「
俺や
「一年生じゃ知らなくても無理ないわねー。この学校の文化祭で毎年行われている行事で、部活動やクラスごとに制作したポスターでエントリーするの。そして京桜祭の当日に全校生徒で投票を行い、その順位を競うのよ」
「部活の存在をアピールするために参加する部活も多いですよね。去年の天文部は星の砂やビーズを散りばめたポスターを作っていましたし」
先生に続いて、朝倉先輩もどこか楽しそうにそう口にする。
エントリーした作品は必ず人の目に触れるだろうし、広告目的もあるのかもしれない。
「三位以内に入れば閉会式の時に表彰されるし、十分実績になるんじゃないかしら」
先生は右手の人差し指を立てながらそう続けるも、一抹の不安が俺の頭をよぎる。
「そのコンクールって、美術科や美術部は参加しないんですか?」
「当然出てくるわよー。伝統あるイベントだし、コンクールの優勝作品は翌年の文化祭ポスターに使われるの。そこには制作者の所属や氏名も載るから、絶好の宣伝チャンスだしね」
「そうですか……」
クラスマッチに運動部が出てこないように、美術部は出てこないかも……なんて期待を抱いたけど、見事に打ち砕かれてしまった。
「このコンクール、参加は自由だけど、入賞するとなると話は別よ。基本、上位は美術部や各学年の芸術科が占めているの」
思わず肩を落としていると、先生は神妙な顔でそう言った。
美術科の朝倉先輩を除いて、俺たちは素人の集まりだ。入賞を目指すとなると、相当ハードルが高くなるだろう。
「それでも、狙うなら優勝だよ! 打倒美術部!」
俺が頭を悩ませる中、部長は一人息巻いていた。どうやら先日の恨みがまだ消えていないらしい。
だけどもし、長い歴史のあるコンクールで新参者のイラスト同好会が美術部を押しのけて入賞しようものなら……一目置かれるのは間違いない。加えて、美術部の面目は丸つぶれだろう。
「わかりました。そのコンクール、俺たちも参加します。それで、やる限りは優勝を目指しますよ。打倒美術部です」
部長に背中を押されるように、俺は力強く宣言した。
「おお、
「う、内川君、本気なの?」
翔也と汐見さんは揃って驚愕の表情を見せるも、俺はしっかりと頷いてみせる。
あえて
「それにほら、ポスターサイズなら画材の費用も抑えられるし、なおかつ『イラスト同好会の作品』になるからね。これはやらない手はないよ」
皆の顔を見ながら言うと、それぞれ頷いてくれる。
「わかったわ。イラスト同好会の参加申請は私が出しておくから、皆は題材を決めておいて。まだ期間があるから急ぐ必要はないけど、クラスの展示物もあるだろうし。準備は早いほうがいいわよ」
「優勝を狙うなら、猫は描けないよね……わたしの出番、あるのかな」
皆で額を合わせながら参加規約を確認していると、汐見さんがそう呟いた。
今回のテーマは『当校の文化祭をイメージさせるもの』という、大まかなものだ。
先の天文部のポスターしかり、自由度は高いので猫のイラストが使えないことはないと思うけど、そこはアイデア次第だろう。
「文学的な猫のイラストとかどうかな……あるいは線画だけ描いて、朝倉先輩にパステルで塗ってもらうとか」
「ほのか、気持ちはわかるが、少し猫から離れろよ」
「むー、そういう翔也は何かいい案が浮かんでるの?」
「……航空写真をもとに描くのはどうだ?」
「ありきたりー」
幼馴染同士のそんなやり取りを横目に、俺は考えを巡らせる。
これまで必死に練習してきたので、ある程度のものは描けるようになったと自負しているけど、相手は美術部や美術科だ。
それこそ、朝倉先輩レベルの人材がゴロゴロいるようなもの。そんな連中相手に、俺たちが勝てるんだろうか。
……ダメだ。考えれば考えるほど、まとまらない。
俺は天井に向けて、大きく息を吐く。それから視線を下げてみると、その場にいる誰もが頭を抱えているようだった。
「……今日のところはこれくらいにしようか。また後日、アイデアを持ち寄ろう」
見るに見かねて、俺はそう口にする。直後、部室の空気が緩んだ気がした。
「賛成。お風呂入って一晩考えたら、いい案も浮かぶかもしんないしね」
「だな……このまま考えても埒が明かねえよ」
汐見さんと翔也はそう言いながら立ち上がり、鞄を手に部室をあとにしていく。
「私も過去の京桜祭のポスターを調べてみるわね。受賞しやすい傾向のようなものがあるかもしれないし」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
朝倉先輩にお礼を言ったあと、俺も鞄を手に帰宅することにした。
汐見さんの言う通り、シャワーでも浴びたらいいアイデアが浮かんでくるかもしれない。