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第23話 先輩、大型コラボする④

思いの外時間がかかったが、ようやく第二戦を始められる。

苦戦を強いられている、と言うよりは単純に攻略に手間取りそうと言う部類だ。

その問題とされる部分がモードチェンジによる状態の変化。


体の色が青い時は物理攻撃と突進行動を繰り返し、近接が得意。

防御力はすこぶる高く、アメーバブレードでもダメージを与えられるかどうか。反面魔法は効くので前回の攻略時はそこまで苦労しなかった。


対して今回はピクニック感覚で来ている。

中層に降りてくるのも想定外なのに、そのボスまで相手取るなんて予定外にも程がある。

と言うかもっと手早く終わらせるつもりだったんだけどなぁ、どうしてこうなった。


そしてモードチェンジで体が赤くなると遠距離特化型になる。

周囲に炎の壁を張り、全体攻撃の火炎、氷結、落雷のサンセットをランダムに打ってくる。これらの攻撃は毛根を犠牲にしてキングが耐えてくれるが打つ手なしといったところだ。


僕たちに求められるアイテム、武器はそれらを打破するものが最適解だとわかっているのに、どうも僕の錬金術師の欲望はそんな最適解なんて馬鹿らしいと勝手に解釈を捻じ曲げた。


「では第二戦、はじめるよぉ! まずは僕から。こいつは魔道具の部類だね。投げ込んだ先に人体転移、要は置き換えを図る道具だ。緊急回避にもってこい! こいつを遠くに投げればそこに自分の体を移動させられるアイテムだね」


<コメント>

:またピーキーな代物出して来たぞ!

:転送できるのは必ず人である必要はあるんですか?

:それ、それが知りたい!


「いい意見だ。もちろん対象物はアイテムでも可能だよ。転送置き換え君は使い捨てアイテムの部類なので連続使用は3回までと決まってる。炸裂玉を登録して任意のタイミングで置き換えたりもできるよ」

『それはバレットタイプに変更できると?』

「してもいいけど、一回使用してみてから要望を聞きたいかな。例の通り、表に出すにはまずいタイプのレシピだから」


<コメント>

:そんなの表に出さないで

:エリクサーすら素材にする奴だぞ! 倫理観狂ってて当たり前

:自分で作り上げたものだしいいだろ?

:それをいったいどれだけの人が求めてたか知ってて同じこと言えるのか?

:個人利用してる先輩もやばいが、蘇生機能ない奴だろ?

:先輩に頼る方がどうかしてる

:先輩だぞ? 作ってくれって頼んでも断るだろ

:この人金で靡かないからな

:よく会社に勤められてたよ

:たまにマジになる奴が多くて困るよな

:それ。もっと肩の力抜けよ、遊びだぞ?

:既に実践もアイテム提供も遊びの規模じゃないんよ

:最終的には遊びに活かされるんだよ!

:順番逆だって、ほんと!


早速使ってもらった。


『任意のタイミングで移動できるのはありがたいね。空中で身動き取れない時はこれで回避も可能なのは嬉しい! 5点!』

『これは神アイテム。一度根を張ると正直移動が困難で行けないが、部下に持たせて欲しい場所に任意に移動できるだけで戦略の幅が広がる。5点』

『打ち出した先に転移できるのは面白い試みだ。バレット型なら文句ない。俺はサポーターだから荷物はなるべく減らしたいんすよね。0or5点』


またトールのわがままが出て来たのでバレット型に改良して渡す。

もうこいつ、ただわがまま通したいだけだろ! そんな気さえして来たぞ。


『うん、いい性能。これなら15点。やっぱりボマーは腕いいよね。なんで探索者辞めちゃったの?』

「コラボではないので5点ですね。トータル15点でネコさんチームは61点と大きく躍進!」


余計なチャチャが入る。

この子は是が非でも僕に罰ゲームを受けさせたいかのような気配を匂わすよね。

なので話を続行して気持ちを切り替える。

僕が日本に固執しなくなった概ねの理由は、天涯孤独且つ探索者としての道が断たれてるからだ。


僕の両親は優秀な錬金術師であったが、国に忙殺されたと言っても過言ではない。

同様に仕事にのめり込むタイプではあったが、僕と違って同僚にも恵まれて会社の経営もしてた。

ある意味では勝ち組錬金術師だったけど、行政の無茶ぶりに付き合わされて会社に寝泊まりすることが多く、一人っ子だった僕はよく母方の祖父の元に預けられた。


だから早く自立したくて、探索者を目指した。それでも錬金術師を選んだのは血筋だと思う。

僕は両親みたいにならないぞって、どこかでそう思ってたんだけど……まさかあんな事になるとはね。


「そんなの、採掘場吹っ飛ばして出禁になったからに決まってるだろ」

『草。君ならやると思った。因みにどこ吹っ飛ばしたの?』

「いや、言えないだろ。出禁になるくらいには重要な場所だよ」


当時のランクはCに毛が生えた程度だった。

戦闘職じゃないと言うだけで荷物持ちとしか扱われなかったが、ゴミ素材を豊富に研究に投資できた。

無料で入手できるのだ。

研究所で研究に没頭してるだけでは得られないインスピレーションだって湧いた。

自分でも探索者は意外と相性いいと思ってたんだけどさ。


<コメント>

:どこ吹っ飛ばしたんですかね?

:前ミスリルの採掘場って言ってなかった?

:これはきっと他にもやってるな

:ダンジョン出禁とか聞いたことないぞ?

:せいぜい探索者の地位剥奪くらいやろ

:それでも重いんだよ。戦闘選んで剥奪は日雇い土建の仕事しかないぜ?

:死ぬよりはマシだよ

:人間ブルドーザーでございって? 笑えねぇよ


「もう時効なのでそれはそれとして、次はガンドルフな?」

「この流れで俺に振るのか?」


<コメント>

:先輩の次ってだけで気の毒だな

:垂れ耳ワン娘に胃痛差分があるの細かい

:なんでここまで表情差分作り込まれてるんですか?

:後輩ちゃん、いったいどこからどこまで仕込んでたの?

:全てが手のひらの上だろこれ

:もう全員分罰ゲーム仕込んでるまで俺はみたぞ!

:流石にそれは……ないよね?

:後輩ちゃんならノリノリで先輩のグッズつくるだろ?

:この中では一番優勝候補なのにwww

:それが後輩ちゃんクオリティ


過去の思い出は仕舞い込み、ガンドルフの防具が提供される。


『ブレスを弾けない上に、脆い。ゴミ、1点』

『流石に盾職の俺でもこの出来は……いや、おやっさんの性能からしてみたら最高峰なのはわかるよ? けどボマーのと比べちまうと……思い出補正込みでも3点だな』

『いや、俺っちにこんなクソ重防具死ねって言ってるようなもんでしょ。0点』

「俺はもう鍛治師を辞める!!」


<コメント>

:草

:草

:元気出せよガンドルフ

:性能教えて


「今実物をスタジオに送る。そっちで説明頼む」


ガンドルフから送られて来たのをテロップで流す。


<装備:防具>

 赤龍のスケイルアーマー+7

 防御力160

 灼熱耐性+4

 氷結耐性+2

 電撃耐性+3

 必須筋力:80

 必須耐久:60


「うん、ゴミ」

「俺を殺せ!」


<コメント>

:え、普通に強ない?

:これをゴミ扱いとかwww

:鍛治熟練度180の装備をゴミとは贅沢だなwww

:これが現場では4点しか貰えないのどんだけ魔境なのよ

:普通に欲しいんだけど

:予想の斜めすぎる先輩のアイテムが頭おかしいだけでこれが普通です

:元気出して、ガンドルフ。キングは高評価だから

:思い出補正なんだよなぁ

:先輩の盾に寝取られてる件

:世界でも最高クラスの防具だぞ、これ

:まぁ他のアイテムと比べて欲しいかって言われたら……

:それを言っちゃあおしめーよ

:性能だけでみたら先輩の装備破格だから

:ハゲることすら過去のことにされてんの草

:実際に何回も命救われたら信頼度は爆上がりよ

:仕事のお供だもんな、もう

:装備にNTRは笑うのよ


「強化を途中で日和ってる時点で情熱は感じられないよね? +2って何? プププ」

「どこかの誰かと違って、3つとも+9とか頭のイカれたことはできないんだよ! うちは量産専門だからな!」

「ぷぷー、負け惜しみ乙〜」

「私は鍛治に明るくないんですが、実際にどれくらいの無茶なんですか? ドリィちゃん」


後輩の質問に、ドリィって誰だ? と聞き返そうとしたガンドルフが自分のことかと勘付いて冷や汗をかく。

ちゃん付けもさることながら、変なネーミングをつけられたことも理解の外にあったようだが、現実には彼女の頭の中で罰ゲームが始まってるのだろう事がこの時点でお分かりいただけるだろう。


<コメント>

:ドリィちゃんってガンドルフのこと?

:ガンドルフって呼びづらかったからこの姿の時のネームはドリィか

:覚えた

:これ職人に取ったら最大の侮辱だろ

:店の看板を曲解されたようなもん

:逆に考えればウケの良いマスコットを提案してくれたと思えばワンチャン

:ワンちゃんだけにってか?

:誰が上手いこと言えとwww


「くそ、適当言いやがって。これは鍛治師にとっちゃ常識だが、強化にはコアを入れるための枠が開く場合がある。普通に作れば枠はなくて当たり前、枠が空いてようやく一人前って感じだ。そんで枠を三つ開けるとなると全ての素材を品質Sに揃えて、更には品質をSで仕上げる必要が出てくる。これを生産ラインに乗せるのがどれほど無茶無謀か分かるか?」


<コメント>

:確定Sなのか、コア強化3枠って

:品質Bで1、Aで2、Sで3て覚えとけばいいよ

:その上で一つの強化ごとに成功率は下がっていく

:一個目は+7までは10%あるが、二個目からは10%を下回る

:それ、三個目だと常にお祈りか?

:そうだよ

:強化つければ値段つけられるけど、失敗するとゴミになるから

:それって装備そのものが?

:装備はできるけどゴミみたいな値段で投げ売りされるよ

:枠が潰れてる時点で価値なしだもんな

:せちがれぇ!

:俺は市場でコア三個付きなんてまず見かけたことがないけどね

:それを考えると石化剣てやべー性能してたんだな

:ハゲシールドも十分やばいよ

:お前らきちんとした名称で呼んでやれ

:あれって正式名称あったっけ?

:効果が体を表してるからなぁ


「僕は錬金術で常に祈ってたのでコツみたいなのを見つけたから+9まで成し遂げられたんだ。つけた属性素材が余ってたと言うのもあるけどね!」


<コメント>

:?

:どう言うこと?

:コア強化って+1するごとに素材消費するよ

:元となる素材+錬成用の宝石も使うから倍率ドン!

:は?

:じゃあ累計27個の素材投資してるんか!

:単価幾らか気になる!


「偶然錬金術で生み出したものだから詳しくは知らないけど……まぁ狙って作るとなると面倒且つ高額なのは免れないよね。レシピに万能薬が含まれてるから」


<コメント>

:おい!

:なんてもので作ってるんだ!

:いつものwww

:いつもので済まされないんだよなぁ

:ドリィちゃん、こんな人と比べられてんのか

:かわいそう

:¥50,000/ドリィちゃんの衣装代

:¥100,000/新しい衣装で涙をお拭き

:スパチャニキ、欲望がダダ漏れで草


「スパチャありがとうございます! ドリィちゃんの新衣装をご期待ください」


<コメント>

:死体蹴りやめろ!

:平常運転


「じゃあ、コラボとして重さを鉄に変えて日和って止めた強化を引き継ぎますかね〜、あらよっと!」


<コメント>

:軽々とやるな!

:素材先輩持ちなん?

:最初から費用は全てこのチャンネル持ちだぞ?

:はえ〜お金もちぃ

:まともに仕事してればこんな企画通してる場合じゃないくらいには忙しいよ

:頼まれたってしないくせに、死体蹴りにはノリノリで参加してくんの草

:仲がいいね!


「でけた。後輩、テロップで教えたげて」

「もうですか?」

「おかしい! 俺はこれを作り上げるのに3日以上かけたんだぞ!? ほんの数分で終わられてたまるか!」

「できちゃったんだから仕方ないじゃんね」

「ぐおわーーー!」


ドリィちゃんの悲鳴を聞きながら強化済みの装備の性能が明らかにされる。


<装備:防具>

 赤龍のスケイルアーマー+9

 防御力230

 灼熱耐性+9

 氷結耐性+9

 電撃耐性+9

 必須筋力:120

 必須耐久:120


<装備:首>

 移送のネックレス+9

 筋力+100

 耐久+100

 瞬時に赤龍のスケイルアーマーを呼び出し、装着する。

 任意にオン/オフできる。


早速現場で使ってもらう。

コメント欄は荒れに荒れてるので見ないことにした。


『はい、神。20点』

『くそ、絶対にこれに頼ったらこれ以外考えられなくなるってわかってるのに、抗えねぇ! 20点』

『あははは、これこれ、こういうの! ボマーは分かってるね。装備する人の気持ち、50点あげちゃう!』

「おい! 50点は汚いだろ!」


ここでコーディさんから審議の声が上がる。

まぁ気持ちは分からんでもない。

前の二人が以前トールのつけた20点を満点だと思ってるからこその最高評価。

それが塗り替えられたのだから誰だって憤る。

だって次からは50点て言い出すのが火を見るよりも明らかだし。

僕も流石にやりすぎてると感じてるよ。

でも後輩からの罰ゲームは蓋を開けるまで分からないので点数は高いに越したことはないよね。


「えー、審議の結果。コラボ中の点数つけは上限なしとさせてもらいました。以降は審査員のお気持ち一つで点数が変動しますことをお約束します。これによりネコさんチームはトータル155点となります!」


<コメント>

:一回戦の点数幾つだっけ?

:46点だぞ

:伸びすぎわろえない

:完全にトールの匙加減ひとつなの笑う

:それなー

:審査員兼業務提携先の社長だぞ?

:最初からトールの接待みたいなもんだろ

:ほんそれ

:実際に性能はダンチだし貰えると分かってたら俺も欲しい

:これ絶対億じゃ効かないやつだよな?

:億で買えたらいいね^ ^

:先輩の使った素材が何かわからないの本当不吉


さて、この急場をウサギさんチームはどうやって凌ぐか見ものだね!

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