いつも気になってた……
君の瞳の奥にはとても深い闇があって、誰も届かない闇の中、一人膝を抱え震えながら息もせず、声を殺し泣いている君がいる……。
なのに、君はいつも笑うんだ。
苦しみを隠すために。
儚く今にも消えてしまいそうな君は笑うんだ。
何が君をそんな風にしてしまったのか、本当の君はどんな人なのか、すごく気になった。
いつのまにか目で追うことが多くなって、気づくといつも君を探してた。
君が無理に笑うのを目にする度に、君が心の底から笑うところを見たい。
そう願ってしまう、心の底から強く願ってしまったんだ。
寂しく微笑む君は、何もかもあきらめてしまったような悲しい目をする。
なぜ? 何が君をそうさせている?
もっと君を知りたい……。
廊下では、生徒たちが他愛もない話に花を咲かせている。話声や笑い声、廊下にはたくさんの音が交差していた。
とても平穏な学校の風景。
春の暖かな日差しが差し込み、窓から爽やかな風が吹き込むと、窓際で佇んでいた
その様子を偶然通りかかった女生徒がうっとりとした目で見つめる。
要は世間でいうイケメンだった。
長身でスタイルもよく、人が羨むような整った綺麗な顔をしている。勉強もスポーツも人並以上にできたし、性格も悪くなく、校内ではかなりの人気者の地位を確立していた。
本人はそんなことにはまったく興味はなく、要が今、興味を持っているのはただ一つ……。
要は爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくり吐き出す。
「よしっ」
気合を入れると、ある場所へ向かうため歩き出した。
要は目的の場所で足を止める。
教室の入口から中の様子を伺うため、そっと覗き込む。
放課後ということもあり、教室にはほとんど生徒は残っていないようだ。
女生徒が数人ほどしかいなかった。
要はその女生徒たちに注目する。
どうやら数人で一人を囲んでいる。中心の女生徒は下向き加減でそこにいた。
自信無さげで大人しくて、いかにもいじめの標的にされそうなタイプだった。
「ね、お願い。井上さん、掃除当番代わって?
私たち今日大切な用事があるんだ。井上さんは暇でしょ?」
いかにもギャルっぽい感じの女生徒が、お願いのポーズをしている。
しかし威圧感がすごい、あれではただの脅しにしか見えない。
「えっ……」
楓は猫に追い込まれたネズミの
「ね、お願ーい。いいよねっ」
ギャルのリーダー的存在の一人が念を押すように、最後の一押しの言葉を強めに言い放つ。
楓はおずおずと小さく首を縦に振る。
「ありがとうーっ! 井上さん、優しいっ。じゃ、よろしくねっ」
楓の肩をポンと叩くと、ギャルは嬉しそうに跳ねた。
そして彼女たちは騒がしくお喋りしながら、あっという間にいなくなった。
一人になった楓は一度小さくため息をついたあと、何事もなかったかのように掃除を始める。
その後ろ姿に、要の胸がきつく締め付けられる。
痛くて切なくて、彼女を今すぐ優しく抱きしめたくなる衝動を収めるため、胸の辺りをギュッと握りしめる。
大きく深呼吸してから、要は一歩踏み出した。