後藤兄弟のいる施設にアポを取ろうとしたが、直ぐに面会は出来なかったので先に島谷がいる実家に行くことにした。
しかし色々と事件が重なり、結局はアポを指定された後藤兄弟の施設に先に行くことになってしまった。それに中野から送られてきた資料もまだ満足に読み込めてはいない。
「ほう、子供ばかりが集められておる場所なんじゃな」
将門はピーポー君から出て、面会室の中をバルーン風船みたいに漂っている。部屋の中には木製のテーブルと椅子、それとは別に遊べるためのスペースが設けてあった。
「それもちょっと訳アリを主に受け入れている施設だよ」
清潔感があって温かみがある雰囲気に、しっかりとした施設だと鈴が少しだけホッとしていた。
「失礼します」
ノックされたドアから職員と兄弟の兄のほうである勇気が入ってきた。
「久しぶり勇気君」
女性職員にやんわりと背中を押されて下を向いたままで、顔を上げてはくれない。もしかしてと思った鈴は、声のトーンを上げた。
「お土産を持って来たよ~~シュークリーム。ここの美味しいから正樹君と後で食べたらいいよ」
女性職員は「三〇分以内でお願いします」と出て行った。
立ったままの動かない勇気の手を掴んで、マットは敷いてあるスペースにゆっくりと移動する。嫌がる様子はないから拒否反応はなそうだ。そのままスペースに勇気は正座をした。
「足は崩していいから。痺れるよ」
「――さい」
「ん?」
「刺してごめんなさい」
膝の上でギュッと拳を作ってポタポタと涙で濡れていく。
「あ~~大丈夫大丈夫。めっちゃ元気でしょ? 私。それに少し前は血を吐いてさ。それでも元気だから大丈夫よ」
「血を、吐いたの?」
「そうそう! めっちゃビックリするよね~~先輩もビックリして病院で検査しろってうるさくて」
「それは、行った方がいいんじゃないの?」
「う~~ん原因が分かっているからいいの」
涙は止まって会話は出来そうだと判断した鈴は、早速本題に入る事にした。
「あの今日は勇気君に聞きたことがあって来たんだ」
「聞きたい事?」
「そう。そうだな~~まだアパートにいる時に、誰か知らない人と話したりした事はあった?」
「知らない人?」
「そう。覚えていなかったらいいんだけど」
「あったよ。優しいお姉さんが、辛い事があるなら力になってあげるって言われた」
「それで?」
「両手をギュっと握られて、力を分けてあげたからこれで大丈夫だって」
「どんな人か覚えてる?」
「う~~んっと、肌色のワンピースを着てて綺麗な人だったと思う。でも気持ち悪くて直ぐに逃げたんだ」
「綺麗な人だったのに?」
「うん」
子供は鋭いから何かを感じたのかもしれない。写真が入手できていないので顔の確認はできないが……あ、っとスマホの写真ホルダーを開いた。
「この女の人だった?」
「違うよ」
鈴が見せたのは、田中から貰った写真で紗季が写っているものだ。
「これからは知らない人とは話しちゃ駄目だよ」
「――うん。あの女の人に会ってから、変な声が頭の中で聞こえるようになったから……」
「そっか」
勇気に言葉をかける代わりに、そっと小さな体を抱いた。
後藤は肌色のワンピースと言っていた。多分ベージュ色の事だ。田中、後藤と接触していたのは鬼塚だろうと確信めいたものがあった。田中もベージュのワンピースと口にしていた。
ベージュのワンピースの印象と言えば、鈴にとっては紗季の方になる。それも血に染まったワンピースだ。なのにベージュのワンピースを着ていたのは鬼塚。どういう事だろう。何か意味があるんだろうか。それに話しを聞いた二人は若くて綺麗と言っていた。
綺麗という言葉はフサから聞いた話から何となく、鬼塚という人物像が離れている気がするし若いという言葉が引っかかる。
当時二九歳なら今は五〇歳近い年になっているはず。いくら若づくりをしていても若いという表現にはならないはずだ。じゃあ鬼塚ではないのかもしれない、という結論は鈴の中にない。
車に戻って考えをまとめた鈴は、いつものように助手席に首だけで座っている将門に話しかけた。
「将門さん、人間が年を取らないってある?」
「急になんじゃ?」
「田中薫もさっきの後藤勇気も若い女の人だって言ってるんだよね。でも年齢的に鬼塚が若いって事はないじゃん」
「確かに。じゃが昔から得てはならん力を持ってしまった者は年を取らんこともあるからのう。鬼塚が年を重ねていないと事もあるかものう」
「そうなの?」
「うむ。それに呪いはある意味人の生命力みたいなもんだっぺ。あれほどの呪いを受け入れたら年を取らない、若返ることはあるじゃろうな」
「それって不老不死になるって事?」
「それに近い状態だっぺな」
なら若いという言葉は間違っていないのかもしれない。鈴は、持って来ていたタブレットを鞄から出してエクセルデータを開いた。
「動画でも見るっぺか?」
「何で車の中でわざわざ今、動画を見るのよ。中野さんからもらった紗季さんのデーターを見るの」
「なんじゃ。しかしタブレットを持って来ておったなら一言聞けば、移動中に儂は続きを見れたっぺ」
「テレビは家で見なさい」
「ケチ」
まるで子供とのやり取りみたいだなと、鈴が呆れてしまった。