新希隊の
「早く来いよー、おいてくぞ」
「待ってよー」
「へへっ、負けないぞ」
子どもたちは遊びに夢中で前を向いていなかった。
ドンッ。
先頭を走っていた男の子が誰かにぶつかり転んでしまう。
「いてて……」
「ごめんね、大丈夫?」
手を差し出された男の子が、その手を取り起き上がる。
「あ、この人、新希隊のお姉さんだ!」
助け起こされた子どもの隣にいた女の子が、指差しながら叫んだ。
「え? 本当? すげえ、この人だろ? 伝説の女剣士って」
もう一人の男の子も、興奮した様子で雛を見つめる。
助られた男の子が、雛をまじまじと眺めながら尋ねてきた。
「本当に、お姉ちゃんが新希隊の女剣士?」
そう問われた雛は戸惑いながら答える。
「……ええ。一応その新希隊の女剣士だよ。伝説かどうかはわからないけど」
子どもたちが雛に群がった。
「えー、すごーい!」
「お姉さん、すっごい強いんでしょ?」
「俺、憧れるなあ」
飛び交う
「そうだよ、彼女は鬼も恐れる伝説の女剣士、斎藤雛だ。
君たちが
雛の後ろから神威が顔を出した。
「神威さん、……酷い」
雛がいじけると神威が可笑しそうに笑いながら謝る。
「いや、ごめん。でも君が強いのは本当だから」
「そうそう、俺らじゃ雛を止められないよな」
今度は神威の後ろから宇随が顔を覗かせた。
彼は満面の笑みで子どもたちの頭を撫でていく。
「おう、おまえら、雛みたいに強くなりたいのか?」
宇随にそう聞かれた子どもたちは目を輝かせる。
「うん! 強くなりたい」
「強くなって、悪いやつらをやっつけるんだ」
「それは、いけません」
今度は楓太が割り込んできた。
「我が隊の方針ではありません。
強くなって悪い人をやっつけるのではなく、強くなり、悪い人から弱い者を守るために戦うのが新希隊のモットーなのです」
楓太は堂々と胸を張り、子どもたちに
「ふーん、つまんねえの」
子どもたちのテンションはみるみる下がっていった。
雛たちは互いに顔を見合わせ、子どもたちを微笑ましく見つめた。
「敵を倒したり殺したりするのではなく、自分の守りたいと思う人をこの手で守るの。
あなたたちにもいつか守りたいと思える人が現れる。
その人たちを守れる力が欲しいと思ったら、新希隊においで。歓迎するから」
雛が子どもたちに笑顔を向ける。
子どもたちは雛が何を言いたいのかよくわからなかったが、何か大切なこと教えてもらったような気がした。
子どもたちは小さく頷くと笑い合った。
子どもたちと別れた雛は、神威と二人で川辺を散歩していた。
宇随と楓太は町の見回りをしてくると出かけていった。
いつもはあの賑やかな宇随と楓太と一緒だからか、たまに神威と二人きりになると雛は未だに少し緊張する。
「……あのさ、雛」
神威が改まって雛に向き直る。
真剣な眼差しを向けられ、雛の瞳は揺らいだ。
「どうしたの?」
一つ大きく深呼吸すると、神威が口を開く。
「雛……俺と結婚してください」
雛は固まって、目だけが開閉を繰り返す。
「ずっと、考えてた。落ち着いたら言おうって。
もう待てない、俺は雛と共に生きていきたい。俺の気持ちは生涯変わらない。
君を愛しているんだ。だから、結婚しよう」
神威が雛を勢いよく抱きしめる。
つぶれそうなほどきつく抱きしめられた雛が、神威の胸の中で嬉しそうに微んだ。
「もちろん、私も神威さんとずっと一緒にいたい。
神威さんといると幸せなの……だからもう離さないで」
雛もこの日を待っていた。
神威からいつ言われてもいいように、心の準備はしていたつもりだった。
しかし、実際にその言葉を聞くと、嬉しくて
「ありがとう、雛。……愛してる。
その
神威が雛の頭に飾られた簪にそっと触れる。
そう、これはあの時、神威が買っていた簪。
先日、神威からプレゼントされた。
舞への贈り物だと思っていたそれは、はじめから雛への贈り物だったのだ。
神威の視線が簪から雛へと向けられた。
二人は見つめ合い、そっと口づけを交わす。
二人が幸せそうに笑うと、暖かな風が二人を祝うように吹き抜けていった。