『(ほのか) 明日のテスト終わったら、イラスト同好会の打ち上げを兼ねて遊びに行こう!』
イラスト部(仮)のグループに
『(内川)打ち上げ?』
『(翔也)これまた唐突だなw』
『(ほのか)せっかくお昼から休みだし、遊びたいじゃん』
『(内川)打ち上げとか、やったことないんだけど』
『(ほのか)それならなおさらだよ。イラスト同好会の絆、深めよう!』
『(翔也)
『(内川)最近、それはわかってきたつもり』
『(ほのか)ひどいなぁ(T_T)』
『(ほのか)それで、カラオケとゲーセン、どっちがいい?』
『(翔也)すでに二択なのかよw』
『(翔也)それならゲーセン一択』
『(翔也)ほのかの歌は耳栓が必要だしな』
『(ほのか)ちょっと、内川君が誤解するでしょ!』
『(内川)別にしないけど』
『(内川)俺もゲーセンがいいかな』
『(ほのか)なら決定だね!』
それから細かい打ち合わせをして、メッセージアプリを閉じる。
学校ではよく一緒にいるけど、あの二人と遊びに行くのは初めてだ。今から楽しみだ。
「……いいなあ、ゲーセン」
「うわっ」
すぐ後ろから声がして、とっさに振り返る。先程まで俺のベッドに寝っ転がっていたはずの
「お、驚かさないでくださいよ……」
「別に脅かす気なんてなかったんだけどねー。明日、打ち上げいくの?」
「なんか、そういうことになりました」
俺は再度アプリを開いて、履歴を部長に見せる。彼女はスマホの画面を見ながら、うんうんと頷いていた。
ちなみにここ数日、彼女は夜になると俺の部屋に入り浸っていた。
その理由は単純で、『夜の部室は暗くて本が読めないから』とのこと。
もちろん今はテスト期間中なのだが、幽霊である彼女には試験なんてない。俺がテスト勉強していようがお構いなしだった。
「そうだ。せっかくですし、部長も打ち上げ行きます?」
「え、私もついていっていいの?」
そんな提案をすると、彼女は驚いたように目をパチクリさせる。
「汐見さんのメッセージ見たでしょう? イラスト同好会の打ち上げなんですから、部長も来ていいんですよ」
「やった! ありがとう!」
「ひえっ」
その意図が伝わったのか、声を弾ませた部長は背後から俺に抱きついてきた。
……先日二人でカラオケに行ってからというもの、彼女からのスキンシップがますます増えた気がする。
もしかして、これまでは遠慮していて、彼女にとってはこれが普通だったりするのかな。
「楽しみー。早く明日にならないかなー」
再び本を手にベッドに横になった部長を後目に、俺は高鳴る胸の鼓動を落ち着かせるように、テスト勉強に集中したのだった。
◇
翌日の放課後。無事にテストを乗り切った俺たち三人は、開放感に満たされながら教室をあとにする。
部長と校門前で合流したあと、目の前のバス停からバスで駅前に移動し、近場にあるハンバーガーショップで小腹を満たす。それから徒歩で目的地であるゲーセンへ向かった。
たどり着いたのは、先日部長と一緒に来た総合アミューズメント施設――ラウンドフォーだった。
その一階フロアはゲーセンコーナーになっていて、定番のメダルゲームや対戦型ゲームのほか、一部レトロゲームも置かれていてマニアにも人気がある……と、
賑やかな電子音が響き渡る店内を歩いていると、俺たちと同じ学校の制服もちらほら見受けられる。
きっと彼らも、テストから開放された喜びに浸っているんだろう。
「さーて、何からやる? まずはストレス発散したいよね」
一番に両替を済ませた汐見さんを先頭に、対戦型ゲームが並ぶ一角を進む。
やがて彼女は一台の筐体の前で立ち止まる。それは銃を模したコントローラーを使って、迫りくるゾンビを撃ち倒していくゲームのようだ。
「これ良いかも。画面に出てるゾンビ、どことなく数学の担当教師に似てる気がするし」
「あはは、ホントだ。似てる似てる」
その言葉を聞いた部長はツボに入ったのか、お腹を抱えて笑っていた。
言われてみれば……似ているような気がしないでもない。
「そういや数学のテスト、今日返ってきたもんな。その口ぶりからして、ストレスの溜まる結果だったわけだ」
「あーあー、聞こえなーい! ほら翔也、まずはわたしのストレス発散に付き合え!」
両耳を塞ぎながら言ったあと、汐見さんは硬貨を投入する。
それから銃の形をしたコントローラーを手に取り、同じものを翔也に渡す。
今回の打ち上げの言い出しっぺは汐見さんだったし、色々忘れたいのだろう。
……しばらくしてゲームが始まると、画面のいたるところからゾンビが飛び出してくる。
「翔也、右側お願い!」
「そう言ってるお前の背後にゾンビ来てんぞ。うりゃ」
次から次に襲ってくるゾンビたちを、二人は息を合わせて撃退していく。さすがは幼馴染、見事な連携だった。
「今のは、さすがの翔也も危なかったんじゃないのー?」
「まだ距離あったから様子見してた。撃破ポイント盗まれちまったな」
「またまたー。久々のゲーセンで腕鈍ってるんでしょ」
前方で繰り広げられる会話を聞く限り、この二人はちょくちょくゲームをしに来るのかもしれない。
「というか、部長ってゲームできないですよね。誘っておいてなんですが、つまらなくないですか?」
「楽しいよー。元々、ゲームはやるより見るほうが好きだし。あのゾンビ、リアルで気持ち悪いよね」
画面を覗き込みながら、部長がそんな感想を口にする。
幽霊に気持ち悪いと言われてしまうゾンビ。どこか可哀想だった。
「まあ、俺もどっちかっていうと、やるより見るほうが好きですね」
「うんうん。私たち、似た者同士だね」
ちなみに無数のゲーム機が設置されている店内はすごく賑やかで、俺が部長と話をしたところで誰も気づかないだろう。
「あ、ほのかっちの右からゾンビが……と思ったら、三原くんが素早く守った」
「翔也、あの数のゾンビを一人で相手にできるのか。すごいな……」
俺と部長は感心しつつ、楽しげにゲームをプレイする二人を見守っていたのだった。
「はー、楽しかった」
その後も翔也と汐見さんは襲い来るゾンビたちをなぎ倒し続け、そのまま最終ステージまでクリアしてしまった。
「二人とも、すごい腕前だね……」
「ほれ、次は護の番だぞ」
彼らの戦いの余韻に浸っていると、翔也からコントローラーを手渡された。
「俺、この手のゲームやったことないんだけど」
「大丈夫大丈夫。わたしも得意じゃないけどクリアできたし」
汐見さんは額の汗を拭いながら、笑顔を見せてくる。
それは翔也がすごかっただけじゃ……とは、とてもじゃないけど言えなかった。
「それなら、ゲームモード変えてみろ。ゾンビの倒した数を競うモードがある」
「いいねぇ。内川君と勝負だ。手加減はしないよー」
そう言うと、彼女は八重歯を見せて笑い、再び硬貨を入れる。どうやら俺に選択肢はないようだ。
「トリガー引いて攻撃、銃身のこの部分をスライドさせてリロードな」
「これで攻撃、こっちがリロード……」
翔也に操作を教えてもらっている間にも画面は進み、ゲームが始まる。
「よしよし、ほのかっちにかっこいいところを見せるため、私が手伝ってあげよう」
さっそく画面に現れたゾンビに銃口を向けていると、部長がそう言って俺の隣に並び立った。
これは心強い……のだろうか?
「あの壁の裏にゾンビが隠れてるから近づかないように注意して! あ、左から別のゾンビが! 右からも!」
肩が触れそうな位置に立つ部長は的確な指示をくれるのだが、その声が大きいせいか逆に焦ってしまう。
加えて普段ゲームをやらないのもあって、俺はミスを連発。終わってみれば、完敗だった。
「惜しかったよー。もうちょっとだったね」
奇しくも部長と汐見さんが同じ言葉で俺を励ましてくれたけど、倍ほど離れているスコアを見ればその差は歴然だった。
……まあ、なんだかんだで楽しめたし。ここはよしとしよう。