合格した六人は、これから拠点となる屋敷へと連れていかれた。
とても広く大きなお屋敷に皆が目を丸くする。
大きな門をくぐると、そこには広大な敷地が広がっており、天気のいい日は外で稽古ができそうな程だった。
奥の方には立派な玄関が構え、その向こうの大きなお屋敷へと続いている。
屋敷の大きさから、中も相当広いことが予想できた。
試合会場となっていたところとかなり似ている。もしかして、提供している人物は同じなのかもしれない。
距離も先ほどの所から、そう遠くはなかった。
こんな豪華な屋敷に住まわせてもらえるのかと、驚きと喜びがないまぜになった瞳で皆はお屋敷を眺める。
「ここは、私の
黒川様はこの隊を作られたお方だ。
皆が訓練に集中できるようにと考え、配慮されたのだ。
いずれ会う機会もあるかもしれないから、心しておくように」
「はい!」
伊藤を先頭に、一同は整列し屋敷の中へ入っていく。
屋敷内を回りながら、伊藤がそれぞれの部屋を案内をしていった。
一通り説明し終えると、伊藤は皆に向き直った。
「これからここで、皆には
また、稽古や訓練に励み、さらに剣術の腕を磨くように。そして、黒川様の命が下ったときは、君たちの出番だ。
それまでは、ここで
「はい!」
皆の緊張感が漂う中、伊藤の表情が緩んだ。
「……まあ、今日は合格祝いと
今日はご苦労だった、解散!」
伊藤はそれだけ言うと、皆に背を向け去っていく。
残された者たちは互いに顔を見合わせた。
「宴会だってさ、楽しみだな」
「俺疲れたから寝てくるわ」
「僕は町へ行ってくる」
それぞれの自己紹介が済んだあと、皆思い思いに散らばっていった。
宇随は雛を誘おうとしたが、雛は神威に声をかけた。
「神威さん、少しお話しませんか?」
「ああ、別にかまわない」
二人で庭の方へ歩いていく。
その後ろ姿を宇随は恨めしそうに見つめるしかない。
「なんなんだよ。いつもいつも……」
その場で
屋敷の庭にある大きな池のほとりで、雛と神威は静かに語り合っていた。
「神威さん、今日はいろいろありがとうございました」
「何がだ?」
お礼を言う雛を見つめ、神威は不思議そうな表情をする。
「宇随さんとの喧嘩を止めてくれたり、悩んでいるときアドバイスしてくれたり。
神威さんって頼りになりますよね。それにとてもお強いですし」
無邪気に笑う雛に対し、何を言うのか、というようにあきれ顔の神威。
「君こそ、強いじゃないか。地元では負け知らずだったんじゃないか?」
「んー、まあ。でも私は井の中の
こうやって、神威さんのような強い方がいるんですから。いずれまた、お手合わせを願いたいです」
雛が目を輝かせ、ぐいっと神威に近づいてきた。
勢いに押された神威は、苦笑いしながら
「ああ、お
つい口に出てしまった、というように神威は口を押える。
珍しく人をからかうような発言をしてしまったことに、本人が一番驚いていた。
すると、すぐさま雛は怒りだした。
「酷い! 神威さんまで私を女扱いするんですか?」
「すまない、つい……な」
雛の反応が見たかった……なんて、絶対口に出せない。
神威は、怒っている雛から視線を逸らした。
そんな二人の
「神威、あいつ……怪しい」
じとーっと神威のことを睨みつける宇随。とうとう我慢できずに駆け出した。
「おーい! おまえら二人で何楽しそうにしてるんだ?
ずるいぞ、俺も混ぜろー!」
両手を広げ、叫びながらこちらへ走ってくる宇随。
その姿を発見した雛は、可笑しそうに笑いながら笑顔を向けた。
「宇随さん、どうしたんですか? さては一人で寂しかったとかっ」
雛にずばり言われて、宇随がギクッとする。
「う、うるせえ! おまえこそ、俺がいなくて寂しかったんだろっ」
「そんなことありませんよ」
冗談を言いつつ、二人は笑い合う。
そんな二人を見て、今度は神威が少し不機嫌そうな表情になっていた。
しかし、雛と宇随はそれに気づくことはなかった。
夕刻、屋敷の広間では盛大な
豪華な食事と酒が提供され、皆少し
「雛ちゃん、可愛いねぇ。お
隊の仲間の一人が、雛に
顔は真っ赤で、ろれつも回っていない。完全な酔っぱらいだ。
「え? ああ、はい」
雛が場の空気を読み、お酒を
「ちょっと待て! 誰がこいつにちょっかい出していいって言った?」
ふらふらとした足取りで雛に近付いてきた宇随。その顔は真っ赤だった。
「こいつにお酌してもらおうなんて、ひっ、百年早いんだよっ。出直してこい!」
だいぶ酔っているようで、態度がいつも以上にデカく横柄になっている。
「なにーっ。おい宇随、おまえ雛ちゃんに負けたくせに、偉そうに言うな」
「あーーっ、それ言っちゃうんだ。ひでーっ。
そうですよぅ、どうせ俺は雛に負けましたよ。情けない男だようっ」
今度は宇随がメソメソと泣き出した。
コロコロと気分が変わる、やっかいな酔っ払いだ。
「雛、俺カッコ悪いよな?」
雛の方へ体をぐっと近づけてきた宇随。その顔が、もうすぐくっつきそうなほど近くになった。
「そこまで!」
急に宇随の顔が誰かに掴まれ、雛から引き剥がされる。
「うがっ」
宇随が呻く中、神威が不機嫌そうな表情で見下ろしていた。
「酔っ払いの絡み合いは見苦しいぞ、その辺にしておけ。……あと」
先ほど雛にお酌をねだっていた男を鋭い眼差しで睨みつけた神威が、その男の耳元でそっと囁く。
「あまり調子に乗っていると……知りませんよ」
真の底から冷えるような
それが余計に恐ろしさを倍増させる。
男は一気に青ざめ、酔いがさめたかのように急に真面目な顔をして雛に謝った。
「ご、ごめんな、調子にのりすぎたよ。勘弁してくれ」
「いえ、私は別に……」
男はいそいそと自分の席へと戻っていった。
「宇随、おまえも酒癖悪いな」
神威が宇随に視線を送る。
宇随はもう既に夢の中だった。
すやすやと気持ちよさそうに雛の膝の上で眠っている。
神威のこめかみの血管が浮いた。次の瞬間、宇随の頭に拳が振り下ろされた。
「いってーーーっ!」
宇随は頭を抱え飛び起きる。
「何すんだよー! せっかく気持ちよく寝てたのに」
宇随が神威を睨むと、神威の視線がゆっくりと宇随を捉える。
それは、この世のものとは思えないほど恐ろしい目つきだった。
宇随は寒気がして、ブルっと身震いする。
「か、神威くん……落ち着いて。冗談きついよ。なあ、雛?」
宇随は急いで雛の背に隠れる。
雛はなぜこんな展開になっているのかさっぱりわからず、神威を見つめた。
確かに神威は何かに怒っているようだった。
「……どうしたんですか? 神威さん、いつもの神威さんじゃないみたい。
もしかして酔ってます?」
「……そうかもな」
不機嫌そうな表情の神威は、そのまま自分の席に戻っていく。
宇随はほっと胸を撫で下ろし、雛の隣に腰を据える。何事もなかったかのようにまた食事を始めた。
なんとも
皆から責められても、ちっともへこたれないその精神は見習いたいな。と雛は呆れつつ感心していた。
神威の様子は気になるが、せっかくだしここは宴を楽しもう。
そう思った雛は、残りの時間、