鈴が桜葉透の話しから鬼塚らしき人物が出てこなったどころか、そういった人間との交流はある意味御法度みたいな雰囲気かあったのかもしれないと感じていた。
「あの鬼塚とうい名前に聞き覚えはありませんか?」
「鬼塚、ですか? いえ。ありません」
少し角度を変えて鈴は質問することにした。
「なら、紗季さんが一人で出掛ける事はありましたか?」
「ええ、それは勿論ありましたよ。紗季は明るい性格で社交的でしたので、よく学生時代の友人などに誘われてランチや買い物にでかけたりしていましたので」
「あの、紗季さんと一番仲の良かった人とか分かりますか?」
「はい。藤堂石油会社の藤堂沙知絵さんと浅村明音さんです。藤堂さんは従妹で、紗季を姉のように慕っていました。浅村さんは高校時代からの仲良くなった方です」
藤堂石油会社の名前だけで資産家なのが分かるが、もう一人の名前の会社が鈴には浮かばなかった。
「浅村さんって」
「浅村財務大臣の娘さんです」
名前をだされて政治家家系だったのかと、思わず頬が引き攣った。
浅村と言えば代々総理大臣を輩出している家で、浅村財務大臣と言えば時期首相候補と言われている。
そんな人の娘さんに話しを聞きにいかないといけないのか。お腹が痛くなってきた。鈴は何となくお腹を擦ってしまう。
「お父さんは」
急に口を開いた桜葉に、鈴は顔を向けた。
「何だ?」
「お父さんは、お母さんの事が好きだったんですか?」
息子の質問に首を傾げる姿は、やはり親子なのか表情はよく似ていた。
「何を当たり前この事を言っているんだい? 紗季ほどの女性はこの世にはいないと私は断言できる」
父親のその言葉に目を丸くして驚いていた。
「でも、冷たい態度をよくお母さんにとっていましたよね?」
桜葉透は少しバツが悪い顔をして、顔を背けた。
「あ~~まあ、紗季にも同じような事を言われていたんだが」
悪い事をして問い詰められている子供みたいに、徐々に小声になっていく。周りから聞く桜葉夫婦像と息子から見た夫婦像が違ったのは、今の桜葉透の様子から見て何か理由があったのかもしれないと、鈴は二人の黙って聞く事にした。
何が理由だったんだろう? 滅茶苦茶気になるのに溜めてるなあ。様子を見ていたら桜葉透と目が何度も合って鈴は首を傾げた。
「お父さん」
「あ、ああ」
痺れを切らした息子の声に観念したとか、渋々と言った感じで口を開き始めた。
「その、だな。父親の威厳って物を息子の前でしてみたくて……妻にデレデレしている父親に威厳はないだろう? だから顕の前でだけ妻には冷静な態度を取るようしていたんだよ。妻も協力してくれると言ってくれたし。でも後になって顕が、私が妻を嫌っていると思っていると聞いて真っ青になったよ。だから修正しようとしたんだが――色々と私自身の行動が恥ずかしくなったのと、急に息子の前で妻に愛情を示すのが妙に気恥ずかしくてね。その結果だよ」
馬鹿らしい。本当に馬鹿らしい。何に夢を見ていたんだろう? 金持ちの考えていることは分からないと、鈴は顕を初めて心底哀れだ。顕も明かされた理由に、頭を抱えている。
「その、本当なんですか?」
「そうだね。ちょっと戦国武将関連の本に嵌っていて、影響されてしまったんだよ。面目ない」
「はあ~~~~」
長い溜息を吐きたい気持ちは分かるよと、桜葉の肩を思わず擦った。
原因の張本人は言った事にスッキリしたのか、ホッとして薄っすらと笑みを浮かべている。二人の肩に乗っているハンドさんは何故かオッケーサインを出しているが、何がオッケーなのか鈴にはサッパリだが何故か、楽し気に感じた。
紗季についての話が何となく纏まった後、鈴と桜葉の関係の話になってきたので、何か分かったら連絡先をと渡して鈴は屋敷を出た。もちろん桜葉は送ると言い張ったが、父親と腹を割って話した方がいいと強引に留めてきた。
色々と一気に起きて濃い日だったなあと思いながら、鈴は巡回から戻ってきた機捜のデスクに座ってぼんやりしていた。
「何をぼんやりしてるんだ守矢。やっぱりまだ、体の具合が悪いんじゃないのか? 血を吐いたんだろ?」
「だ~か~ら~血を吐いたくらいでは死にませんよ」
「いやいやいや。血を吐いたら病気とか疑うだろ? 血を吐くって普通じゃないからな?」
「大丈夫ですって。ちょっとデトックスが大げさになった感じなんで」
「そうか? 今度、ちゃんと病院に行って、体の隅々まで検査してもらえ。分かったな?」
「もう、私の親ですか? 分かりましたから、行きますから」
言ったからな! 言質とったからな! と加地はやたらと騒いでいた。
「加地さん、後藤兄弟って今どこの施設にいるか知っていますか?」
「ん? あのお前を刺した兄弟のことか?」
「まあ、そうです」
「確か」と言いながらキーボードを叩き始めた。
「江東区の児童施設に入ってるな」
キャリアウーマンの島谷は実家に帰っている。加地と一緒に行くべきが迷った。でも一緒に行ってオカルトの方向に話しが行くと話が複雑になりそうだ。
やっぱり一人で行くしかなないかと、鈴は施設と島谷の実家の住所を調べてスマホで写真を撮って保存をした。