氷珂はサーエンミラーと別れた後も、街に残っていた。
ネオンや店の明かりで照らされた歩道の中を、彼は黒い傘をさして、黒いベ
レー帽に、黒いフリル突きのワンピースを着た、少女をみつけた。
彼女は街の一郭で、ただ、立っていた。目立たない、店と店の少し奥で。
氷珂には、直観的に何かを掴んだ。
それが何かはわからない。だが、彼女は別物だ(・・・・・・)。
ポケットから数個の光球取り出し、自身の周囲を回転させると氷珂は少女に
近づいて行った。
「そんなところで何しているんですか?」
少女は傘の端から、満面の笑みを浮かべた青年を見上げた。
「……待ってるんです」
「あー、友達か誰かと待ち合わせかな?」
少女は軽く首を振った。
大体十代後半だろう。少女の肌は白く、黒い服とともに良く映えていた。
「……友達と言えば……確かに古い友達になりますね」
曖昧な言い方が引っかかった。
「君、名前は?」
また、首を振られた。
だが、意味が違っていたらしい。
「名前は、まだないです」
サイロイドか。
氷珂は一気に興味を失いかけた。
「昨日から今日のことが抜けてて、ついでにという感じで名前も思出せませ
ん」
「ほう……」
「たしか、ここにいたはずなんです」
「それでね。こんなところで、立っていたわけだ。で、その古い友人といい
うのは?」
その時、歩道を駆けてくる音が聞こえた。
見ると、水色のTシャツに七丈のズボン履いた少女が、彼女のところまで来
た。
「遅れて、ごめん!」
「ああ、ココル。久しぶりね」
ナツミは気付いていた青年に顔をむけた。
すぐに表情が変わり、ナツミは少女の手を取って走りだした。
氷珂は自分を避けて逃げたナツミという少女の考えが分かった。
ばれているのだ。
人ごみの中、邪魔な人物をどけながら急いで、氷珂は二人を追う。
だが、何故ばれた?
氷珂は思いめぐらせる。
今迄の犠牲者の関係者か?
それとも、目撃者か?
警察には、彼はまだマークされていないはずだ。
それが、あんな小娘といっていい相手が、自分を知っている。
こんな脅威は、氷珂に今までなかった。
二人をなんとか捕えなくては。