店を出て、もう帰りたいと凄く気疲れをしていた鈴を乗せて、桜葉が次に向かったのはディズニーランドだった。あまりの落差に思わず桜葉を見上げて睨んでしまった。
「あの、ディズニーランドはお好きではありませんか?」
「――大丈夫です」
今日はずっと大丈夫ですばっかり言ってる気がする。悪気はないんだろけどと、鈴は桜葉と夢の国に足を踏み入れた。
園内に入ると胸元にいる将門さんはピーポー君から抜け出して「凄いっぺ! 凄いっぺ!」と生首の状態で飛び出し、桜葉のハンドさんもはしゃいでいる。
当の桜葉はキョロキョロとしていて落ち着きがないように見えた。それがさっきまで見ている顔より幼く見える。
「桜葉さんって何歳ですか?」
「僕は二七歳になりました」
「え?! そうなんですか? てっきり年上かと思ってました。なら今からお互い、ため口にしよう。敬語とかもう堅苦しいから」
「鈴さんは僕も一つ上でしたね」
「何で知ってんのよ。警察の個人情報駄々洩れで心配だわ」
「すみません。警視総監が頼んでもないのに家族構成や経歴を見せてくれたんで」
マジか。上層部とは思っていたけど警視総監だったとは。それでいいのか警視総監。もう何も言うまいと鈴は夢の国をそれなりに楽しむことにした。
将門のテンションも上がっていたから鈴は桜葉と少し距離を取って、見える人には気を付けて園内を飛び回ってきたらと言ったら「あい分かった!」と勢いよく飛んで行った。
ディズニーランドに武士の生首。楽しい思い出の写真に入り込まない様にして欲しい。とは言っても案外に死者はいるもので、暗い顔で所々にいたりする。
「桜葉さん、ディズニーランドって来た事ないの?」
「アメリカのワールドへは子供の頃に連れて行ってもらった事はありますが、日本は初めてで」
一般的には反対だけど、やっぱりスケールと住む世界が違う。鈴はせっかくおごりで来たからと、ジェットコースターから攻め行くことにした。
それなりに歩き回って休憩に入った店で、鈴がジュースを買って戻ってきたら桜葉は二人組の女性に声を掛けられていた。
あまりにも毎日見て慣れていたけど、高身長で顔が良いのを忘れてた。滅茶苦茶戻りくいな。このままバックレようかと考えていたが「鈴さん」と呼ばれて、去っていく二人組の女性に不満顔を向けられながら渋々席に戻った。
「ナンパ?」
「そうなのかな。一緒に園内を周ろうと言われました。でも僕には鈴さんがいるから」
この人、本当にこんなことを言うのにあまり表情を変えないから本音が分かりずらいんだよね。ジッと桜葉の顔を観察している鈴に、不思議そうに首を傾げていた。
ふと鈴は少し気になっていた事を聞いてみる事にした。
「桜葉さんのお母さんかお父さんって、ディズニーが好きなの?」
「え?」
「子供の頃にワールドに何度か行ったって」
「母が好きだった。子供の僕よりも楽しんではしゃいでいました」
「明るい人なんだ。ちょっと意外」
「明るくて、いい人です」
「お父さんはどんな人なの?」
「父は……冷たい人だ。家族に興味がない人」
園内の家族連れを眩しそうに見るから、何となくお金持ちはお金持ちで色々と苦労がありそうだと、鈴は飲んでいたジュースの氷をゴリゴリと砕いた。
天気が悪くなってきて、鈴はもったいないと思いつつもは園を出ることになった。
「ッツ!! 痛っ!」
「鈴さん!」
急に来たあの頭痛に、その場に鈴は蹲った。