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第9話

「ちょっと待って。じゃあ祟りは? 将門さんの首は入ってないんだよね?」

「そこじゃ。生まれ故郷に帰ろうとした首が落ちた場所やら、儂がそこの住民を苦しめたやらで首塚ができたらしいっぺ。儂、そんなことしとらんのに」


 シュンとしているなと言葉で分かるけど、何せ姿はキーホルダーのピーポー君。アニメ目だから全く感情が読めない。


「将門さん、ピーポー君じゃなくて、神社の時みたいに人の姿で話せない?」

「よかよ」


 ポトンとピーポー君が倒れた。


「待って、将門さん。待って」

「何じゃなんじゃ?」


 現れたのは将門の首だけだった。


「何で頭だけなの?」

「体は神社だっぺ」

「で、私のところには頭だけきたと」

「そうでないと話せないっぺ」


 正論だけど、そうじゃないと鈴は一気に疲れがきた気がした。


「で、こうまでして何故ここに?」


 鈴はとにかく話を進めることにした。


「不運は、平将門の祟りじゃと人が言うようになり、本当にそういう力を得てしもうたっぺ」

「え? という事は、将門さん無関係ってこと?」

「そうだっぺ。でも長きに渡りそう人が認識してきたから、怨霊の塊になってしもうたっぺ。それがここ数十年近く前からやたら力を持ち始めよった。怨霊は人の恐怖や恨みや妬みで大きくなっておったが、より狂暴化し始めたっぺ」


 平将門の首塚って都心ド真ん中にあるから、まさしく妬みやらの温床だと思った。でも狂暴化したところで、普通の人にはみえないから問題がないんじゃない? 


鈴はプカプカ浮いている将門が、かなり深刻な顔をしている意味が分からなかった。


「でも別に、それで日本が滅びる訳じゃないんなら、見えない人たちには特に問題はなくない?」

「大問題だっぺ!」


 クワッと見開いた目はかなり迫力があって、鈴も思わず身を引いてしまった。


「な、何が?」

「怨霊が人に憑き、悪さをしよる」

「悪さ?」

「例えばじゃが、ある人物を憎むじゃろ? 別に殺したいほどじゃないのに悪意を増幅させてな、最終的には息の根を止めてしまうとかじゃな」

「駄目じゃん。殺人じゃん!」

「そうだっぺ。鈴は見たことがないっぺか? 黒い靄を纏った人間を」


 将門の口から黒い靄だと出た瞬間、鈴は「嘘でしょ?!」と叫んでいた。


「やはりあるんじゃな」


 鈴は壊れたロボットみたいに、何度も首を縦にふった。


「少し前に中学生の孫がお婆さんを殺した事件があったんだ。その孫には黒い靄が付いていた。それまでも結構いたけど、人が死んだのを知ってるのはそれだけ」


 その後、自分じゃないとまるで操られたと言っていたと聞いた。お婆さんに対して少なからず不満があったんだろうけど、殺したいほどではなかった。


 平将門の言う通りなら、怨霊が少年の心の隙間に張り込んでしまって殺してしまったという事になる。でも犯行を実行したのは、間違いなくあの少年なのだ。


「そうじゃったか。多分、それだけではないっぺ。大なり小なりこれからもっと増えるじゃろう」


 将門の言葉に鈴の動きが止まった。


「――増える? 殺人が」

「そうだっぺ。儂が思っていたより、怨霊の力が強くて驚いてるんじゃ」


 異動前の地域でも殺人はもちろん暴行事件もあったけど、でも全員が全員、黒い靄が付いていた訳じゃなかったし、全ての犯罪者を見た訳でもない。


 鈴はあのお婆さんを殺してしまった少年みたいな人が今後も増える? 知らないだけでいたのかもしれないと考えると、やるせない気持ちになった。


「それ、止められるの?」

「力を弱めることは出来ても、止めることはできんなあ」


 申し訳なそうな顔をしながら、将門の首は困った困ったと言わんばかりに、フワフワと円を描いて回り始めた。


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