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第27話 新たな希望

「私、やっぱり隊に戻ります。

 そして神威さんと宇随さんと楓太くんと一緒に、今度こそ新しい時代をつくるため、私の力を使いたいと思います」


 雛が力強い瞳を神威に向け宣誓せんせいする。

 神威は嬉しそうに微笑み頷いた。


「ああ、雛がどんな道を選んでも俺は君を支える。

 雛と共に生きていきたいから。

 君が隊に戻らなくても俺は会いにくるつもりだった。もちろん隊に来てくれるなら大歓迎さ」


 神威は雛に手を差し出す。


 握手……ではないよね?


 戸惑った雛がなかなか手を取らずにいると、神威が雛の手を奪った。


 雛の手を引きながら神威は意気揚々いきようようと歩き出す。


「雛の父上に報告だ」


 ニコニコと微笑む神威に、雛の頭の中には?マークが飛び交った。


「な、何を?」


 雛が不安げに尋ねると、神威は自信満々で答える。


「もちろん、隊に残ることと……婚約のこと」


 神威が雛にウインクする。


「えーーーーー!!」


 雛が目を丸くして叫ぶ横で、神威は可笑しそうに笑いながら雛を引っ張っていく。


 なんだかキャラ変わってない?

 あのクールな神威はどこへいった?


 急に大胆で強引なキャラに変化した神威に戸惑いながらも、繋がれた手の温もりに幸せを感じてしまう雛だった。





 雛の父である雄二に挨拶を済ませた二人は町へと向かう。

 宇随と楓太のいる屋敷へ帰る前に、必要な物をそろえるためだった。


 買い物の最中も神威は雛の手を離さない。

 手を繋ぎながら町中を闊歩かっぽすることが恥ずかしくて、雛の顔は終始赤く染まっていた。


 店の店主から、からかいを受ける度に神威は軽くあしらっていたが、雛はもういっぱいいっぱいだった。


「父上に認めてもらえてよかった」


 休憩も兼ねて訪ねた団子屋で、神威は団子を頬張りつつ、満足そうに頷いた。

 雛も団子を一口食べると、恥ずかしそうに頷き返す。


「うん」



 あのあと、二人そろって雄二の前に姿を現した雛たち。


 雄二は終始しゅうし口がひらきっぱなしだった。


 神威が雛への想いと婚約を許してほしいむねを雄二に伝えると、その熱意と神威の人柄から反対はされなかったが、もう少し考えさせてほしいと雄二はその場をにごした。


 そして、雛が隊へ戻りたいと告げると、雄二は寂しそうにしながらも優しい笑顔でそれを承諾してくれた。



「君の父上は本当にいい方だな。

 雛は恵まれているよ、俺も嬉しい。あの方は我が父上になる方だから」


 思い出しているのか、神威は空を見上げ目を細める。

 父を褒められた雛は、照れくさそうに頬を染めた。


 雛がお茶を飲み終え、ほっと一息つくと神威が勢いよく立ち上がった。


「さ、宇随たちが待ってる。行こう」


 神威に差し出された手を雛は迷うことなく握り締めた。






 宇随たちが待つ屋敷へ到着した二人は、仲良く手を繋いで屋敷の門をくぐった。


「おう、ご両人、見せつけてくれるぜ」


 玄関の入口に立っていた宇随が二人を笑顔で出迎える。


「宇随さん!」


 雛が嬉しそうに笑いかけると、隣に寄り添う神威も柔らかな笑顔を見せた。


「わざわざ待っててくれたのか?」


 幸せそうに寄り添いながら、手を繋いだ雛と神威が宇随に近付いていく。

 二人の仲良さそうな姿に、宇随が不機嫌そうな表情を浮かべた。


「なんだよ、あーあ、つまんねえ。

 おーい、楓太!」


 宇随が大きな声で呼ぶと、屋敷の中から足音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。


 次の瞬間、玄関から飛び出てきた楓太が一目散に雛に抱きついてきた。


「おかえりなさい!」


 嬉しそうな楓太の姿に雛も笑顔を浮かべる。


「楓太君、ただいま。ごめんね、心配かけて」

「あ! てめえ、雛に抱きつくな!」


 宇随が慌てた様子で、楓太を雛からがそうと試みる。

 すると神威が宇随の頭を殴った。


阿保あほう、子ども相手にムキになってどうする」

「いってー、手加減しろよ!」


 大袈裟に痛がる宇随を無視し、神威は雛にくっついている楓太を真っ直ぐ見据えた。


「な、楓太。おまえももう十四なんだから……わかるよな?」


 神威は終始笑顔だが、目が笑っていない。

 恐怖を感じた楓太は雛から急いで離れた。


「ご、ごめんなさい!」


 怯えながら謝る楓太の頭を、優しく撫でながら神威が笑顔で頷いた。


「さ、こんなところで立ち話もあれだし、中へ入ろう」


 神威はさりげなく雛の腰に手を回すと、宇随と楓太を見て微笑む。


 『雛は俺のものだから手を出すなよ』と神威の心の声が聞こえてきそうだ。


 二人が屋敷の中へ入っていくと、宇随と楓太が顔を見合わせた。


「これからは気をつけましょう」


 楓太がつぶやくと、宇随は肩を落とし残念そうに頷いた。





 まず雛は、宇随と楓太に今まで自分が女であることを偽り、男の振りをしていたことを謝った。


 すると、二人ともあっさりと受け入れてくれるので、雛は拍子抜ひょうしぬけしてしまった。


「そんなの途中から気づいてたぜ。おまえみたいな可愛い男なんていねえっての」


 宇随が大したことないというように、あっけらかんと言った。


「僕は雛さんが男だろうが女だろうが構いません。

 その剣の腕と、人柄に僕は惚れているんですから」


 楓太も満面の笑みを向けてくれる。


 そう言えば二人とも、ここへ来たとき女の姿をしていたのに驚きもしなかった。

 はじめからすべて受け入れてくれていたんだ。


 雛は二人への感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。


「ありがとう……本当にありがとう。

 嬉しい、私、この隊の一員でよかった」


 雛が皆に微笑むと、三人とも雛に見惚みとれた。


 すかさず神威が宇随と楓太を睨んだので、二人は神威から顔を背け知らぬふりをする。


「これからは四人で、笑顔と幸せが溢れる、そんな世の中をつくっていくために頑張りましょう」


 雛がそう掛け声をかけると、三人は笑顔を向け頷く。


「ああ」

「おうっ」

「はい!」


 四人は手を合わせ、誓い合った。






 新和隊、改め、新希隊しんきたいとなった雛たち。


 以前のような人を殺めることは一切せず、人々の平和を守る活動に身をとうじていた。


 千里の道も一歩からをスローガンにかかげ、日々地道な活動を続けている。

 大きな異業いぎょうを成し遂げるようなことはできないが、それでも身近な人たちの幸せや笑顔を守ることはできる。


 何か事件が起こると駆けつけ、解決へ向けての手助けをしたり、民の困りごとの依頼を引き受けたり、町を見回り、治安を守ることなどに尽力じんりょくしていった。


 雛たちがいることで、人々は安心して暮らせるようになり、町も活気づき、民たちの笑顔も増えているように感じられた。


 一部の人たちからは、〝そんな小さなことをしてなんの意味がある、もっと大きなことを成し遂げろ〟と言われることもある。

 悪事を働いている連中をらしめてくれと依頼されることもある。


 しかし、雛たちは自分たちの信念のもと、ゆるぎない想いとともに活動を続けていくのだった。


 人々の笑顔と幸せを守るために。

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