける。

 僕のレシピは100に至った錬金術師でも意味わかんないらしいし。


 しばらく歩いてると、壁の景色が変わる。

 転移人は埋め込み式で、一見どこに設置してあるかわからない仕組み。

 僕と後輩は通過する際に服に隠してある認証キーを持ってるので通過が可能だ。

 持ってない人にはただの通路でしかない。

 人によっては急に現れたように思うだろうね。


<コメント>

:壁の模様、変わった?

:くそ、先輩のかわいさに夢中になってて転送を見逃した!

:ファンアート描きました!

:仕事が早い

:リビドーに忠実に従った結果です!

:雑談配信始まってからまだ20分経ってないんやで

:なお10分くらい飴を舐めてる映像だった件

:リアル配信でそれは……

:耐久配信かな?


「先輩、ファンアートよかったですねー」

「後で見せてね」

「気になります?」


 後輩の顔は『見ない方が幸せですよ』と言いたげだ。

 受け取った当人は喜んでいる。

 一体なんのファンアートを受け取ったのやら。

 気にしたら負けだな。

 きっと僕には関係ない世界なのだろう。


「センパイ!」

「こんにちは、アメリアさん」

「どうも、ご無沙汰してます」

「後輩ちゃんは猫耳つけてないのか?」

「私は壁の花に徹してますので、メインに対抗する気はありません」

「?」

「後輩はこういう子だからね。画面に僕とアメリアさんがいる時はやたら影に徹するんだ」

「よくわかんないけど、わかった!」


 防犯カメラに僕の姿が映ったからか、アメリアさんが迎えにきた。すでに猫耳をくっつけて準備万端みたいだ。

 衣装はにゃん族のものを少しアレンジして、肌面積が少なくなった様子。


 今日はこの格好で挑むと聞いた。

 僕の衣装も用意してあるとのこと。

 激しく御免被りたいが、世界の命運が僕たちの双肩にかかってると聞いて、仕方ないと諦めた。


「じいちゃん! 先輩きたぞ!」

「アメリア、公務中はプレジデントと呼べと言ったろう?」

「だってー」

「どうも、お久しぶりですプレジデント」

「こうやって顔を合わせるのは数度目か。前回は仕事に忙殺されて満足に会話もできなんだでな」


 前回の会談の件だな。

 無理もない。国の舵取りをする人間が、ゲストとゆっくりお話をしている暇がないことなんて見ればわかるからだ。


「いえ、国防の危機とあれば忙殺されても仕方ないでしょう。特に国民からの信用問題もありますし」

「貴殿は話が早くて助かる」


 すぐ横で「じーちゃんじーちゃん」呼びしてるアメリアさん。

 28歳淑女の姿か、これが。

 僕は彼女の5個上なので、見た目はどうあれ立派に大人の役目を果たしている。


 撮影中に飴を舐める姿が大人か? と問われたら疑問ではあるが、あれはファンサービスだ。

 今回の姿も含めて、全ては擬態ということが向こうに伝わっているのなら問題はないのだ。


「相変わらず貴殿は見た目と中身が伴わぬ存在だな。だからこそうちの孫が気にいるのだろう。あの子もそのギャップでひどく苦労したようだからな。うちの孫を末長くよろしく頼む」


 あ、だめだ。僕の誠意は全く相手に伝わってねーや。

 急にこの姿が恥ずかしくなってきたぞ。

 ピンク色のサメに丸呑みにされたパジャマを着ている。

 普段着にしてたから、すっかり見慣れた景色だと思ってたら、傍目から見たら変態に見られてるのかもしれない。

 後輩えもーん!


「先輩はその姿が一番です! 大統領は見識が曇っているようです」

「その言い方は酷くない?」

「あいにくと私に『可愛い』を褒め称える見識がないのは確かだ。28歳の孫娘の姿は可愛く思うが、君を紳士として扱うのと同様に孫と同じ目線で見れない。察して欲しいものだ」


 それは確かにそう。

 リスナーの反応を見たって明らかだ。

 しかし後輩は引き下がらない。

 大統領の前でも独自の理論展開で圧倒していく。


「時代は多様性ですよ、プレジデント」

「貴殿の言い分を鵜呑みにしたらジェンダーレスが流行りそうで怖いな。一応頭の片隅に入れておく。期待はしないでおいてくれ。おいそれと確約できぬ身分でな」

「さすがプレジデント、懐が深くいらっしゃる」

「そんなことよりじーちゃん、作戦なんだけど」

「その件も含めて話すか。場所を移そう」

「こちら、特製の衣装です。素材はとにかくこだわりました。その、先輩ちゃんのファンです!」

「あ、ありがとう?」


 大統領の秘書と名乗る方からにゃん族の衣装を貰い受ける。

 妙にモジモジしてるのが印象的で。

 その視線から後輩の同類であることが窺える。

 世の中の広さにゾッとしながら、ありがたく受け取った。


 案内してもらった場所は明らかに今までの内装と一転して粗雑になる。

 そこはどう見ても独房で、今回は捕虜にしたアメリアさんと、完全に人間に寝返った僕というスタンスで話が進むようだ。


 あれ、聞いてた話と違う。

 後輩にアイコンタクトを送ると、バッグの中から飴ちゃんを取り出す。それはもういいっての!

 今この場所は向こうから見えず、捉えられたにゃん族の生活音と言葉だけ拾えるみたいだ。


『にゃー、聞いてた話と違うにゃー』

『なんで同胞がこんなにいっぱいいるにゃん?』

『ここには同胞がいないってきてたにゃんけど』

『これじゃあ満足に狩りもできないにゃん』


 所詮猫、というべきか。

 割と自由にそこらへんで爪かきをしたり、寝転んだり。毛玉を吐き出している。

 人間の姿だなんて知ったことかと言わんばかりに自由で、普段どんな生活をしてるのか丸見えだった。

 けど総じて、女しかいないんだなと窺える。

 男が生まれないのか、はたまた狩猟が女の仕事なのか。

 どこのライオンだよ、と思わなくもない。


 対応する看守も皆女性で固めている。

 頭には猫耳を生やし、尾てい骨の先端に尻尾を揺らす。

 つまりは寝返ったにゃん族という設定だ。

 これは完全に向こうも意表をつかれた形だろう。


 何せ襲撃そのものは成功すると疑ってなかったのだから。


「これで向こうが頭いいだなんてよく見抜けましたね」

「我々と同じで、構造こそ理解はできぬが使えるレベルで知能は高いのだ」


 大統領が、秘書にあれを、と呼びかけて何やら準備させる。

 そこにあったのはうちの会社、にゃんにゃんプラントの装備転送用ブレスレットだった。

 それを支給されたにゃん族たちは、まるでそれがどんなものなのか知ってるように扱いだし、扱い方をチェックし出す。


 なるほどね。

 つまり向こうにも同じ技術、錬金術師がいるのだろう。

 それなりに熟練度の高い。


「これをどう見る?」

「どうとは?」

「同じ技術体系があの者等の世界にも存在しているとは思わないかね?」

「つまりはこういう仮説ですか? 今我々の扱うスキルこそ、本来は向こうの技術であったと」

「本当に君は話が早くて助かる。アメリアには何度説明しても『よくわからない』の一点張りだったからな」


 そりゃそうでしょうよ。

 あの子は戦うのを生業にしている。

 僕のような学者肌じゃない。

 今必要なことかどうかの判断基準。

 それを研ぎ澄ますだけで精一杯なのだ。

 直接命に関わるからね。

 それでも探索者として頂点を取れている。

 すごい人だ。


 けれどそれ以外のことは全くできない。

 この時代に生まれた人物の受け入れる宿命みたいなものだね。

 僕は真逆で錬金以外全くできないもん。


<コメント>

:つまりどういうことだってばよ

:向こうからしたら数千年前の技術を使い始めた劣等種族?

:なら侵略も容易いと

:なお、先輩という特異点

:先輩一人でこの世界の科学水準一変させたからな

:もしかして先輩は向こうの世界から来た技術者なのでは?

:ありうる

:今でこそ当たり前になりつつある転送装置だけど

:人を傷つけると使用不可になるセキュリティまであるかなー?

:支給されたのがNNPのものであるならな

:普通はつけない


 何やら僕をめぐっての陰謀論が加速しているね。

 なんだよ、僕が異世界出身て。妄想にしたって程度があるだろう? 僕はしっかりこの世界で33年生きてきてるんだよなぁ。


「先輩、そうなのか?」

「違うよ。アメリアさんまで与太話を鵜呑みにしないで。僕は僕、地球生まれ地球育ち。錬金術以外の話題には一切食いつかない。そんなおじさんさ」

「先輩はおじさんじゃないぞ!」


 あ、そこは認めてくれないんだ。

 急にぎゅっと抱きついてきて『おじさんはこんなにふわふわもちもちしてないぞ!』と謎の理論を展開してきた。


 確かに髭は生えなくなったし、肌ももちもちしてる自覚はあるけどさ。


 後輩は僕とアメリアさんがくっついてる姿を激写してるし。

 そのあとで大統領の秘書さんと何やらお話ししていた。

 どうやら後でその差余震を数枚譲る契約をしていたようだ。

 世間的に見ればおじさんとおばさんの接触しかないのだが。

 世の中どこに需要が映えるか分かりやしないね。


 計画はこうだ。

 僕が向こうの裏切った研究者となって向こうから話を聞き出す。ただしこちらの世界に来た時に大半の記憶の欠落があると添えて。

 唯一思い出したのは自身が錬金術師であったこと。

 人間に拾われ、人間の中で暮らしてきたので、思考は人間寄りになっていること。

 それを頭に叩き込んで会話に応じる。

 専用の衣装を着込んで。


 この衣装に袖を通すのが一番恥ずかしいのは内緒だ!

 なんで僕、生配信でこんな恥ずかしい格好をさせられてるんだろう。

 とほほ。



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