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第12話 殺人サーバーしおみん


 ポスターを設置してから数日が経過するも、新しい入部希望者は現れなかった。


 これまでが調子良すぎたのだと頭では理解しつつも、俺は悶々とした日々を過ごす。


 気づけば、4月も下旬になっていた。


 この日の六限目は体育で、俺たちは一日の授業で疲れた体にムチを打ちながら、サッカーに興じていた。


まもる、こっちにパス回せ!」


 翔也しょうやからそんな声が飛ぶも、俺が蹴ったボールはなんとも微妙な場所へ転がっていく。


 中学の頃は絵ばかり描いていたのもあって、運動はかなり苦手だ。正直、皆の足を引っ張ってしまっている。


 一方の翔也は運動も勉強もできるようで、今日もチームの中心となって活躍している。


「内川くんも三原くんも頑張れー!」


 ちなみに雨宮あまみや部長はその姿が見えないのをいいことに、ライン際ギリギリまで来て応援してくれていた。


 気持ちは嬉しいのだけど、めちゃくちゃ恥ずかしい。


「あ、内川くん、チャンスボール! そこでオーバーヘッドだ!」


 ……そんなの無理ですから!


 心の中でそう言葉を返しつつ、飛んできたボールを受け止めてゴール前の集団へ蹴り込む。


 しかし狙いが悪かったのか、ボールはすぐさまクリアされ、かなりの勢いを持ったまま俺の頭上を超える。


 そのボールの行く先を見ていると、一直線に部長のもとへと向かっていた。


「ふぎゃ!?」


 そして次の瞬間、ボールは部長の顔面を直撃した。その衝撃に耐えられず、彼女はその場に尻餅をつく。


「あれ? 完全にライン割ったと思ったのに。風か?」


「ラッキー! 内川、センタリング上げろ!」


 ゴール前から、チームメイトの誰かが叫ぶ。それに応じるようにボールを蹴り込んだあと、俺は座り込んだままの部長に声をかける。


「……部長、大丈夫ですか?」


「うぅ……痛い」


「……幽霊でも痛みは感じるんですね」


「そうなの。うう、ひどい目に遭った。ほのかっちのほう、見てこよーっと」


 彼女はそう言うと、お尻と鼻を押さえながら体育館へと歩いていった。


 確か、女子はバレーをやっているはずだ。今度はアタックを当てられないように気をつけてほしい。


「おい護、ボール行ったぞ!」


 そんなことを考えていた矢先、思わぬところからボールが飛んできて、俺の顔面を直撃した。


 うう、これじゃ、部長の二の舞いじゃないか……。


 ◇


 ……そんなこんなで、体育の授業が終わる。


 明日からゴールデンウィークということもあって、校舎に戻る皆の足取りも軽やかだ。


 そんな人の流れに逆らうように、俺は正面玄関脇に設置された水道で顔を洗っていた。


「内川くん、おつかれい」


 すると、いつしか部長がやってきていて、俺にぱたぱたと風を送ってくれる。


 俺は水道の水を多めに出し、その音に紛れさせるように部長と会話をする。


「部長こそ、ぶつけられたところは大丈夫ですか?」


「へっ? う、うん! 顔に当たったのはもう痛くないし!」


 彼女はそう言いながらも、腰をさすっていた。


「……やっぱり、バレーでもアタック決められたんですか?」


「よくわかったね……決められたのは、ほのかっちのサーブ。アウトになったんだけど、まさかの私直撃コース。ぐはーってなった」


 自らの腰に拳を当てながら、吹き飛ばされるような仕草をする。それを見て、思わず吹き出してしまった。


「今日の授業はこれで終わりだよね? また部室で待ってるから」


 そんな俺の反応を見て満足したのか、部長はひらひらと手を振りながら去っていった。


 ◇


 それから帰りのホームルームを終えて、放課後を迎える。


 翔也も汐見しおみさんも、クラスメイトとなにか話をしていたので、俺は一人で部室へと向かう。


「内川くん、へいらっしゃい」


「部長、おつかれさまです」


 まるで飲食店のような対応をしてくれる雨宮部長に軽く挨拶をして、いつもの席へ腰を落ち着ける。


「……ポスター効果、出ないねぇ」


 いつものように絵の参考書を取り出したところで、部長がそう呟く。


「そうですね。俺たちがいない間に部室を覗きに来るような生徒もいないですか?」


「うーん、私の知る限りはいないねぇ。どういうこっちゃ」


 彼女は腕組みをしたまま、天井を見上げる。


 あれだけの数のポスターを張ったのだし、話くらい聞きに来る生徒がいてもおかしくはないのだけど。


「内川君、おつかれー」


「ちーっす」


 部長と一緒になって天井を見上げた時、汐見さんと翔也がやってきた。


「来たな、殺人サーバーしおみん。あの時はよくも」


 部長が何やら恐ろしげな二つ名で汐見さんを呼んでいたけど、当然彼女には聞こえていない。


「……はあ」


 鞄を置いて俺の対面に座った汐見さんは、同時に深いため息をつく。


「汐見さん、大丈夫? 体育の授業で疲れたとか?」


「へ? いやー、そうじゃないんだけどねー」


「数学の小テストの結果が悪かったらしいぜ」


「言うなー!」


 取り繕うような笑顔を見せる汐見さんの隣で、翔也が含み笑いを浮かべていた。


 そういえば、帰りのホームルームで先日のテストが返ってきていたような。俺はなんとか平均点超えていたし、そこまで気にしていなかったんだけど。


「ほのか、ゴールデンウィークが明けたらすぐに中間テストが待ってるぞー」


「わかってるから言わないでよ……うう、猫ちゃんたち、わたしを癒やして」


 そういうが早いか、彼女は鞄からスケッチブックを引っ張り出し、一心不乱に猫のイラストを描き始めた。


 変わったストレス発散法だ……なんて苦笑しながら、俺も練習に戻ったのだった。



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