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第2話 先輩、Vデビューを果たす

「ちゃーす、最近仕事をクビになった錬金術師の先輩と!」

「その挨拶の仕方何とかなりませんか? 独立して個人勢に転生した後輩の錬金チャンネル! はーじまーるよー」


<コメント>

:やんややんや

:初見です

:錬金chと聞いて

:後輩ちゃんの声、聞いたことある。前世は企業垢でした?


「はいはーい、詮索は禁止! ここからは楽しい錬金の授業の時間だよ。先輩、今日のお題はどうしましょうか? 初心者向けの良い感じのレシピありますかー?」

「ならば僕が22連勤中に遊びで作ったレシピを公開しよう!」


<コメント>

:ん? 今さらっととんでもないフレーズが聞こえた気が?

:社畜だ、この人!

:あれ、ここまで働ける人がクビになるって何やったの?

:22連勤する程の無能だろ、どうせ


ここで手元が画面の中央に映る。

相変わらず左右にはアニメ調のキャラが僕たちの身振り手振りに合わせて動いた。


「まずは肩こりがスッと抜ける湿布薬のレシピ〜。まず最初に用意するのは製作難易度85のエクスポーションを用意します。こいつを媒介に“ウォーレン湖水”を200ML、60℃まで湯煎して温めます。ここへスーパーで売ってる“ところてん”を加えて、しっかり溶かします。後輩、バット持ってきて」

「はーい♪ 」

「そこにザバーと流しましてかき混ぜる。温度が20°を切ってからそこにエクスポーションを優しく注いで混ぜます。これをこのまま放っておくと……ここに30分前に作り置きした湿布の完成品が出来上がってます。見てください、みずみずしいゼリー物質が見えるでしょう? こいつを凝ってる場所にペタって貼り付ければあら不思議、今までの痛みが綺麗さっぱりに消えて無くなります!」

「参考になった、まだまだレシピが聞きたいと思った方、チャンネルの登録と高評価をお願いしますね〜」


<コメント>

:ガセ乙

:製作難易度85とか初心者向きじゃないです

:誰も初心者向きとか言ってない件

:言ってるんだよな〜

:ガチ初心者が来るとは思わないじゃんよ

:簡単だとも言ってないしな

:そのレベルがサラッと出てきてる時点で、この先輩の実力が見えてくるな

:それ

:ところでエクスポーションのレシピの公開なんかは?


「そういうのは企業の公式サイトで出回ってますからねー」


<コメント>

:そりゃそうだ

:錬金に近道はねーよ

:素材が高くてなぁ、手が出せないのが多い

:それ

:錬金素材は割高でなー


「みんな苦労してるねー。僕も若い時はめちゃくちゃ苦労した。在学中、実際にダンジョンに潜ってあれこれ使えないかいじくりまわしたものさ」

「結局そっちで食べてくの無理そうだから研究職に行ったんですもんね」

「そうそう、懐かしいなぁ」


<コメント>

:やっぱり代替え品とかなくて地道に熟練度上げしかないですかね?

:今ようやく6とかだぞ

:俺7

:私は二年この界隈にいるけど10で精一杯よ


おや、意外に浅いところで詰まっているのが分かる。

世に錬金術の人口は増えれど、全員が全員、高水準に至れるわけでもないようだ。


「ちなみに先輩は幾つなんですか? 熟練度」


<コメント>

:あ、それ知りたいです

:絶対15とかだぞ

:それ言ったらエクスポーションの製作難易度が出鱈目になる

:普通作れもしない限り製作難易度知れたりしないのよ

:でも85とか聞いたことないぞ?


「私は50ですねー」


<コメント>

:後輩ちゃん、剛のものだった!

:エグッ、え? これマジなの?


「在学中に先輩に付き合ってたら上がりました。その時点で先輩は90行ってましたよね? だから今いくつあるのか知りたいなーって」


<コメント>

:何年前か知らないけどその時点で90なら100とか?

:100って草

:100って何作れるっけ?

:知らねーよ!

:雲の上すぎて考えたこともねーわ


「ちなみにエリクサーは250だぞ。僕は320くらいだ。わはは」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?


「流石先輩です。まさかエリクサーに届いていたとは」

「まぁ、ポーションのノルマにどう考えても間に合わなくて、エリクサーを薄めてポーションだって誤魔化してノルマ達成してたからな」

「一週間で2万本仕上げてたトリックはそれでしたかー。でもそんなに薄めて薬効落ちないんですか?」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?


「そいつには仕掛けがあるのさ。水で薄めるんじゃなくてハイポーションで薄めるのがコツだ。ポーションとしての効能を濃縮還元してそれを500倍に引き伸ばす。それを400倍の水で薄めて完成だ」

「わぁ、その数のハイポーションを揃える方が大変じゃないですか?」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?


「エクスポーションを水で薄めればハイポーションになるって裏技があるんだ。まぁ僕くらいになればエクスポーションぐらいよそ見してても成功するからな。惰性で出来る」

「それを前の会社の人事が聞いたら飛びあがっちゃいますよ?」

「どうせ僕をポーションしか作れない無能と罵ってたんだ。いい気味さ」

「ご愁傷様です。どうかこれからも頑張ってくださいねー」


<コメント>

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:今北産業。なんでコメントここまで荒れてるの?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:は?

:まだアーカイブ化されてないからわからんが、割とバグってる発言してる、先輩が

:後輩も十分バグってるのよ

:それ

:呼吸をするようにエクスポーション作れるって聞けばそらそうよ

:こんな人を雇ってた企業ってどこよ?

:ノルマ二万って何?

:しかも週だぞ? 頭おかしい


「先輩、部下が辞めても一人で作ってたんですよねー。何年前から一人でやってたんです?」

「かれこれ五年くらいかな? おかげで後輩の配信にスパチャを送るのが生き甲斐だった」

「先輩、それでぶっ倒れたのでお体ご自愛くださいねー?」

「分かってる、分かってる」


<コメント>

:これ分かってない人の返事だぞ?

:一周回って危ういな

:と言うか、納期に間に合わせるために会社に泊まり込んでたんですか?


「いや、残業時間はほとんど趣味だな。エリクサーなんて材料さえあれば四日もあれば作れるだろ? 地味に面倒臭いから全部代用品で済ませてるけど、別に死者蘇生までしないんだったら代用品で十分だし」

「先輩、言い過ぎ。流石に言い過ぎです!」

「おっとすまない。僕はどうも自分ができる前提で口が滑るようだ」


<コメント>

:やば、この人想像以上にやばい人だ

:解雇した人涙拭けよ

:絶対にここでVやっていい人じゃないことだけは分かった

:ん? 最近やめた製薬研究員て確か……?


「詮索はなしでお願いしまーす」

「そうだぞ〜、ここは一つ熟練度5〜20までノンストップであげれるお役立ちレシピを教えるので勘弁して欲しい」

「先輩、とうとうあれを公開しちゃうんですか?」

「背に腹は変えられんよなぁ。あれば便利だし、世に高水準の錬金術師が出てくる分には誰も困らないだろ?」

「それもそうですねー」


<コメント>

:そんな神レシピがあるの?

:ワクワク

:どうせガセ

:じゃあどうして聞いてるんでしょうね?

:きっとみんなが成功してから後追いするつもりだぞ


「現地アイテム3つ、用意するアイテムは乳鉢とすりこぎ棒のみ! 簡単炸裂玉のレシピ公開だー」


<コメント>

:割と物騒な代物で草

:ポーションですらないのな

:現地素材って時点でダンジョン産です。本当にありがとうございました

:錬金自体がダンジョン産アイテムをこねくり回すもんだからな


「まずは〜───」



 ◇◇◇



「お疲れ様ー」


お疲れ様会を、近場の飲み屋で行う。

そこでは初めての配信で疲れ切った僕と後輩の姿があった。

初めての生配信。

見てるのとやるのではこうも違うかと、うっかりで滑らした口をリカバリするのに気を揉んだ後輩から軽くお叱りを受けたりした。


僕たちがやったのはレシピの公開だ。

なんせその素材が手元にない。

だから錬金方法を教えただけ。

あとはこれがどこまで拡散されるかわからない。


お互いに携帯は自宅に置いてきた。

今はただ反応を知るよりもゆっくりとした時間を過ごしたかった。

彼女は独立したてでお金がないし、僕はほとんどの財産をスパチャで会社に吸い上げられた上に病み上がりだ。


一杯目のアルコールを飲んだ後にグロッキーになっている。

後輩は楽しそうだ。

そんなに僕のレシピが注目されたのが嬉しいのか、疲労困憊の体を押し退けてしてやったりとにやけ顔。


僕はその彼女の横顔に恋に落ちていた。

いや、今更こんなおじさんに告白されても迷惑なだけって知ってるけどさ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【先輩&後輩の錬金ch専門板】

001.ナナシの推し活人

 ここはつい先日デビューしたばかりの先輩と後輩を推してく場所です

 無自覚天才気質の先輩と、切れ味鋭い突っ込み担当の後輩を全力で推していけ!

 そしてそれ以上にこちらは本格的な錬金ch

 初っ端からぶっ飛んだレシピが飛び交い、真偽の程はわからないが誰か実際に作れたって人は軽率に書き込んで!



290 .ナナシの推し活人

 炸裂玉、早速作ったわ

 レシピの通り作ったけど熟練度によって攻撃力が変動する爆発物だった

 熟練度10で投げたらアイアンゴーレムが吹っ飛んだ時はびっくりしたわ


291 .ナナシの推し活人

 マジか!

 あれガセじゃないのか


292 .ナナシの推し活人

 製作難易度3なんだぜ、あのレシピ

 いや、でも熟練度依存って言ったら先輩が作ったらどんな威力になるんだそれ?


293 .ナナシの推し活人

 後輩もそれで熟練度あげたって言ってたし

 ワンチャンそっちで食ってけるんじゃね?


294 .ナナシの推し活人

 でも配信じゃそっちで食うの厳しいって言ってたし、そんな美味い話じゃねーと思う


295 .ナナシの推し活人

 実際に先輩たちがどの時代に探索者目指してたかにもよるよな


296 .ナナシの推し活人

 あー、黄金世代だったらそれでも諦めてる可能性があるのか


297 .ナナシの推し活人

 黄金世代っていうと10年前?

 今や世界中でSランク探索者になってるでしょ、あの人たち

 それに張り合うなんて今の探索者でも無理よ


298 .ナナシの推し活人

 真偽はさておき、熟練度上げに最高だから作りまくるけどな!

 バザーで見かけたら買ってくれよな!


299 .ナナシの推し活人

 これ、配信見た同業者が軒並み作って溢れる流れじゃね?


300 .ナナシの推し活人

 ははは、まさか



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