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第39話

 登庁した途端に加地がすっ飛んできた。


「お、お前、昨日大量に血を吐いたって桜葉さんから連絡が入って、何で来たんだよ」

「何で、東和学園の事件が解決してないじゃないですか」

「そうだけどな、そうなんだけど血を吐いたって守矢、お前病気だったのか?」

「めっちゃ元気です、すこぶる元気です。ほら、血の気が多いと出した方がいいじゃないですか? デトックス? みたいな感じですよ」


 自分でも何を言っているか鈴にも分からなくなっているが、加地は「そ、そうか? デトックスか」と微妙に納得しているので、刑事なのにチョロ過ぎると鈴は少し呆れてしまった。


「それで、何か進捗はあったんですか?」

「それがな、生徒が自宅近くの公園で殺された」

「中等部の田畑康彦が殺人だとなれば、三人の生徒を殺害した事になりますね。それで今回の被害者の両親はどうだったんですか?」


 加地がデスクの書類を渡してきて、鈴は中を確認した。


「前回と同じですね」

「ああ。朝の捜査本部の会議で、北橋と被害者の関係については報告してある。同時に新たな被害者報告が上がってきていて、北橋の背景を掘り下げてから重要参考人で引っ張る事になるだろうな」

「そうですか。あとは証拠と自供が取れれば完璧ですね」

「そうだな。あとは所轄が解決するだろ。それより、体は大丈夫なのか?」

「はい。健康です」

「それならいいけどよ。まあでも、今日は内勤にしておけ」


 そういう訳にはいかないと思ったが、鈴は思いかけず庁内に居られるならと有難く加地の提案の受け入れる事にした。

 溜まっていた書類を素早く終わらせて、鈴がいるのは資料室だ。


「将門さんはここね」


 ピーポー君をキーボードの上に置くと「よいしょ」と動きだした。


「鬼塚未央を調べるんじゃな」

「うん。私が見た映像の季節感は分かるけど、年代が分からない。紗季さんの行方が分からなくなった十八年まえより少し前から調べてみる。手掛かりは、鬼塚未央が警察に届を出しているかどうかだと思う」

「どういう事だっぺ?」


 鈴は見た映像からどこかで暴行を受けた可能性がある事を伝えた。今回の検索は直ぐに終わるはず。検索に「鬼塚未央」と入力した。データー検索中が数秒出てきて画面が変わる。


「よし! ヒットした!」

「真か!」

「ほら」


 鈴と将門は、食いるように画面を見る。鬼塚未央。二十九歳。住所も連絡先も記載されている、当時やはり暴行を受けたようで、病院からの通報で警察に届が出されている。


 鈴は持っているスマホで電話をかけてみた。コール音が鳴っているという事は、もしかするとまだ本人が使っている可能性がある。


「はい木村です」


 電話は繋がったが、聞こえきたのは男性の声だった。


「あの、鬼塚さんのお電話では?」

「違いますが」


 鈴はパソコン画面に出ている番号を伝えたが、番号は合っていた。既に未央は携帯を昔に解約していて、たまたま出た男性がまたこの番号を使っているみたいだった。


「相手は鬼塚ではなかったのか?」

「うん。そんなに上手く事は進まないよね。とにかくこの住所に行ってみよう」

「そうじゃな」


 鈴はスマホでパソコン画面の写真を撮って、記載されている足立区に未央のアパートに向かった。古い建物と新しい建物が混在している場所の記録を見て探すが見当たらない。


「鈴、あったか?」

「住所はこの辺りのはずなんだけど」


 時間のせいか、人通りがほとんどない。しばらく付近を歩いていると、お婆さんが歩いているのを見つけた。


「あのすみません! この辺りにさざ波というアパートってないですか?」

「さざ波? ああ、もう七年ほど前に取り壊されましたよ。古かったし耐震も問題もあるからって」

「そうなんですね。あのさざ波に住んでいた鬼塚未央って女の人をご存じですか?」

「さあ、知りませんね。店子の事を知り単でしたら、元大家の三井さんに聞いたらいいと思いますよ」

「この辺りに住んでいるんですか?」

「ええ」

「住所、分かりますか?」


 詳しい住所までは分からないけど、お婆さんから聞いた住所付近で元大家の三井フサを探すことになった。


「五丁目ってこの辺だけど、将門さんも三井って表札を探してきて」

「あいわかった。では出てまいる」


 胸元から将門の生首が飛んで行く。丁寧に一軒一軒の家の前に止まって名前を確認している姿が、凄くシュール。霊感がある人が通りませんようにと、鈴は心から願った。


「あったっぺ! あったっぺ!」


 大きな声で叫びながら生首が突進してきた。


「ちょ、ちょっと」

「あったぞ~~! 鈴」


 笑顔の将門の生首が勢いをそのままに止まれずに、鈴を通り抜けていく。


「ひぇっ。何か気持ち悪かった」

「済まなんだ。あったぞ鈴」

「そ、そう。ありがとう。さすが将門さん」


 神様のはずなのに、手柄を立てた犬が尻尾を振ってきたみたいに見えた。生首なんだけど。将門を先頭に鈴は後を付いて行く。


 家は比較的に新しく、玄関が二つあるところを見れば、二世帯住宅だと分かる。三井フサの表札の下にあるインタフォンを鳴らす。


「はい」


 鈴はバッヂをカメラに向けた。


「突然すみません。警視庁機捜の守矢といいます。ささなみ荘のことでお聞きしたい事がありまして。お時間、少しいいでしょうか?」

「ええ。分かりました。少々お待ち下さい」


 しばらくして玄関から、七〇代くらいの白髪の女性がゆっくりとでてきた。


「ささ波荘の事の何をお知りなりたのでしょうか?」

「住人に鬼塚未央という女性がいたかと思うんですが、覚えておられますか?」

「鬼塚……ああ! あの子ね。覚えていますよ。取り壊すずっと前に出て行きましたが。鬼塚さんがどうかしたんでしょうか?」

「はい。事件に巻き込まれた可能背がありまして今、足取りを辿っているんです。鬼塚さんはどんな人でしたか?」


「施設育ちで身寄りがない子だったわね。生い立ちがそんなんだから少し暗い性格だったけど、挨拶もできる子だったわ」

「施設ですか? どこの施設か聞きましたか?」

「いえ。詳しくは聞いていません。でも都内とは聞いた覚えがありますよ」


 有力な情報だが、あとは自力で調べて見るしかなさそうだった。


「鬼塚さんと親しい人とか、部屋に出入りしていた人とかいましたか?」


 記憶を手繰り寄せているのか、しばらく唸っていた。


「いなかったと思います」

「そうですか。当時、何処で仕事をしていたか知っていますか?」

「派遣社員をしていたはずです。でも詳しい事までは分かりません」


 これ以上の情報は得られそうにもない。鈴は些細な事でもいいので思い出したら連絡をくれるようにと、名刺を渡して三井家を後にした。


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