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第20話 先輩、大規模コラボをする①

「よぉーっす! 考えたら負けと悟った先輩とー?」

「いつも以上に楽しそうな先輩の笑顔で白飯三杯は行ける天の声こと後輩の錬金チャンネル! 始まりますよ〜」


<コメント>

:きtらああああああ

:きちゃあああああ

:わこつーーー

:きたあああああああ

:待ってた

:先輩、なにがあったし

:チャンネル登録数1億人突破おめでとぉおおお!

:いつの間に!?

:マスコミたちの一件で目減りしたんじゃなかったっけ?

:増えすぎなんだよなぁ


『そりゃ学会にとんでもない置き土産持って来たらな。米国にマークされちまってたちまち注目浴びたんだよこのチャンネルも』

「あ、おい! 紹介する前から出てくるな」

『お前に進行任せるといつまで経っても俺の紹介疎かになんだろ?』


<コメント>

:ガンドルフ! ガンドルフじゃないか!

:コメントにいないのは久しぶりだな!

:なんでこの人日本人なのにガンドルフって呼ばれてんの?

:コードネームだよ

:コードネームってwww 二つ名な?


「と、いうわけで今日はレシピの公開ではなく特別企画をやりたいと思います」

「ガンドルフさんの他にもう三人、ゲストをお呼びしています。続いてどうぞ〜」

『オーーッス! アメリアだぞ!』

『英国技師連のコーディだ。今日はよろしく頼む』


<コメント>

:アメリアちゃんこんちゃー

:もうレギュラーだよな

:チャンネル側で既にモデル作って動いてるのすごいよな

:ガンドルフは犬のぬいぐるみで、コーディはアヒルのぬいぐるみ?

:無駄に3Dなの嫌味だろ


『この姿ではお初じゃな? ウサギ博士だ』


<コメント>

:誰?

:わかるのは見た目からは想像できないくらい渋い声だっつー

:先輩と同類のVかな?


「ようこそお越しくださいました、ローディック師」

『うむ。今日はよろしくな』


<コメント>

:げぇえええええええ!!

:なにしてるんですかローディック師!

:後輩ちゃんの仕業か!


「失礼な。私が呼びかける前からVデビューしてましたよ!」


<コメント>

:なにがあったんや、ローディック師に……

:先輩に感化されたのは間違い無いな

:責任とって、先輩!


「あーあー聞こえなーい。それでは今日の特別企画を始めたいと思いまぁす!」


<コメント>

:こいつ……このメンツでゴリ押しする気か?

:いつもの

:平常運転なんだよなぁ

:メンツがすごいんよ

:コーディさんて知らないけどどんな人?

:ああ、日本じゃ知られて無いか


『俺はヨーロッパ連合の鍛治師だな。一応トップを張らせてもらってる』


<コメント>

:草www

:ローディック師以上にヤバい人きた

:言うて熟練度は?

:先輩も大概だからなぁ


「コーディさんは230あるらしいよ! すごいよねぇ! 今日はこのメンツでBWで使えそうなアイテムの開発してみる? って企みがあって、その実践をアメリアさんにしてもらおうって企画なんだ」

「今回アメリアさんには事前にダンジョンに赴いてもらってます。サポートチームはいつものメンツですねー」


<コメント>

キング:おいおい雑だな!

トール:チィイッス!

:この2人がオトモってことは?

:逆、逆!

:ダンジョンをおまけ扱いすんな

:なんでゲームの方を優先するんですかねぇ?

:まだ暴れ足りないのかよ

:詳しくないけどBWってバトルウェーブ?

:そうだぞ

:アメリアちゃんと先輩の二人でノーマルとハードをクリアして今デスマーチやってる

:2人で!?

:いつ聞いても頭おかしいだろ

:推奨人数30人を二人で回すな

:ノーマルでさえ6人だぞ!

:ハードは15人だっけ?

:有り余るパワーと技術なら二人でクリアできるって業界を騒がせてるな

:ちなみにアメリアちゃん、今どこにいるの?

:難易度デスマーチの参考にするってことは……


『SSランクだぞ!』


<コメント>

:例の爆発事故の現場か!

:爆発オチなんてサイテー

:ヒドラ捕獲作戦みたいな?


「と言うよりは道中の安定化だな。実際に獲得素材をその場で共有して自分ならなにが出来るかを提案して随時提供する感じだ」


<コメント>

:え? 素材をどうやって全員で共有すんだ?

:先輩がハワイ、アメリアはアメリカ、ガンドルフは日本、ローディック師はオーストラリア、コーディはヨーロッパだろ?

:離れすぎてて草

:トールのマジックバッグを量産したのか?


『それ以上にやべーのを作ったんだよこいつ』

『正しくはここまで引っ張ってようやく発表したって感じだろうな。だが、こいつがあるだけで俺たちの武器は現場に即座に揃えられるぞ?』

『面白い試みでな、私も参加させてもらった訳だ』

『アタシの元にも即座に届くぞ!』


<コメント>

トール:トール宅急便ただいま運行中っす

:また先輩やらかしたんですか?

:いつもの

:いつもの

:この間の若返りポーションも大概だったのにその上が出たかー

:制作難易度は?

:学会に発表するとなると100越えか?

:日本ならともかく、米国だと普通に100だと相手にされないぞ

:じゃあ200?


「350でぇす!」


<コメント>

:殴りたい、この笑顔

:先輩の熟練度超えてるじゃないですか!

:誰にも作れないの来た!

:作れるなら作ってみろってやつで草

:先輩もワンチャン失敗するやつ

:熟練度320が350に挑むって……

:成功率1%もなくて草

:それに挑み続けるのが生産だからな


「320とかいつの話? 僕の熟練度330だから」


<コメント>

ロディ:学会で話聞いた時はまだ成長するのかよコイツって思ったよね

:目の上のたんこぶ扱いで草

:そりゃ錬金術師やってりゃ先輩は目の上のたんこぶよ

:錬金術師はミツビシじゃないっけ?

:魔導具技師からも注目されてるし、鍛治師も目の敵にしてるぞ

:目の敵は草


「そんなわけで企画スタート、モンスターを見ながら手持ちの素材でどんなアイテムを思いついたかそれぞれが提案、武器やアイテムの提示をします」

「一戦目はグレーターセンチピード。でっかいムカデです」


<コメント>

:こいつ固くて厄介なんだよな

:お前SSランク入ったことあんの?

:きっとBWの話だぞ

:そうだよ?

:デスマーチクラスやってる奴は厄介で済ませるのか

:足が多くてキモい、生理的に無理

:顎も強いぞ。あの巨体だしな

:アメリアちゃん達が攻略してすぐ、BWのモンスターに実装されたからな

:流石に出てくるのはデスマーチクラスになってからだけど、今までの戦略が通じなくて大体詰んでる

:厄介の意味が死なのリアルなんよ

:まぁ現実じゃ足も顎もトールの銃撃でなんとかなるから

:まじ便利だよなぁ、カチカチスライム君

:まだチャンネルで公開してない時点で制作難易度100以上だぞ!

:それなんだよなぁ


「では思いついた人から解答をどうぞ!」

「僕はやっぱりこいつかな? トラップアメーバ君。トールの持ってる銃で天井に向けて発射。真上から殺傷性の高い酸液ボディを落下。甲殻を溶かしてくれるんだ」


<コメント>

:それ、素材まで死ぬやつでは?

:草

:いつもの

:先輩、その思想から離れないといつまでもダンジョンから締め出し喰らいますよ?

:キモくても上級素材なんでそれ


「チッチッチ、甲殻ってことは厄介な足も狙って破壊できるんだよ? 僕は命中率が悪いから天井に打つしかないけど、トールならきっと活用できると信じてるよ!」


<コメント>

:人任せにするな!

:いや、それでもこのアイディアは有用だぞ?

:それ。一度に射出できる量を絞れたら化け蟹の甲殻もワンチャンいけるかも


「以上、先輩のアイディアでした〜。一抜けした先輩にはアイスキャンディをプレゼントします。それ食べてお待ちくださいねー」

「いやぁ脳みそ使うと糖分が恋しくて困るね。ぺろぺろ」


<コメント>

:うっ

:なんでよりによってアイスキャンディなんだ

:くそ、後輩ちゃん狙ってるな?

:練乳みたいな色で草


「練乳が練り込まれてるらしいよね。あ、垂れた」


口元からたらり。

アイスキャンディはこれがあるから厄介だ。


<コメント>

:アウトーー

:先輩、わかっててやったら犯罪ですよ?

:中身おっさんなんだよなぁ

:なら大丈夫かぁ

:おっさんでも色々アウトだろ

:おっさんがアイス食ってるだけだろ? なんか問題あるか?

:側が美少女

:もう一人美少女いるけどそっちはおじいちゃんだぞ?


『次は俺かな? 武器屋の作る武器って言ったら殺傷力特化、切れ味のいい太刀鋏しか思いつかねぇな』


画面内で犬の着ぐるみが勢いよく挙手をした。

ガンドルフだ。

本人はそこまで大袈裟じゃないだろうに、画面内のキャラは過剰なまでに尻尾を振っている。

それを見た隣のアヒルがガーガーうるさい。

ウサギ博士までうーむと顎をさする。

一問目から難しすぎたかな?


「根本をバッサリ切るやつ?」

『相手の硬度にもよるが、胴体をバッサリ行くやつだな』

「SSランクのモンスターに通用する?」

『難しいだろうなぁ、お前の作った石化剣の石化機能を抜けばワンチャン』

「人の技術にタダ乗りするのはよくないと思いまーす」


<コメント>

:うっ……

:うっ……

:アイスキャンディ咥えたまま喋らないで!

:いいぞ、もっとやれ!

:もっとください、病弱の息子がいるんです!

:その息子今頃元気いっぱいじゃね?


コメント欄がうるさい。

アイスキャンディ食べる時なんて大体こんな感じでしょ? 

しゃりしゃり噛んだらダメージを受けたみたいな声が多く上がった。

キモいなぁ、こいつら。


「後輩、変なコメント消せない?」

「特に変なコメントは見えませんが?」


うっそだー。

僕そのものが気持ち悪がるのはヨシって事?

ちなみに切り抜きでも流れたのか登録者数はぐんぐん伸びてる。

おかしいよこんな世界! レシピ以外で僕が目立つのって地味にダメージ受けるんだからな?


<コメント>

:ASMRでくれ!

:俺にもくれ!

:切り抜きから来ました!

:めちゃくちゃ誤解されてるけど、この人博士です

:米国の学会で博士号取ったんだっけ?

:見た目が可愛けりゃいいんだよ! 言わせんな恥ずかしい


「ASMR販売はまだ考えていませんが、登録者数達成イベントは考えてます。またアイテム配布をしたいと思いますので、それまでに再販希望のアイテムを書き込んでこちらまで送ってくださいねー」


画面内にデカデカと告知と再販希望アイテムの詳細を書き込むシートが出される。

それらは40秒ほど画面を制圧した後、スッと消えた。


『おい、俺のアイディア提示時間より長いのやめろ。俺のアイディアが取るに足らないみたいに思われんだろ?』


犬のガンドルフが吠えた。

それを制止するようにアヒルがバサバサと羽ばたく。

コーディさんだ。


『同じ武器屋として恥ずかしい真似はやめてほしいな。俺の提案はこれだ。あんたの単分子ブレードと似たような構造だが、小型化は難しいので大剣だ』


<コメント>

:それでも自作できるのはすげーよ!

:ガンドルフだって日本じゃ刀匠みたいに言われてんのに、その上をいくか

:熟練度が50も違ければ雲の上よ

:先輩は鍛治熟練度低いもんなぁ


「あれは鍛治技術より錬金と魔導具の融合なところあるから。錬金術で作った振動石というのを媒体に武器に固定。魔道具で手元はブレないように時空間を切り取って定着、あとは鍛治で研いで鍛えて完成。付与はおまけだ」


<コメント>

:構造がエグい

:それ教えちゃっていいやつ?

:三つ鍛えたっていうより、流れで勝手に鍛えられてて草

:ファーストジョブは自由に選べるけど、セカンド、サードはそれぞれ熟練度100に達してないと選べないからな

:セカンド選ぶのにファースト100、サード選ぶのにファースト200、セカンド100だっけ?

:普通は一種類極めるだけで一生を棒に振るうんだが

:なんでこの人専門分野外をこうも高い水準で極めてるんだって思ったら

:セカンド何選んだか知らないけど、それ200にしたら四つ目も可能って……コト?

:先輩だけジョブが四つ目に届きそうなの草なんよ


「四つ目は悩み中。セカンドは魔導具だが、最近200に到達したぞ。というか学会で発表した制作難易度350の奴はジャンル的には魔導具だしな。僕はそれを錬金術の括りで見てたが、錬金術より魔導具の熟練度がぐんぐん伸びた。こういうこともあるんだなぁ、と思うなどした」


アイスキャンディは棒だけになったので提供された皿の上に置いた。

ご馳走様。キモいコメントも僕の錬金術アピールが流れると自然淘汰されるようになった。


後輩がそのままで、って言ってたのはこういうことだったんだろうな。

僕は先のことまで読めなかったので、ついつい苛立ってしまったが、もう少し冷静さを鍛えなきゃいけないか。

精進しなくちゃ。


<コメント>

:既に届いてんのかいwww

:ねぇなんでこの人Vやってるの? ジョブ四つ持ちは史上初では?

:三つだって居ねぇよバカ!

:ローディック師は三つ持ちだぞ?

:そう言えば今日のゲストにいたじゃん

:ウサ耳ロリだから忘れてたwww

:金稼ぎ以外の何かがあるんだろ

:後輩ちゃんの趣味だろ?

:違いない!

:本人は表に出る気0だっただろうし

:先輩を首にした会社無能すぎる

:今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?


『これがアイディアを出したのに置いてかれる気持ちか。祖国では味わえない体験だな』

『コーディさん、涙拭けよ』


犬がアヒルにハンカチを渡してる。

日本や英国では引く手数多の職人だって話だけど、悪いね。このチャンネルでは僕の優先順位が高いんだ。後輩が僕を隙あらば推すからね。


「いや、僕以外に鍛治だけでそんな暴挙に出る人居たんだって素直に尊敬するよ。大剣によく収められたよねぇ。普通ならジャンボジェットサイズのデカブツになるでしょ? それを縮めても軽自動車サイズにはなるよね?」

『単純な構造だ。俺は魔導具にも精通してる。サードはまだ考えてないがな』


<コメント>

:流石鍛治界のトップ!

:ここにセカンド、サードジョブ持ちゴロゴロいるのバグだろ

:アメリアちゃんだってセカンド持ちだぞ?

:そう言えばそうじゃん


『俺だってセカンド持ちだが? あいにくと魔道具も錬金も齧っちゃいないが』


犬がわんわんと吠える。

声は副音声みたいに字幕スーパーで出た。

後輩の芸が細かいな。

それとも単純に嫌がらせか? 

さっきからゲストに対する扱いが酷い。

僕にはきちんと声が聞こえてくるのにね。

僕以外の声が全部日本語に翻訳されて字幕スーパー化されてるのは笑う。

ガンドルフは日本人なのに、ご丁寧に字幕になってるのはご愁傷様と言う他なかった。


『最後に私も情報を出していいかな?』


ウサギ博士がモジモジしながらプラカードを出した。

この恥ずかしがりながらアイディアを出すというのがなんとも微笑ましいが、出てきたアイディアはそれなりに度肝を抜くものだった。


<コメント>

:ウサギ博士かわいい

:これは先輩の良いライバル

:他の有象無象いいんでこれからもコラボ希望!


『は?』

『は?』

『は?』


犬とアヒル、アメリアさんが剣呑な雰囲気を醸し出す。

見た目問題がここに来てコラボを運命的に引き裂くのはちょっと。

ちなみにアメリアさんのキャラもこめかみをピクピクさせている。

芸が細かい。


<コメント>

:アメリアちゃんはこっち側ですよ!

:何でダメージ受けてるんだろ

:疎外感?

:それだ!


「皆さん落ち着いて、側が美少女なら問題ないのですね? ならば私の権限でこうします。てや!」


後輩の掛け声と共に、シャララ〜ンと光の演出。

犬とアヒルの足元から煙が立ち上り、煙が晴れた先に現れたのは……


『ぎゃああああああ!』

『ぐわああああああ!』

『お揃いだな、センパイ。ナイス後輩ちゃん』

「推しが幸せなら私は本望です」


何ということでしょう、犬とアヒルをモチーフにした美少女が現れたではありませんか! 流れ弾でアメリアさんに猫耳がついた。


<コメント>

:アメリアちゃん贔屓がすぎる

:後輩ちゃんはセン×アメ推しかぁ

:逆だろ? アメ×センが至高

:何の話?


アメリアさんはなぜか喜んでるけど、もしかして裏で結託してた?

猫耳なんて感情が表に出て邪魔だろうに。


それはそれとして全員バーチャル美少女受肉を果たした各界隈のトップ達。

全てが茶番の渦に飲まれし大規模コラボは祖国の看板に深い傷跡を刻みながら本格的にスタートした。


本当の地獄はこれからだ!

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