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第35話

三〇代後半くらいの男性で中背中肉。左の目元に小さな黒子がある。隣に座る同僚の男性教師と今回の事件の事で話しているのか信じられないや、まさか学校内で等と聞こえてくる。


「もしかして刑事さんですか?」


怨霊付きではない男性教師が鈴に気が付いて声を掛けてきた。


「はい」

「あの、本当に殺されたんですか?」

「はい。説明があったかと思いますが。被害者の女子生徒の受け持ちを?」

「俺も、北橋先生も担当は一年生なので。俺は南田俊彦です。こちらが」

「僕は北橋登です」

「警視庁機捜の守矢です。お話は聞くことになるかと思いますので」

「そうなんですか?」


意外だと言わんばかりに聞き返してきたのは、怨霊付きの北橋だった。


「はい。大事な生徒さんが亡くなられたので、協力をお願いします」

「はい」


北橋登の周辺を調べるのに、どういう経緯でするべきかの対策を立てなければならない。接点を取りあえず作れた鈴は、前にいる加地の元に戻った。


生徒の登校が完了する八時半以降に被害者の安原奈々が在籍していた二年一組から話を聞いて行くことになった。


割り振りで鈴たちは他の教員たちの聴取をすることになったが、なら一年生担当教師たちを引き受けますと、先手を打って成功した。所轄は二年生の生徒と教師に重点を置くみたいだ。


話しを聞く場所は空き教室ですることになった。一年生担当の教員の話を順番に聞いていき、一年四組の担任が入ってきた。


「一年四組の北橋登さんですね」

「はい」

「どうぞおかけください」

「何だか面接みたいですね」


目が合った鈴は笑顔で北橋に頭を小さく下げると、相手もホッとした様子で頭を下げた。


「守矢、知り合いか?」

「いえ。さっき職員室で少しだけ話しをしたんですよ」

「そうか。では始めましょうか。生徒さんも待っているしょうでし」

「はい」

「二年の安原奈々さんの事はご存じでしたか?」

「いえ。学年が違いますし、もしかしたら校内ではすれ違っていたかとは思いますが」

「そうですよね。他の学年の生徒さんまでは覚えてないでしょうね。ところで去年は、何年生を持っていたんですか?」

「昨年は二年生でした」

「では昨日の昼から夕方にかけて、何処に居ましたか?」


加地がしている質問は、前の三人の教師にもしている。検死の結果、死亡推定時刻は昨日の午前一〇時頃から夕方一六時頃までと出ている。


そして前の三人の教師から返ってきた答えは「授業中で終わったら次の授業の用意で職員室に戻って準備をしていました」三人とも予想通りの答えだった。

ただ鈴が映像を見たのは昼頃だった。北橋も同じ回答だった。


「あの、北橋先生はその日のお昼はどうしていたんですか?」

「授業を終えて職員室に戻ってから、コンビニでパンとおにぎりを買ってきていたのでそれを食べてました」

「食堂ではなくて?」

「はい。昨日は五時限目の準備があって手早くお昼をすませたかったんですよ」


鈴の質問に当たり前のように答えた。


「担当教科って――」

「日本史です」


加地と目で合図を送ってきたので聞き取りは終了した。


「では、行ってまいる」と部屋を出ていく北橋を、鈴の内ポケットから魂みたいに出てきた将門が憑いて行った。


池から戻ってくる途中で将門に北橋を見張る事が出来るか聞いたら、出来るって言うからお願いしたが、何か心配でならない。たまにお上りさんみたいな行動で珍しいものに目が行って目を離しそうで。


とにかく今は将門に任せておくしかない。鈴たちは次の教師の聞き取りに入った。

午前中を使った一年生担当の教師たちの聞き取りをやっと終えた。


「疲れた~~! 腹減った~~守屋、桜葉さんに何か差し入れでも持って来てもらえよ」

「何、馬鹿なことを言っているんですか。あの人、大企業の社長じゃないですか。パシリに使わないで下さい」

「そうだけどさ。そう言えば最近は姿を見ないけど、とうとう諦めたか?」

「今、海外に出張に行っているらしいです」


桜葉から送られてきた風景画像をスクロールしながら見せた。


「カナダか? それにしても写真だけか? メッセージがないみたいだが」

「とりあえずは、もうしばらくは静かですよ」


トンカツを食べに行った次の日に、メールで急な出張でカナダに行くことになりました。お土産を買って帰ります。リクエストがあれば連絡ください。と送られてきてスルーしていたら、風景写真が不定期に送られてくるようになった。もちろんリアクションはしていない。


「女子高生が殺されたんですから、馬鹿な事を言ってないで仕事してください」と加地を思いっきり睨みつけた。

「そ、そうだな。そうだ中等部での変死の話しをただろ? 所轄にデータを送ってもらったから読むか?」

「読みます。あるならさっさと私にも送ってください」

「そうカリカリするなよ」


加地が目の前で直ぐに鈴のスマホへと転送して確認する。内容を読むと、事故死とも他殺とも判断がでず変死となっている。あの日は雨が降り、証拠があったとしても全て流されてしまった可能性がある。


「中学生が死亡したのは平日で学校が普通に登校日。雨の日にわざわざ学生があの池までいく理由って何ですかね?」

「そうなんだよな~~仮に他殺だとしたら学校内部に犯人がいる可能性がかなり高い。それにこんな短期間に学年が違うとは言え、学生が二人も死んでるのも普通じゃない」


鈴は少し考えてから加地に「この二人の共通を探ってみませんか?」と提案した。鈴の提案に加地は同意し、学生二人の身辺を所轄とは別に調べていくことなった。

まず学生課で二人の記録を確認することから始める事にした。


「すみません。警視庁の者ですが、学生の記録を見せてください」

「はい。今回の事件の生徒さん、でしょうか?」

「ええ。安原奈々さんと一週間前に池で亡くなった男子中学生の―――田畑康彦君の二名分です」

「田畑君のも、ですか?」

「はい」


事務員は何か聞きたそうだったが、加地の圧に負けたのかそれ以上は何も聞いて来なかった。いつもは気の良いオジサンって感じだけど、やっぱり刑事だよね。こんな風だったらまだイケオジなのにもったいないと鈴は感じた。

渡された資料を手にし、学生課出てから中身を確認して分かった事があった。


「加地さん、これって偶然ですかね?」

「さあな」


子供同士には共通点はなかったが、親同士に共通点があった。安原奈々の母親、田畑康彦の父親がこの東和学園の出身者で、尚且つ誕生日を見る限り学年も同じだと思われた。


たまたま二人の親の出身校が同じで学年も同じだったとは考えにくい。もしかしたら北橋は子供ではなく、その親に怨みを抱いているのでは? と鈴は考えた。

捜査上に北橋を浮かび上がらせなければならない。


「加地さん、親に共通点があるじゃないですか? なら犯人とこの親たちと何か共通点があるんじゃないでしょうか?」

「――犯人もこの学校の出身者って事か?」

「はい」


鈴の言葉に加地は考え込んでいる。


「なら教師でこの東和学園出身者を洗ってみるか」

「はい」


学校の事務局で職員名簿の確認をすることになったが、手間はそんなにかからなかった。


「東和学園出身者の教師は五名。うち被害者の親と同じ年代は一人だけだな」


その一人は北橋登だった。


「とにかくこの情報を、夜の捜査報告の時にあげよう。進展があるかもしれん」

「はい」


これで北橋を引っ張り出せると鈴は少しだけ肩の荷が下りた。


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