山本のあの一件以来、隊の中ではわずかな
しかし、伊藤と神威を
そして、とうとう雛たちに初めての任務が与えられることとなった。
伊藤に呼び出された隊員たちは整列し、話に耳を傾ける。
「皆、よく頑張ってくれた。黒川様も認めてくださり、初めての
文書を読み上げていく伊藤の話を聞いていた雛は、ある
「暗殺……」
その文書には、『これから作る世に、邪魔となる者たちを暗殺すること』という内容が記されていた。
当たり前だが、雛は今まで人を殺したことなどない。
雛の動揺は誰から見ても明らかだった。
青ざめた顔で視線が挙動に動いている。呼吸まで少し浅くなっていた。
何を考えているのか想像ができる。
伊藤は雛に言い聞かせるようにゆっくりと話す。
「いいか？ 黒川様が描く、皆が幸せに暮らせる世を作るため。それを邪魔する者を排除しなくてはならない。
誰かがやらなければいけないんだ。
国のため、民のためなのだ。わかってくれ」
本当にそうなのだろうか……国のため、民のためなら、人を殺めることは許されることなのか？
困惑している雛の肩に、伊藤の手がそっと置かれる。
「斎藤、おまえはこの国の未来のため、人々の幸せのためにその力を使いたいと言ったな？
世の中には、おまえが考えられないような悪い奴が存在している。死んでも仕方ないくらいの。
そういう悪い奴らが善良な人々を苦しめている。
斎藤、おまえは優しいから放っておけないだろう？
誰にも裁くことができないのなら、私たちが裁くしかない。おまえが必要なんだ、力を貸してくれ」
伊藤のその真摯な想いや態度は、雛の心を揺れ動かす。
きっと伊藤に付いていけば、たくさんの人が助かる。
そう自分に言い聞かせ、雛は伊藤に頷き返すのだった。
ついに任務を実行に移す時がきた。
夕刻、皆が伊藤のもとへと
「今回、出動してもらうのは、中村、斎藤、高橋の三人。
私とあとの三人は、屋敷で待機だ。大勢で動くとあちらに気づかれてしまう恐れもある。
中村は目的地に着いたら外で待機し、二人の帰りを待て。
実行するのは、斎藤と宇随。中村は何かあった時、すぐ二人を援護できるように」
「はい！」
三人は返事をすると、準備のために部屋から出ていく。
作戦実行は真夜中、まだしばらく時間があった。
準備を終えた雛は、心を落ち着かせるため庭で一人剣を振るっていた。
一心不乱に剣を振るう雛。
「よかったな、初めての任務で、大役だ。
ま、リーダーだし……まさか失敗はあり得ないよなあ！」
雛の前に姿を現した山本は、嫌らしい笑みを浮かべる。
動揺させ、任務が失敗に終わればいいとでも思っているのだろうか。
山本のことは無視し、雛は剣を振り続けた。
「ちっ、いつまでそうやって涼しい顔していられるかな！」
そう吐き捨て去っていく山本の後ろ姿を見つめ、雛は大きく深呼吸する。
気を取り直し、集中するとまた剣を振った。
雛と山本の様子を物影から見守っていた神威は、ほっと胸を撫で下ろした。
山本がこれ以上雛に何かするようであれば、出て行こうと思っていた。
しかし、なんとか収まったようだ。
これからのことを思うと、神威の胸は痛み、不安を覚える。
彼女の優しさが、その志の邪魔とならなければいいが……。
きっと、彼女にとって多くの苦難がこれから待ち構えていることだろう。
神威はそっと雛を見つめたあと、その場から姿を消した。
夜も
すばやく動く影たちは、どこかへまっすぐと走っていく。
その影は、大きな屋敷の門の前で止まった。
「俺はここで待つ。あとは頼んだぞ」
神威が二人に視線を向けると、雛と宇随は頷いた。
「行こう」
二人は屋敷の中へと消えていく。
その背中を見送った神威が、そっとつぶやいた。
「……雛、頑張れよ」
闇の中を駆け抜けていく。
途中で見張りが何人かいたが、なんとかやり過ごす。
目的の部屋はもうすぐだ。
緊張が増し、雛は喉が渇いてゴクリと唾を飲み込んだ。
「何者だ！」
雛たちを発見した男がこちらに刀を向けた。
「ここは俺に任せろ、おまえは先に行け！」
宇随は剣を構え、男と
雛は一瞬迷ったが、すぐに気持ちを切り替えた。
「頼みます！」
雛はその場から走り去る。
「待て！」
男が雛を追おうとする。
しかし、宇随が男の行く手を遮るように、目の前に立ちはだかった。
「おまえの相手は俺だぜ！」
宇随は不適に笑うと男に向かっていった。
