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第18話 イラスト同好会、打ち上げに行く


『(ほのか) 明日のテスト終わったら、イラスト同好会の打ち上げを兼ねて遊びに行こう!』


 イラスト部(仮)のグループに汐見しおみさんからそんなメッセージが届いたのは、テスト最終日の前夜だった。


『(内川)打ち上げ?』


『(翔也)これまた唐突だなw』


『(ほのか)せっかくお昼から休みだし、遊びたいじゃん』


『(内川)打ち上げとか、やったことないんだけど』


『(ほのか)それならなおさらだよ。イラスト同好会の絆、深めよう!』


『(翔也)まもる、ほのかが言い出したら聞かないぞ。諦めろw』


『(内川)最近、それはわかってきたつもり』


『(ほのか)ひどいなぁ(T_T)』


『(ほのか)それで、カラオケとゲーセン、どっちがいい?』


『(翔也)すでに二択なのかよw』


『(翔也)それならゲーセン一択』


『(翔也)ほのかの歌は耳栓が必要だしな』


『(ほのか)ちょっと、内川君が誤解するでしょ!』


『(内川)別にしないけど』


『(内川)俺もゲーセンがいいかな』


『(ほのか)なら決定だね!』


 それから細かい打ち合わせをして、メッセージアプリを閉じる。


 学校ではよく一緒にいるけど、あの二人と遊びに行くのは初めてだ。今から楽しみだ。


「……いいなあ、ゲーセン」


「うわっ」


 すぐ後ろから声がして、とっさに振り返る。先程まで俺のベッドに寝っ転がっていたはずの雨宮あまみや部長の顔が、すぐ近くにあった。


「お、驚かさないでくださいよ……」


「別に脅かす気なんてなかったんだけどねー。明日、打ち上げいくの?」


「なんか、そういうことになりました」


 俺は再度アプリを開いて、履歴を部長に見せる。彼女はスマホの画面を見ながら、うんうんと頷いていた。


 ちなみにここ数日、彼女は夜になると俺の部屋に入り浸っていた。


 その理由は単純で、『夜の部室は暗くて本が読めないから』とのこと。


 もちろん今はテスト期間中なのだが、幽霊である彼女には試験なんてない。俺がテスト勉強していようがお構いなしだった。


「そうだ。せっかくですし、部長も打ち上げ行きます?」


「え、私もついていっていいの?」


 そんな提案をすると、彼女は驚いたように目をパチクリさせる。


「汐見さんのメッセージ見たでしょう? イラスト同好会の打ち上げなんですから、部長も来ていいんですよ」


「やった! ありがとう!」


「ひえっ」


 その意図が伝わったのか、声を弾ませた部長は背後から俺に抱きついてきた。


 ……先日二人でカラオケに行ってからというもの、彼女からのスキンシップがますます増えた気がする。


 もしかして、これまでは遠慮していて、彼女にとってはこれが普通だったりするのかな。


「楽しみー。早く明日にならないかなー」


 再び本を手にベッドに横になった部長を後目に、俺は高鳴る胸の鼓動を落ち着かせるように、テスト勉強に集中したのだった。


 ◇


 翌日の放課後。無事にテストを乗り切った俺たち三人は、開放感に満たされながら教室をあとにする。


 部長と校門前で合流したあと、目の前のバス停からバスで駅前に移動し、近場にあるハンバーガーショップで小腹を満たす。それから徒歩で目的地であるゲーセンへ向かった。


 たどり着いたのは、先日部長と一緒に来た総合アミューズメント施設――ラウンドフォーだった。


 その一階フロアはゲーセンコーナーになっていて、定番のメダルゲームや対戦型ゲームのほか、一部レトロゲームも置かれていてマニアにも人気がある……と、翔也しょうやが教えてくれた。


 賑やかな電子音が響き渡る店内を歩いていると、俺たちと同じ学校の制服もちらほら見受けられる。


 きっと彼らも、テストから開放された喜びに浸っているんだろう。


「さーて、何からやる? まずはストレス発散したいよね」


 一番に両替を済ませた汐見さんを先頭に、対戦型ゲームが並ぶ一角を進む。


 やがて彼女は一台の筐体の前で立ち止まる。それは銃を模したコントローラーを使って、迫りくるゾンビを撃ち倒していくゲームのようだ。


「これ良いかも。画面に出てるゾンビ、どことなく数学の担当教師に似てる気がするし」


「あはは、ホントだ。似てる似てる」


 その言葉を聞いた部長はツボに入ったのか、お腹を抱えて笑っていた。


 言われてみれば……似ているような気がしないでもない。


「そういや数学のテスト、今日返ってきたもんな。その口ぶりからして、ストレスの溜まる結果だったわけだ」


「あーあー、聞こえなーい! ほら翔也、まずはわたしのストレス発散に付き合え!」


 両耳を塞ぎながら言ったあと、汐見さんは硬貨を投入する。


 それから銃の形をしたコントローラーを手に取り、同じものを翔也に渡す。


 今回の打ち上げの言い出しっぺは汐見さんだったし、色々忘れたいのだろう。


 ……しばらくしてゲームが始まると、画面のいたるところからゾンビが飛び出してくる。


「翔也、右側お願い!」


「そう言ってるお前の背後にゾンビ来てんぞ。うりゃ」


 次から次に襲ってくるゾンビたちを、二人は息を合わせて撃退していく。さすがは幼馴染、見事な連携だった。


「今のは、さすがの翔也も危なかったんじゃないのー?」


「まだ距離あったから様子見してた。撃破ポイント盗まれちまったな」


「またまたー。久々のゲーセンで腕鈍ってるんでしょ」


 前方で繰り広げられる会話を聞く限り、この二人はちょくちょくゲームをしに来るのかもしれない。


「というか、部長ってゲームできないですよね。誘っておいてなんですが、つまらなくないですか?」


「楽しいよー。元々、ゲームはやるより見るほうが好きだし。あのゾンビ、リアルで気持ち悪いよね」


 画面を覗き込みながら、部長がそんな感想を口にする。


 幽霊に気持ち悪いと言われてしまうゾンビ。どこか可哀想だった。


「まあ、俺もどっちかっていうと、やるより見るほうが好きですね」


「うんうん。私たち、似た者同士だね」


 ちなみに無数のゲーム機が設置されている店内はすごく賑やかで、俺が部長と話をしたところで誰も気づかないだろう。


「あ、ほのかっちの右からゾンビが……と思ったら、三原くんが素早く守った」


「翔也、あの数のゾンビを一人で相手にできるのか。すごいな……」


 俺と部長は感心しつつ、楽しげにゲームをプレイする二人を見守っていたのだった。


「はー、楽しかった」


 その後も翔也と汐見さんは襲い来るゾンビたちをなぎ倒し続け、そのまま最終ステージまでクリアしてしまった。


「二人とも、すごい腕前だね……」


「ほれ、次は護の番だぞ」


 彼らの戦いの余韻に浸っていると、翔也からコントローラーを手渡された。


「俺、この手のゲームやったことないんだけど」


「大丈夫大丈夫。わたしも得意じゃないけどクリアできたし」


 汐見さんは額の汗を拭いながら、笑顔を見せてくる。


 それは翔也がすごかっただけじゃ……とは、とてもじゃないけど言えなかった。


「それなら、ゲームモード変えてみろ。ゾンビの倒した数を競うモードがある」


「いいねぇ。内川君と勝負だ。手加減はしないよー」


 そう言うと、彼女は八重歯を見せて笑い、再び硬貨を入れる。どうやら俺に選択肢はないようだ。


「トリガー引いて攻撃、銃身のこの部分をスライドさせてリロードな」


「これで攻撃、こっちがリロード……」


 翔也に操作を教えてもらっている間にも画面は進み、ゲームが始まる。


「よしよし、ほのかっちにかっこいいところを見せるため、私が手伝ってあげよう」


 さっそく画面に現れたゾンビに銃口を向けていると、部長がそう言って俺の隣に並び立った。


 これは心強い……のだろうか?


「あの壁の裏にゾンビが隠れてるから近づかないように注意して! あ、左から別のゾンビが! 右からも!」


 肩が触れそうな位置に立つ部長は的確な指示をくれるのだが、その声が大きいせいか逆に焦ってしまう。


 加えて普段ゲームをやらないのもあって、俺はミスを連発。終わってみれば、完敗だった。


「惜しかったよー。もうちょっとだったね」


 奇しくも部長と汐見さんが同じ言葉で俺を励ましてくれたけど、倍ほど離れているスコアを見ればその差は歴然だった。


 ……まあ、なんだかんだで楽しめたし。ここはよしとしよう。


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