「怨霊に近い状態なら、分かるんじゃないの?」
「それが分からんのじゃ。気配が分からんほどに怨霊を取り込んだ者が一体化しておるんじゃろうて」
「探す方法はあるの?」
怨霊に憑かれて人を殺した犯人たちは、確かに相手を憎んだり妬んだりはあったかもしれない。でもそれは本来生活、生きていく中でそれなりに消化やどうにかできるレベルだったはずだ。
それが怨霊に憑かれる事で妬み憎む相手を殺害してしまい、背負わなくてもいい罪を背負ってしまうのは余りにも理不尽だ。
そこまで考えて鈴はふと思った。
「ねえ将門さん。今日の事件では犯人が首を刃物で切って死亡。所轄で孫がお婆さん殺したあと、取り調べ中にペンを奪って首に突き刺したんだけど、怨霊が乗り移った人間を殺しにかかってる気がするんだけど」
グルんグルんと将門の生首が宙返りをし始めた。
「なにやってんの?」
「考えてるっぺ」
「回転する必要ってある?」
「むむ」
しばらくして動きがとまりカッと見開いた目が鈴を捉えた。答えが出た! と鈴は正座をして言葉を待つ。
「うん! 分からんっぺ!」
「なんやそれ!」
思わず似非関西弁で鈴は突っ込んでしまった。はあ~~と鈴は深く溜息を吐いた。
「まあ、それは課題として置いておこう。怨霊に憑かれた人が、誰かに危害を加える前にどうにかできないの? このままだと両者とも不幸にしかならないんだから神様、どうにかしなさいよ」
「神様は神様でも、儂は土地神様で、管轄外だっぺ」
「なら東京都の神様に協力してもらえばいいじゃん」
「基本的に神というのは、人間同士の諍いに干渉はせんのじゃ。儂は? と思ったっぺ? 儂の場合、怨霊が儂の名を持っておるから干渉ができるんじゃ」
なんというご都合主義だ。しかし将門の説明には納得ができた。神様が干渉できるなら、犯罪も病死もないだろうから。
神様パワーが使えないとなると、怨霊と同化した人物を探し当てるまで、乗り移られた人間と標的になる人間の二人が死ぬかもしれない。怨霊に憑りつかれて相手を殺して罪を償うのは本人だ。
鈴はそれを知ったうえで今後もしかすると、そんな相手に手錠をかけないといけなくなる。
「じゃが、今日の怨霊は大体の場所が儂にも分かったっぺ」
「そうなの! なら犯罪を犯す前に何とかなるじゃん!」
しかし、鈴の喜びも一瞬だった。
「儂が気配を感じられたのは、一番力が増幅する瞬間だったんじゃ」
鈴は、だから何? と首を傾げた。
「じゃから、相手を手に掛けようとする寸前だっぺ」
申し訳なそうに厳つい眉毛が下がっている。
「間に合わないんじゃん」
「――んだ」
部屋の中が静まり返った。
「と、ところで鈴。おめに聞きたことがあるんじゃが」
「う~~ん。今日は寝る。疲れた。将門さんまた明日でもいい?」
「あいわかった。はよう寝所にいくっぺ」
「ん。おやすみなさい」
ヨロヨロと部屋に入って行った鈴の背中を見つめる将門が、何かを探るようだった目をしていたのを鈴が知る由もなかった。