アメリアさんと大いに過去を語り合う。
そこで話題の中心となったのはやはり炸裂玉についてだった。
コメントでのやり取り中、他の一同は休憩していた。
アメリアさんはメインアタッカーだからね。
その彼女が戦闘に参加しないなら戦線は総崩れ、とまでは行かなくても効率はグッと下がる。
ならこの間に休憩して次の階層に備えようと言ったところか。
僕らは画面越しからのほほんとその映像を覗き見る。
対岸の火事みたいな物で、コラボ相手なのにどこか他人事のようなそんな雰囲気を味わっている。
特に今回のダンジョンアタックの目的は、コアの破壊以外に他ダンジョンとの中継点となっている転移魔法陣の間の封鎖。
他にも迷い込んだ探索者の救助と大規模な人手が動いていた。
本来Sランクの規模ともなると少数精鋭なんて命が惜しくないのかと断じられるほどに無謀なのだとか。
そう思うとキング達は文字通りバカをやった訳だ。
解体に時間をかけなかった分、道中はサクサクだったらしいがその分見返りは0。
タダ働きここに極まれりってやつだ。
ただの討伐だけでもだいぶ籠るのもあり、規模は大きくなるとのこと。
中規模でアタックを仕掛けられるのは、荷物持ちを一人に任せられたのが大きい。そのアイテムを開発した僕がなぜかもてはやされている。
そこで再び話題に上がったのは炸裂玉だった。
僕の武勇伝によって素人が作った以外の極悪なまでの黒歴史が明るみにされ、その新たな用途が模索される事になった。
主にB〜Aランクに繋がる魔法陣を封鎖する際、特定熟練度の炸裂玉で消し飛ばせないか? という試みである。
僕の武勇伝では、ダンジョンのトラップから隠し通路、転移魔法陣、ボスフロア毎のコア破壊と数々の黒歴史を産んでいる。
それらの情報をミッションで役立てようというのだから、どこで何が役に立つのか分からない物だ。
<コメント>
:まさかここにきて問題児の炸裂玉に活躍の機会が来るなんてな!
:熟練度50で転移魔法陣吹っ飛ばすのは草
:入り口までのゲートまで吹っ飛ばすってことだろ? そりゃ出禁食らうわ
:熟練度90でコア吹っ飛ばすのも笑ったけどさ
:それ。まさかボス部屋毎吹っ飛ばしただなんて思わないじゃんね
:ダンジョン特攻かよ!
:ボス強いから部屋毎爆破しようぜ!ってか?
:発想がテロリストで草
「それねー。まぁ僕たちだって悪気があったわけじゃないんだよ」
「そうです。ダンジョン協会が大袈裟に騒ぎ過ぎなんです」
「本当な。ミスリルの採掘場を吹っ飛ばしたくらいで怒り過ぎ」
「先輩のは致し方ないのでは?」
「急にハシゴ外すのやめて!」
<コメント>
:後輩ちゃん、容赦なし
:草
:先輩、それは流石に怒られて当然では?
:流石にギルティ
:待って、一時期ミスリルの流通が途絶えたのって!?
:原因先輩かよぉ!
:爆発に耐えられないミスリル君が悪いんや
:ミスリル吹っ飛ばすってなんだよ
:炸裂玉君強すぎィ!
:もう爆弾で済まされない威力なんよ
:そのレシピ永久に封印しろ!
:残念、そのレシピはもう出回ってまぁす!
アメリア:ジャパニーズジョーク、おもろー
:アメリアちゃんかわいい
:すっかりこのチャンネルに染められたね
:合法ロリはいいもんですね
アメリア:は? ロリって誰が?
「誰がロリじゃい!」
ちなみに吹っ飛ばしたのはミスリルに限らずダマスカスやアダマンタイトも含む。
まさかあんな簡単に吹っ飛ぶなんて思わないじゃんよ。
世界最硬の金属の称号はどこいった? ってくらい幅で笑ったよね。
ちなみにその事実はお口チャックした。
後輩にも言ってない。
ここはキレて有耶無耶にしてやれ!
<コメント>
:息ぴったりで反論してきて草
:27歳児と32歳児やぞ
:可愛いが過ぎる
:¥10,000/尊い、今日もありがとうございます!
アメリア:このチャンネル、失礼なやつ多過ぎ!
:すまねぇ、すまねぇ!
:殆ど先輩の可愛さで持ってるチャンネルなんやで
:実際には1/10も先輩のファン居ねーけどな
:レシピのファンが多いから
「は? 誰ですか。今先輩に人気がないって言った人は? 私の権限で締め出しますよ?」
<コメント>
:やばい、後輩ちゃん声のトーンがガチだ
:後輩ちゃんの先輩推しは最早病気やな
:天の声さん、落ち着いて
:¥50,000/衣装代
:¥50,000/衣装代
:¥10,000/衣装代
:高額スパチャニキ、頑張って!
:みんな、天の声さんに先輩のラブリーパワーを注入してくれ!
:¥100,000/衣装代
:¥80,000/衣装代
「やめろぉおおおお!」
僕が泣いて懇願するまで、高額スパチャラッシュは続いた。
こんなの誰も望んでねーんだよ!
なんでこの歳になって女児の服に袖を通さなきゃならんのだ。
例え側がVだろうとも、ただでさえ僕の動きに合わせて動くキャラだ。
気が気じゃない。
一応男キャラとして制作してくれてるけど、服の際どさが女性的な気がするんだよね。
胸元は絶対に隠されてるし。
ギリギリ男に見えるような服装のチョイスだったのだが……
飛び火して、アメリアさんの衣装までお揃いになった。
画面内の僕とアメリアさんの衣装が即座に変更された。
かわいいドレス姿だ。いや、僕男なんですけど!?
<コメント>
アメリア:お揃いだな、センパイ!
:プププ、ドレス姿似合ってますよ先輩!
:かわいいが過ぎる
:探索に興味ないけど登録してきました!
:この子普段殺伐としてるんだけど、こんな一面もあるんやな
:良くも悪くもこのチャンネルの雰囲気が緩いからな
「まぁもうどうとでもなれだ。しかしあれだね。いつもSランクダンジョンってこんなピクニックみたいな感じで進むもんなの?」
<コメント>
:ピクニック扱いで草
:実際ピクニックなんよ
:上層ならそこまででもないが
:実際アメリア嬢が強すぎるのよ
『先輩のカチカチスライム君と快癒湿布のおかげだな。これの有無次第で道中は変わると思ってるよ』
「それだけでそう変わるもん?」
『安心度が段違いだな。なんで湿布で欠損回復するのか分からん。アタシの食い破られた指も、これ貼って数分で綺麗にくっついたし』
「ほへぇ」
<コメント>
:は?
:は?
:は?
:はぁあああああ!?
:欠損回復すんのかよ、あれ!
:あのところてんのレシピ、しれっとやばい代物だった件
:製作難易度80じゃなかったら作ってた
:製作者がどこ吹く風なの草
:なんでそんなにも他人事なんですかね?
:お前の作ったレシピだろ! 責任持て!
『いや、このカチカチスライム君、少量で手を固定するのにも有用でな!』
「その使われ方は想定外。トールみたいに悪用してないだけマシだけど」
<コメント>
トール:あれを緩衝材にする人には言われたくないっす
:なんで塩振ると溶けるんだよ
:砂糖で凝結させてるのも謎だよな
:こうなってくるとガイウスの化石剣も大概頭おかしいよな
:今回お呼ばれしてないのはどうして?
『モンスターの生態調査も兼任してるからだ。あれは捕獲には向かないだろ?』
「素材が全部死ぬからね、連れてかなくて正解。自分で作っておいてなんだけど、悪ふざけが過ぎたのを自覚してるから。でも付与の波が乗ってたから、中途半端で引き下がれなくなったのもわかってほしい。鍛治の強化もそうだけど、魔道具の付与も基本1%を祈るようなもんだから」
<コメント>
ガンドルフ:わかる
ロディ:わかる
ミツビシ:わかる
ローディック:いやはや、それは引けん相談じゃて
:ローディック師まで来てて草
:この個人配信者、界隈ガチ勢呼び込みすぎだろwww
:ローディックって誰?
:世界魔道具連合の会長、御歳78歳
:魔導具師の熟練度200の化け物だよ
:草ぁ
ローディック:日々勉強じゃな。この歳になってもまだ未知の発見が出てくるわい
:ローディック師がコメントを残す個人Vのチャンネルはここだけなんよ
:まず配信に興味あった方が驚き
ローディック:詳しくは知らんから、部下にコメントを打ち込んでもらっておるよ。君のレシピは非常に興味深い
:先輩各界隈のお歴々からマークされてるやん!
:そのお年でトップ立ってるの尊敬しかないんよ
ローディック:まだまだ若いもんには負けんよ
:つよい
:俺らも負けらんねぇ!
:もうお爺ちゃんとか関係ねーな!
:この界隈、年齢関係ねーからな
:先輩の年齢が一番謎だから
:それな
:それな
「みんなもむくみ取りポーション飲もうぜ?」
<コメント>
:まず作れないんですが、それは
:あなたが販売してくれたら済む話なんですが!?
:5%の確率を連続三回乗り越える苦行を一般常識みたいに言わないでもろて
ローディック:情けないのう、ワシでも作れたぞ?
ミツビシ:ええ、これくらいなら僕でも。量産となると難しいですが
ロディ:まぁ成功率1%に慣れてる人なら5%は有情ですから
:ダメだ、俺たちの方がおかしいみたいな流れになってきてる
ガンドルフ:俺はまぁ、作ってすらいないが気持ちはわかるぜ
:鍛治の強化は1%の壁の連続ですもんね
ロディ:鍛治に限らないけどね
アメリア:戦闘中にクリティカル発生を連続で狙うような物?
ローディック:連続50回じゃな
:求める回数が多くて草
:これ、テクニック云々の話やないで。運まで絡んでくる
:生産職に幸運ステ求められる理由第一位がこれだしな
「まぁ週2万本、品質Sでポーションを作れたら至れる領域だよね」
「先輩はそれを五年間、たった一人でやり遂げた猛者です」
「よせやい、照れる。因みに極めると4日で終わるぞ」
<コメント>
:は?
:は?
:は?
:は?
:は?
ロディ:は?
ガンドルフ:は?
ミツビシ:は?
ローディック:は?
キング:は?
トール:草
アメリア:それって探索者換算でどれくらいの無茶振り?
:Sランクダンジョンソロ達成、往復3日くらいの無茶振り
アメリア:把握
:お歴々が揃って唖然としてるの草なんよwww
:いや、一人で週二万本もおかしいけどそれを4日はマジキチだろ
:ごめん、手が何本どころの話じゃないからそれ、日産5000本だけど合ってる!?
:合ってるけど無理ゲーがすぎる
「その上で趣味に全力投球で倒れて入院しました」
「眼精疲労ポーションを継ぎ足すのを忘れた僕の一生の不覚だった。あと二時間は余裕あるかなと思ったんだけどさ、体の方が先にガタが来て……」
「相談しに行ったら頭から血を吹いてて驚きましたよ」
「その節はおせわになりました」
「いえいえ、こちらこそー」
<コメント>
:何平然と会話しちゃってるのこの二人?
:普通に死地を彷徨ってて草
:やっぱりあぶねーポーションだったんじゃねーかあれ!
ローディック:眼精疲労ポーション? 非常に興味あるね
「超濃縮目薬5本と超濃縮エクスポーション5本を中級融合でお祈りするだけですね」
<コメント>
ローディック:情報感謝する。早速作ってみよう
:簡単にレシピ晒すな!
:いや、エクスポーションがしれっと出てきてるあたりで制作難易度幾つだよ
:エクスポーションが80だし、普通に90とかじゃね?
「中級融合の取得条件は熟練度120だよ」
<コメント>
:草
:草
:草
:この作れる物なら作ってみろ! 感
:それですらお祈りなのかー
:下級融合も熟練度40になっても成功率5%以上になんないから
:裏技必須なのやばいって
:普通はその裏技にすら気づかないんよ
:お掃除スライム君の情報開示はよ!
そんなこんなで茶番をこなしてる間に休憩と熟練度毎の炸裂玉の準備が整った。
合間合間で語らったレシピは、今すぐに作れなくともそのうち作れるようになるだろうと熱心にメモを取っている姿勢は見習いたい物だよね。
しかし道中で大型モンスターと接敵するグループにかち合った。
人型の肉体に牛の頭を乗せたミノタウロスから逃げ惑う4人組。
タンク役だろう、重症者を負ぶって逃げ惑っていた。装備から鑑みてもランクに見合ってない。どうやらBランクダンジョンからの迷子のようだった。
『こっちだ!』
キングがタウント(挑発スキル)でヘイトを稼いでる間に四人組は治療班のもとに合流。
ほぼ一人で攻撃を引きつけてるキングに喝采が浴びせられる。
『同情するなら髪をくれ!』
真に迫る雄叫びに返事をするものは皆無だった。
更地と化した頭部に同情をかける言葉が乱立する。
『そいつは特殊個体っすね! 持ち帰って研究するっす!』
トールが動く。
『なら、足の腱は切り飛ばしてもいいよね?』
アメリアさんが風のように駆け抜け、すれ違いざまに巨木のような足をめったぎりにした。
効果は薄そうだが、鬱陶しそうにミノタウロスがアメリアさんを狙う。
コメントは流れない。道中までののほほんさが嘘みたいに緊張に包まれている。
そこでトールのカチカチスライム君バレットが口の中にヒットした。
もがき苦しみ、暴れ回るミノタウロス。
全ての攻撃をキングがいなし、最後の弾丸をトールが放って戦闘は終了した。
その一部始終を見ていたBランク探索者は、Sランクの手際の良さに感嘆し安堵のため息を漏らした。
自分達が逃げ惑うことしかできなかったモンスターを生捕りにするのだ。
正気の沙汰じゃない。
<コメント>
:うぉおおおおおおお!
:うわーーー!!
:すっげぇええええ
:大迫力!
:これがさっきまでピクニックしてたメンツかよ!
:キングかっこよかったぞーー!
:トール様、ステキ抱いてーー
コメントが爆発する。
一息ついてから、思い出したかのようにコメント欄が一気に溢れた。
まだ中層だと言うのに、気が早いんだから。
でもまぁ、僕もついつい手に汗握ったよね。
僕の中では遊びで作ったレシピ、制作物がさ。
Sランクという世界を舞台にする探索者達が扱って、役に立ってるって知ったら。助けられた探索者は何度もお礼を言っていた。
アメリアさんはなんてことない様に笑顔を送る。
命があってよかった。お礼なら偉大なる錬金術師に言ってくれって。
……それってもしかしなくても僕のこと?
心のどこかで受け入れきれなくて、必要以上に照れてしまう。
ずっと昔、まだ高校生になった時くらい。
僕は生まれて初めて授かった特性【生産】において真っ先に『錬金術師』を獲得。
そりゃもう夢中になったもんさ。
その中で生み出された有象無象の算出物達。
作り上げた時こそ“こんな物どこで使うんだ?”だなんて思った。
きっとどこかで役に立つかもしれない。そう思ってメモに取っていた物が……こうやって発表する機会を与えられ、サポートしてくれる後輩と絶賛してくれる人が居て。
ようやく……ああ、今ようやく報われた気がした。
好きで始めたモノづくりへの道。
ずっと心のどこかで否定を繰り返した。
僕は楽しかったけど、どこかで誰かに迷惑をかけてると思ったら申し訳なさが先に立つ。
それが今、全て無駄じゃなかったと目の前の画面の向こうで証明されて、にやけ顔が止まらないでいる。
爆速で積み上げられていくコメントは僕のレシピの凄さより、それをそう扱う探索者の発想力の賞賛へ傾くけど。
ただ一人、僕の理解者だけが『わかってましたよ』って顔でニコニコしてる。
会社をクビになった時はどうやって生きていこうと思った。
後輩に誘われてVになった時は恥ずかしいことの連続だったけど、辞めなくて良かった。
僕はきっと、この賞賛をまた浴びたくて恥ずかしい格好もしちゃうだろう。
全てが後輩の計算の上だと思うと末恐ろしくなる。
だが今はまだ、君の手のひらの上で踊らされていよう。
多分これは僕に足りなかった生き方を教えてくれるためのものだと思うから。