「駄目だな、こんなのは」
俺が全身全霊を込めて描いた絵が、目の前でビリビリと破られていく。
力なく地面に落ちていくそれを、俺はただ見つめることしかできなかった。
「……駄目なのはわかりました。でもせめて、どこが悪いのか教えてください」
「んー、全部? 所詮は普通科レベルだね。基礎からやり直したほうがいいと思うよ。じゃ、二度と来ないで」
目の前の彼――美術部の部長は冷たく言い放つと、部室の扉を勢いよく閉めてしまった。
「……はぁ」
一人廊下に残された俺はリノリウムの床に散らばった絵の残骸を拾い集めると、肩を落として部活棟をあとにした。
◇
放課後の誰もいない廊下を、沈んだ気持ちであてもなく歩いていく。
俺――
ただ、他の連中より少しだけ、絵の腕前に自信があるというだけ。
……その自信も、つい先程粉々に打ち砕かれてしまったけど。
「この高校の美術部に入るため、一人暮らしまで決意したのに」
何度目かわからないため息とともに、そんな言葉が漏れる。
この
それなのに……まさか、あんな仕打ちをされるなんて。
数カ月かけて描き上げた絵を破り捨てられるさまが、一瞬でフラッシュバックする。
俺は必死に頭を振って、その記憶を打ち消した。
「……これからどうしよう」
中学を卒業してから、ずっとこの学校の美術部に入ることだけを考えていた。
その目標が絶たれた今、俺の学園生活はほとんど終わったようなものだ。
このまま三年間、ただただ虚しく過ごしていくことになるのかもしれない。
……そんなことを考えていた矢先、目の前に貼られたポスターが目につく。
「……イラスト部?」
かなり古ぼけていたが、そこにはしっかりと『イラスト部』の文字があった。
この際、絵が描けるならイラスト部でも……なんて考えながら、俺はポスターを見ていく。
その活動場所は二階の多目的教室③。すぐそこだった。
「あ、誰かいる」
藁にもすがる思いでイラスト部の部室へ足を運ぶと、そこには一人の少女がいた。
紺色のブレザーにチェック柄のスカートといった制服姿で、その胸元から見えるリボンの色からして三年生のようだ。
机についた彼女は右手で頬杖をつき、時折体を揺らしていた。そのたびにショートボブに切り揃えられた髪がわずかに揺れる。
イラスト部の部室のはずなのに、彼女が絵を描いている様子は微塵もなかった。
「あの、ここってイラスト部の部室ですよね?」
「――キミ、私が見えるの!?」
……少女の第一声がそれだった。