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第7話 次から次へと

 俊介はイライラしていた。


 空良への対策は考えないといけないが、なんとかこのむしゃくしゃした気持ちを誰かに打ち明けたかった。


 そこで俊介は久しぶりに親友の悠斗ゆうとに会うことにした。


 彼とは政界で苦楽を共にしてきた仲で気心が知れている。

 同い年で、政界に入ったのも一年しか違わない。だからはじめはお互いライバル心を抱いていた。

 しかし、それが仲間意識へと変化するのにそう時間はかからなかった。

 彼と交流する内に意気投合し、時間の経過とともに、お互い気の置けない存在となっていった。


 すみれを紹介してくれたのも、仲を取り持ってくれたのも彼だった。本当に彼には頭が上がらない。


 俊介にとってこの政界という荒波の中で唯一、彼だけが信用できる存在だった。



「待たせて悪いな」


 待ち合わせの喫茶店で、先に到着していた悠斗に軽く挨拶をすると、彼はいつも通りの笑顔を向けてくる。


「ひさしぶりだな、元気だったか」

「そうでもない」


 仏頂面ぶっちょうづらの俊介に悠斗は呆れたように笑い、ため息を吐いた。


 俊介の機嫌はよく悪くなる。

 それに付き合って愚痴を聞くのも悠斗の役目みたいなものだった。

 しかし、今回はいつもよりイラつきが激しい気がした。


「どうした?」


 悠斗が心配して尋ねると、とんでもない言葉が俊介の口から発せられる。


「すみれを取られた」

「え! 誰に」


 悠斗は驚きを隠せなかった。

 二人は順調だと思っていた。前に見たときも俊介とすみれの仲むつまじい姿を目撃しており、二人が別れるとは夢にも思えない。


「昔の知り合いで、最近俺の周りによく現れる医者がいるんだよ。

 そいつにやられた。

 ……それでおまえを信用して、相談したいことが」



 俊介の話をさえぎるように、それは突然現れた。


「あ、先生」


 悠斗が誰かを見つけたように手を振る。

 なんだかこの展開に嫌な予感を感じた俊介は、ゆっくりとそいつの顔を確認する。


 こちらへ笑顔で近づいてくる人物……。


「悠斗さん」


 悠斗に笑顔で手を振っているのは、空良だった。


 やっぱり。


 これほど自分の予感を外れて欲しいと思ったことはなかった。


「先生、お休み? 紹介するよ。こいつ、俺の親友の森谷俊介」


 空良は俊介を見ると驚いた表情をする。

 白々しらじらしい、と俊介は心の中で毒づいた。


「俊介さん、よくお会いしますね」

「ああ」


 空良の笑顔とは相反あいはんするように、俊介は不機嫌そうに顔を背ける。

 ぶっきらぼうな俊介に、悠斗は不思議そうな表情をする。


「おまえ、先生のこと知っていたのか?」


 口を聞こうとしない俊介に戸惑い、悠斗は二人の顔色を窺いながら話す。


「すいません、俊介のやつ気まぐれなんで。気にしないでください」

「大丈夫ですよ」


 ニコニコと爽やかに微笑む空良を恨めしそうに睨む俊介。


「そういえば、先生に見てもらってから加奈子かなこのやつすごく良くなって。みんな喜んでます。本当に先生には感謝しています」


 悠斗が空良に深々と頭を下げる。


 俊介は愕然とした。


 加奈子とは悠斗の妹のことだ。今度はその妹を利用して悠斗に取り入りやがったな。

 こいつ、今度は俺の親友まで奪うつもりか。


 俊介が勢いよく立ち上がった拍子ひょうしに椅子が大きな音を立て倒れる。

 二人は驚いて俊介に視線を向ける。


 俊介は憎しみのこもった眼差しで空良を睨んでいた。

 空良は何も言わず平然と俊介を見返してくる。


 悠斗は何が起こっているのかわからず、戸惑いながら二人を交互に見つめた。


「悠斗、また連絡する」


 そう低い声で言うと、俊介は二人に背を向けさっさと行ってしまう。


 俊介のあまりの態度に、悠斗はどうしていいのかわからず、空良を見つめた。


「先生、どういうことですか?」

「大丈夫です、これは私たちの問題なので。あなたは何も気にしないでください」


 空良は悠斗にいつも通りの優しい笑顔でそう答えたあと、視線だけは俊介の背中をそっと追いかけていた。


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