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第42話

 フランぺで上がった火をぼんやりと見ながら桜葉の様子を伺うが、何を考えているのか、難しそうな顔をしていた。


「桜葉さんとはなんか、毎日会っている気がする」

「僕としては、そう思ってもらえて嬉しいです」

「何で嬉しいの?」

「僕と言う存在が、鈴さんにとって身近な存在になっている証拠ですから」

「マジ止めて。怖いんだけど。ほとんど表情も壊さないから余計に怖い、ホラー」


 桜葉はふふふと声を出して笑った。


「桜葉さんがそんなに笑ったのを初めて見た」

「そうですか? そう言えばあまり笑わない気がします」

「気がするんじゃなくて、笑ってないよ多分」


 今までの桜葉さんの行動から冗談であって冗談でない気がして本気で怖い。ハンドさんは何故か指で輪っかを作ってオーケーサインを出しているけど鈴には意味を組み取れなかった。


 結局そのままデザートまで食べきって二人は店を出た。車に乗り込んで何となく沈黙が続いた。


「あの」


 同時に口を開いて声が重なる。鈴は「桜葉さんからどうぞ。絶対に譲りません」と先制をすると、桜葉は「ではお言葉に甘えて」と話し始めた。


「母は僕の側にいますか?」

「手だけね。全身で桜葉さんの近くに現れたのは、首塚が初めて」

「そう、なんですね。あの鈴さんがそもそも何故、首塚に行ったんですか? それに首塚に触れて血を吐きましたよね? あれってやはり平将門の祟りなんですか?」


 やっぱり気になるよね。目の前で血を吐かれたら。でもどこからどこまで話せばいいのか鈴は悩んだ。


「どうせなら平将門の首塚まで行こうか。それまでに桜葉さんへの回答を考える」

「考えないといけないような事なんですか?」

「うん」


 桜葉は納得したのか、そのまま車を首塚に走らせた。まだ時間も遅くない首塚は、夜の都会の喧騒もあってちょっとしたデートスポットにも感じられるが、中心にある首塚だけが古びていて、よく見れば少し異様でもある。


 さてどうしたものかと、鈴はポケットから出てきた将門に目で訴えかけた。


「全て話してもいいっぺよ。坊主の母上も絡んでおるし」

「だよね~~」と宙に向かって声をだす姿に、桜葉は首を傾げている。

「えっと、今ここに将門さんがいるんだ」

「え? 将門さん? あの大怨霊の平将門ですか?」


 浮かんでいる将門は「大怨霊ではないっぺよ~~都の者はそんなに儂を悪者にしたいっぺか」と凛々しい眉毛をハの字にしている。鈴は将門の言葉をそのまま桜葉に伝えた。


「と言っているの。ここにいる将門さんは神様の将門さん。そして首塚で言われている平将門の祟りとか怨霊ってのは、たまたまその時に色々あって将門さんが怨霊にさせられた? 感じみたい。本人はここで言われている平将門の祟りは自分じゃないって言ってる」

「え? 平将門の祟りじゃないんですか? でも怪我をした人や工事が進まないなど本当にありましたが」


「人のマイナスの念がここに溜まって怨霊を作ったみたいで、将門さんは無関係なんだって。だから大怨霊とか言われて悲しそうにしてる」

「そ、そうなんですね。申し訳ありません平将門様」


 桜葉さん私の前に向けて頭を下げて謝っているけど将門さんは今、首塚の周りで漂ってるんだよね。鈴は「将門さん、桜葉さんが謝ってるよ~~」と呼び寄せた。


「おお! どうしたっぺ」

「え? ここにはいないんですか?」


「いるんだけど……ここにいてあげて」と鈴は何もない空間に丸を作って場所を指定した。


「坊主には見えてなのは不便だっぺ」

「見えるほうが不便だけど」


 将門の声が聞こえない桜葉は目をキョロキョロとさせていた。


「さて本題に入ろうか。どこからどう話そうか迷ったんだけど、話すと長いのよ。だから簡単に纏めると、首塚の怨霊を取り込んだ人がいて、取り込んだ怨霊を人に憑かせて殺人事件が起こっている。そんな感じ」


 ざっくりと自分の事を省いて鈴は説明した。


「そんな事が起こっているんですか?」

「起こってるんだよね~~これが。信じる信じないは任せるけど、私は何度かその現場に駆けつけてる」


 中々に奇想天外というかファンタジーな話しだから驚くのもしょうがない。桜葉のかなり驚いた表情を見て鈴は苦笑せざる得なかった。


「あの」

「何?」

「その怨霊と僕の母は何か関係があるんですよね?」


 鈴はやはり気になるかと、将門を見て説明する決心をした。


「うん。桜葉さんに以前、警察官になって理由を聞かれた時に、探している人がいるって言ったのを覚えてる?」


 鈴の質問に桜葉は頷いた。


「子供の頃から二人の女性のイメーが私の頭の中に入ってきてたのよ。その女性の正体が最近判明したんだけど、一人は怨霊を取り込んだ人でもう一人は紗季さん、桜葉さんのお母さん」

「ちょっと待って下さい。母と怨霊って」


 珍しく桜葉はかなり動揺していた。希望を持つのはその人の自由。でも私は私の知っている事伝えよう。それで怒るなら仕方がない。鈴は事実を伝える事にした。


「まだ詳しい事までは分かってないけど、怨霊に憑りつかれた女性が紗季さんを殺した場面を見続けてきた。でもどこでどうなったかまでは分かってないし、どこに紗季さんがいるのかも分からない。怨霊を取り込んだ人の足取りもまだつかめてはない」


 紗季の遺体ではなく、紗季さんの場所という定義で鈴は説明した。死んでいるとは言え、息子本人の前で遺体とは言えない。桜葉の肩を確認した鈴は、ハンドさんの反応がないのを見ていた。


 でも特に怒っている訳でも嫌がっている素振りもないから、話してもいいんだろうと納得することにした。


「――あの、母は死んでいて殺された、と言う事ですか?」

「そうなる」

「その場面を鈴さんは子供の頃から見ていた、という認識で構いませんか?」

「うん。子供の頃は頻繁だったけど、大人になるにつれて週に数回になったかな。映像が見えるのは、紗季さんと波長が合って見ているんだと思ってた。だから見つけてあげたら成仏をして見なくなると思って警察官になったのが理由。でもどうもそうじゃないみたい」


 つい最近まで紗季さんが見せていた映像だと思っていたが、事件に関わるにつれて紗季さんじゃなくて山姥女の鬼塚とリンクしていたと気が付いた。


 なら鬼塚と自分は何故リンクしているのか? 鈴は鬼塚を追うようになってその疑問が次第に大きくなっていた。


「人が死ぬ場面を子供の頃から……辛くはなかったですか?」


 辛い? 私が? ずっと当たり前だと思っていたし、そんな言葉を掛けられたことがないから鈴は一瞬、何を聞かれたのか理解するまでに時間が掛かった。

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