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第19話 大ピンチからの救世主

 雛たちは日々任務を遂行すいこうしていく。


 黒川からの指示に従い、伊藤が作戦を考え皆に伝える。

 そして隊員たちが実行に移していく。

 それの繰り返し。


 黒川がこれから台頭たいとうするのに邪魔と思われる人物を、次々に暗殺していった。


 しかし、一向に世の中はよくなっているようには思えず、日々民からの悲痛な叫びや嘆きが聞こえてくる。


 雛は日に日に黒川への疑心が深まっていくのを感じていた。




 ある日、雛は意を決して伊藤に相談した。


「伊藤さん、私たちのしていることは正しいのでしょうか。

 黒川様のお考えは私にはわかりかねますが、このまま命令に従っていても、この国はよくならないような気がするのです」


 伊藤は雛の言葉を聞き、しばらく黙り込む。


「私も最近そのことで悩んでいたところだ。

 黒川様のことは尊敬している。

 ……しかし、最近の黒川様がされていることには、何か違和感を感じていた」

「人々は今も苦しんでいます。できるだけ早いご決断を」


 雛が真剣な眼差しを伊藤に向けると、伊藤は深く頷き返す。


「……そうだな。一度黒川様のことを探ってみる。

 もう少しだけ待っていてくれるか」


 伊藤は苦しそうに表情を歪める。


 今まで尊敬し、従ってきた相手を疑うのは心苦しいだろう。

 その深刻そうな表情に、雛はこれ以上何も言えず、一礼し立ち去った。



 その様子を物影に隠れて見ていた人物がいた。


 その人物は雛が去っていくのを確認すると、そっとその場所から姿を消した。





 しばらくは大人しかった山本が、久しぶりに怪しい動きを見せはじめた。


 伊藤に咎められたあの日から、山本は雛が活躍する姿を指をくわえ眺めているしかなかった。


 雛は次々に任務を遂行していき、リーダーとしてしっかり役目を果たしていった。

 その実力は皆から認められ、今では雛に文句をつける人間は誰もいない。


 山本は気に食わなかった。


 どうにかしてあいつをぎゃふんと言わせてやる。

 そう思い、いつも雛の揚げ足を取ろうと躍起やっきになっていた。




 その日、山本は銭湯から出たあと、屋敷には帰らず雛が来るのを待ち伏せていた。


 雛はいつも皆が銭湯をあがった頃、見計らったようにやってくる。


 本当に女なのだろうか?

 もし女ということが判明すればそれ相応の罰が下るだろう。

 違ったとしてもはずかしめることができる。


 山本は意地悪な笑みを浮かべ、物影にそっと隠れひそんだ。



 何も知らない雛はいつものように皆がいなくなる頃、銭湯へとやってきた。

 辺りを気にしつつ、入口からそっと銭湯に入っていく。


 脱衣所でも周りに視線を配り、警戒しながら素早く着替える。

 山本は雛の着替えを覗こうとしたが、雛の察知能力が高く、近づくと見つかってしまう恐れがあるので仕方なくあきらめることにした。


「ちっ、仕方ない。しかし、ただでは帰らないぜ」


 雛が風呂場へ行ってしまうのを見届けてから、山本はそっと雛の脱衣場所へと急ぐ。

 そして、脱いだ着物と着替え用の着物を取りあげた。


「ふん、恥をかけばいいんだ」


 雛の着物を持って、山本は急いでその場から走り去っていった。





 雛はゆっくりと風呂を満喫してから、脱衣所へと戻ってきた。


 自分の着替えのある場所を確認して、雛は目をいた。


「え! なんでっ」


 自分の着替えが無くなっていることに驚き、雛は慌てて持ってきた荷物をひっくり返した。


「ない! どうして、なんでっ?」


 確かに着替えを持ってきた。

 それが忽然こつぜんと消えている。

 いやそれどころか脱いだ着物まで無くなっているではないか。


 今の雛は大小の布、一枚ずつしか所持していない。

 これでどうやって帰れというのか。


 雛の顔が一気に青ざめる。


 助けを求めることもできない。女性だとバレる確率が高い。


「……どうしよう」


 そのとき雛の目の前に着物が差し出された。


 驚いた雛が差し出した相手を確認すると、そこにはそっぽを向く神威が立っていた。

 神威はこちらを見ず、反対の方向に顔を向け着物をこちらに差し出していた。


「これを使え。俺のだが、無いよりいいだろう。

 一度そでを通したものだから少し匂うかもしれないが……」


 申し訳なさそうな声を出す神威。


「え、いえ。すごく助かります。あの、でも……どうして?」


 雛は混乱する頭であたふたと神威に問いかけた。

 頭の中が軽くパニック状態だ。


「早くしろ、湯冷めするぞ。質問はあとで聞く」


 冷静な神威の声に、私も気持ちがシャキッとする。


「は、はい!」


 雛は神威の手から着物を受け取ると、急いでそれに着替えた。

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