いや、どんだけおまえはあの子の首が好きなんだよ。
なんかすげーいい匂いがするの?
確かに、そんな気がしてくるよ。振り返ってくれたことはないけど、多分けっこう可愛いよこの子。
てんとう虫もリピーターになるくらい、きっといい匂いもするんだろうよ。
でもおまえがいたら台無しなんだよ。そこんところ解れ。
この子も、なんでこんなに気づかないでいられるの?
もしかして日常茶飯事的な感じなの?
家中てんとう虫だらけのてんとう虫屋敷に住んでるの?
なにそのカオス。どんな家だよ。
「ただいまー」とこの子が玄関のドア開けた途端に何万匹というてんとう虫が、一斉にぞわわわーって寄ってきたりして?
「おかえりなさい」と歓迎するように羽音を立てるてんとう虫たちに向かって、
「ただいま、みつこ。ただいま、たまこ。ただいま、エリザベス」
って一匹ごとにつけた名前を呼びながら幸せそうに微笑んだりして?
そして、
「あら? ナナホシテントウのナナコはどこ? おーい、ナナコー! って、やだ。首にくっついてたの? もう、どうりでちょっとくすぐったいと思った。うふふ」
って、ようやく首のてんとう虫のナナコに気づくの、遅いよ!
「ああ、良かった。誰にも気付かれなくて」
いや、気づいてるから。気づいてるけど黙ってた人、ここにいるからね!
……なんてことを想像しているうちに今日もあっさり五分が過ぎてしまっていた。
「くそっ……また声がかけられなかった。せめて電車に乗ってる時間があと五分長ければ──」
僕は電車の窓の外を過ぎ去るホームに、ポニーテールの幻影を追いかけた。