目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第24話 先輩、大型コラボする⑤

僕たちのアイテムだけでボスを倒してしまいそうな勢いだったが、まだウサギさんチームのアイテムが出揃ってないので待ったをかけさせてもらっている。


「装備面はそっちので間に合ってるだろうから、こっちはこう言うので勝負かけさせてもらおう」

「そちらは?」

「うちの工房じゃあ、まだ表に出してない切り札だが、魔法を使えない戦士を一時的に魔法使いにしちまう盾だな」

「盾ですか?」

「ちょいと仕掛けがあるんだが、相手の魔法を吸収してチャージ。ゲージ1本で下級魔法のエネルギーボルトを放つ。ゲージ二本で中級、ゲージ三本で上級魔法だ。ちょいとしたカウンター様だな」

「魔法使いになれるとは随分盛ったねぇ。魔法を吸収できるってだけじゃん。だったら吸収した魔法をスタミナや体力の回復に回せた方が大助かりだろうに」

「うっせーな! 俺のとこの工房じゃまだそこまでできねーんだよ!」

「ウサギ博士とのコラボで案外実現可能じゃない?」

「まぁ、ジジイの力を借りれば可能だろうが、それは同じ職人として悔しいからな」


素直じゃないね。コーディさん一人じゃジリ貧だろうに。

ローディック師の胸を借りるくらいの気持ちでいなきゃ。

せっかくのコラボなのに完全にワンマンになっちゃってる。


第一戦でほとんど自分の個性が活かせないコラボ品を出された上で惨敗したのが尾を引いてるのかな?

うちのガンドルフ、もといドリィちゃんのほうがまだ健闘してるのに。


我を通すのは構わないけど、チーム戦と言うことを忘れちゃダメだよね。

そんで使ってもらった後の感想は思った通りの酷評だった。


『ファイアウォールを突破する時以外では使えなくない? 荷物になるし、邪魔。1点』

『これならガンドルフの鎧のほうがまだマシ。2点』

『ブレスに耐えられない時点でオワコンでしょ。0点』

「くそ、こいつら!」


今回ばかりはドリィちゃんに軍配が上がる。

底辺の争いである。しかも同じ属性で合わせてくる時点で競合してることに本当に気付いてないのか?

それともドリィちゃんになら勝てると踏んだかな?


熟練度の高さは確かにコーディさんが勝るだろうが、如何せん発想にブレーキがかかりすぎてるんだよね。

需要を気にしすぎてるって言うの?


こういうのは相手の都合なんて気にせず、ダメならダメでヨシッぐらいの気持ちでいないとさ。

もっと奇抜な没レシピが出てくると思ってたのに、みんな真面目なんだから。


この中で一番気を衒ってるのなんて僕のアイテムぐらいじゃない?

かろうじてローディック師が食いついてきてるけど、まだ需要を気にしてるあたり脇が甘いよね。

まぁ僕と違って仕事でやってるから仕方ないと言えば仕方ないんだけどね。


「一応要望は聞いてやる」

『ブレスにも対応してくれたらワンチャン』

「もう炎耐性の鎧持ってるのにか?」

『分かってて作品被せたそっちの落ち度だよねぇ?』


今回もトールの毒舌が冴える冴える。

こいつもう敵なしだな。

なお、要望を聞いた上で改良はせずに評価を甘んじて受け取る様だ。

あんまり我儘を通すと、後輩から変なあだ名つけられるぞ?


「さて、次は私の番だな。ウチの相方の仇をとらせてもらうとするか」

「まだ死んでないが? おい、無視するなジジイ!」

「やれやれ、面倒をかけさせるでない」


<コメント>

:コーディ必死で草

:鍛治職人が不甲斐ないからコラボ前提の点稼ぎになってるんだよなぁ

:普通に欲しい一品なんだが

:この環境下だと微妙なんだろ

:先輩とドリィちゃんのコラボ作品が強すぎた

:三属性無効クラスになんで同属性被せたし

:無効と吸収は用途が違うだろ?

:俺は魔法カウンター盾、面白いと思うけどな

:先輩のアドバイスが煽りなんだよ

:真っ当なこと言ってるのに顔がムカつくからな

:風評被害で草

:顔は可愛いけど、言い方がムカつくのは同意

:先輩わからせタイムはローディック師にかかってる!

:実際にわからせるのは後輩ちゃんだから

:¥50,000/衣装代 これが一番先輩に効く


「やめろ!」


<コメント>

:地味に可愛くなってく衣装が効果的なの、まんま後輩ちゃんの策略なんよ

:今なら先輩の泣き顔が金で買える!

:¥50,000/水着希望

:¥100,000/抱き枕希望

:欲望ニキたちの支援で先輩のイキりがどんどん曇ってくぅー

:先輩虐助かる

:何故か先輩を曇らせる件に関しては咎められないんだよな

:バチクソ恨み節込めたら一発でNGなのにな

:このチャンネルの永遠の謎


本当に最近地味に肌面積が広がってきてるからやめてよね!

ハワイは暑いから涼しくていいって意味じゃ助かるが羞恥心が上回って逆に暑いくらいだよ。特に顔周りが。


それはそうとウサギ博士の出してきた代物は、魔道具だ。

専売特許での勝負で、先ほどの負けを良く理解してのコラボ前提のシステム。

やはり僕の良きライバルになれるのはこの人しかいないという程のもの。


「私の魔道具は蓄えたエネルギーを魔石に貯めて電池として使用する道具じゃな。相棒の魔法吸収とカウンターのコンボは面白いが、実際に使い道については場所を選びすぎるじゃろう。だったらそれを取り回し良くするのが私達魔導具技師の仕事だろう。ほれ、こちらに回ってきたこの盾に仕込めば少しは使いやすくなるじゃろうて」

「初手からコラボとしての判定で宜しいですか?」

「相棒の悲痛に暮れる姿を見てられんでな」

「わかりました。では使用用途を説明の上で転送させていただきますね」

「頼むぞ」


それで使ってもらった結果は。


『あ、すごい。ブレスにも対応してる。被弾前提の鎧とは違って、前にかざすだけでいいんだ。それで貯めた分は色違いの腕輪にセットしてスタミナ、体力、魔力の回復に回せると。え、神アイテムじゃない? 40点!』


アメリアさんは早速強気の点数計算。


『これで毛髪へのダメージを肩代わりしてくれたんなら100点出してたが、そんな上手い話あるわけないわな。50点』


キングはいつまでもハゲネタを引っ張る。

お前探索以外ではフサフサだろ?

それとも鉄板ネタか僕への当てつけか何かか?

最後の難関はトールだったが、案の定バレットに変換できないかという無茶振りをしてきたのでそれに対応すると。


『これはボマーを越えるね! 100点』


まさかのトータル193点越え。ここに42点を追加して235点である。

圧倒的リードをしていた僕たちを80点も超えていくウサギさんチーム。

トータル15点しか取れない個人競技を捨てて、コラボ特化にして功を奏した形だ。


「ああっと! ここでまさかのウサギさんチーム逆転ーー!! ネコさんチームピンチです! 抱き枕と着せ替えフィギュアがアップを始めてしまうかー?」


そんな恐ろしいグッズ販売を企んでたの?

早く三回戦を始めなきゃ。


<コメント>

:後輩ちゃんの煽りが一番先輩を追い詰めてるの草

:俺たちの燃料投下が先輩の弱点だからな!

:普通逆なんだよ

:この二人が普通なわけないだろ!

:そう言えばそうだった

:トール以上に後輩ちゃんの欲望がダダ漏れ

:俺たちの燃料投下で俺たちの需要が満たされるんだぞ! いい環境じゃないか

:グッズの求めてる内容がオタク向けなのに目を瞑れば需要は叶えられてるな

:大半のファンは先輩の手製ポーションを欲しがってるけどさ

:そういう奴に限ってお布施しないから放っておけ


「なんて恐ろしい企画なんだ!」

「良かった。逆転して本当に良かった」

「これはお互いに負けられんのぅ?」

「次だ次ー! さっさとソイツぶち転がして次に行って!」


画面内で探索者チームを煽る。

要望を通したトールによってその場から動かずともブレスや魔法を封殺されたでっかいミノタウロスは解体されて見事トールの研究所送りになった。

アメリアさんが切った側から転送バレットで追撃。アメーバ君を置き換えて地味に再生してくる腕を再生不能にして素材を持ち帰る切り崩したのが大きいよね。


キングに至っては投擲型転送アイテムで移動しながらアメーバ盾で殴りつけに行って攻撃に参加してた。

盾役が完全に不要になるくらいの一転攻勢。

中層ボスってこんな簡単に倒せたっけ? ってくらいあっさりと終わった。


まぁ僕たちの尊厳をかけた勝負によって生み出されたアイテムを使っての勝利だ。

よくやった! 次も頑張れよと言いたい気持ちになる。

本当はこれでクリアでもしようもんならそのままおしまいでいいのだが、僕たちはポイント勝負で負ければ罰ゲームが待っている。


後輩肝入りの罰ゲームだ。

今から嫌な予感がムンムンしている。


このダンジョン、中層を超えた先は魔境としてあまりにも有名だった。


だった筈なんだけどね……画面の向こうの探索者達はそれはもうイキイキと狩猟者よろしく狩まくっていた。

まるで自分より弱い獲物を仕留めるハンターの様な動きだ。

おかしいよね、確かここは人類が至れば即座に撤退を選択肢に入れるくらい危険な場所なのに。


やっぱり僕の転送陣でいつでもお家に帰れる安全性の確保がそのブレーキを緩めている気がしてならない。

なんにつけてもマジックポーチ持ちのトールの懐が潤ってるのが気に食わない。


「トール、持ち帰り素材のいくつかは僕たちに還元してくれるんだよね? 僕たちのアイテムでそれぐらい活躍してるんだもんね?」

『そう言うのは無事帰れたらっすね。こっちは命をベットして人類最高峰のギャンブル中っすよ? 安全圏で観戦してる職人達に現場の気持ちはわかんないっすよ』


<コメント>

:特上寿司を頬張りながら何言ってんだこいつ?

:お前のポーチ、デリバリー可能なのマジ有能だよな

:先輩のアイテムでいつでも帰れるくせに

:これだけ無双しておいて、素材は還元しないつもりか?

:嘘だろ、これだけ我儘通しておいて……さらにむしり取るつもりか?

:SSランクの素材ってまだ出回ってないだろ? 査定中なんじゃね?

:売りつけようにも用途がなきゃゴミだしな

:どうせなら高値で売りつける為にも職人に渡せば一石二鳥なのに

:鑑定含めてこのメンツ以上の相手を雇うといくらかかるか考えた方がいいよ


『……………、やっぱりそっちに提供するっす』

「このイベントの趣旨にようやく気がついたか。職人と探索者が一同に解する企画。探索者側も用途が不明なアイテムをその場で僕たちならこう使う、みたいな企画であることを!」


<コメント>

:全く想定してなかったの草なんよ

:むしろタダで鑑定してもらえる企画だと思えば良心的

:一人だけ儲けようとしたのが仇になったな!

:先輩ならゴミクズでも上手に利用するって安心感がある

:炸裂玉とか溶解液とかな

:先輩の呼びかけ以外でこのメンツって集められんの?

:先輩以外みんな忙しいから無理だろ

:先輩だけ暇を持て余してんの笑う


「別に僕は今すぐこの配信切ってもいいんだが? 働けと言うなら働くし」


<コメント>

:あ、ほら拗ねちゃっただろ

:無職だのニートだの言うのやめろよ

:先輩は未熟な俺らの舞台を整えてくれてるんだよ

:自らの羞恥心を犠牲にしてな

:それはただの後輩ちゃんの趣味だぞ

:衣装替えに先輩の意思は介在してないからな

:むしろ先輩にやる気を出させる為の起爆剤が衣装だから

:そんなの着ない為にも頑張る、の間違いだがな

:結果やる気さえ出せばいいのよ

:歪んでやがるぜ!


僕の気持ちを他所に、探索者チームは易々と下層を進む。


『あれ、さっきの見たことない動きした。特殊個体だった?』

『アポート運輸がチートすぎて確認できてないっす。解析班、頼めるっすか?』

「誰が解析班だアホタレ。いいから素材をもってこい」


特殊個体と遭遇しても『なんか変なところあった?』ぐらいに対処するので今までの戦闘とは比べ物にならない高揚感に包まれてるだろう。

やっぱりプレゼントするのはやり過ぎたか?

僕の懐は傷まないようにアイテムは使い捨てにしたが、他のみんなはワンオフの一点物。


企画終了後は予約が殺到するだろう。

その前に販売はしないと言う約束を交わしてるので、みんながそれを体験できるのはバトルウェーブの中だけだ。


あの探索者も愛用してる! と言う宣伝文句が欲しいだけの企画だからね。

トールに現場に赴いてもらったのは、実際に調整する際に威力極めとかの立会人になってもらいたかったから。

なのに我儘を通そうとするのはあいつらしいと言えばらしいが。


<コメント>

:我々の探索チームは世界一ィイイイイイイ!!

:実際チートアイテム手にすりゃな

:いや、正直Aランクがもらっても持て余すだろ?

:このチームの凄いところは常にどうやって攻略するかを考えてる所だな

:反骨精神の塊みたいな奴じゃなきゃSに成れないから

:Aまでは優秀なら誰でもなれるよ

:誰でもは言い過ぎ

:探索者組合の飼い犬がAってイメージ

:Sは脱走して野良になった野犬だな

:それは草

:言い得て妙

:日本にいたらいつまで経ってもSに成れないから妥当

:日本はケチなだけ

:自分より偉くなるシステムは認められないだけだよ


日本の過ちはさて置き、探索者チームはあの時撤退したヒドラと再び対峙する事となった。

彼らの瞳には逃げると言う選択肢は入ってない。


チートアイテム入手によって過剰分泌された脳内麻薬が、どこまで通用するかを試したがってウズウズさせているといった感じだ。

まさか最下層まで潜るだなんて誰が思っただろう。


あの時とは違って首は五本になっていた。

三本減ったが、脅威度は未だ未知数。楽観視できる相手ではないだろう。

首ごとに操る属性が異なるのだ。

相手は重力さえ操ってきた。

つまりはピンチということで、


「じゃあ我々も三回戦始めよっか!」


<コメント>

:先輩の声がウッキウキで草

:もっと探索者の安否を心配してあげて

:重力の対処法か?

:それを乗り越えられたらもうSの領域じゃないんよ


こうして予想以外の苦戦を強いられることになった僕たちは、罰ゲームをかけた三回戦へと突入した。負け分はここで取り返す!

重力? そんなもんこっちのアイディアで覆してやらぁ!

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?