神様だから悪い者ではないし、オッケーなんじゃない? 面倒臭くなった鈴は、考える事を投げ出した。
「私、守矢鈴です。守るに弓矢の矢、鈴と書いてリンです。東京で警察官をしています。二八歳独身です」
「守矢鈴。ふむ。色々と護られておるな。儂は平将門。鈴、儂はおめについて行くことにしたっぺ」
「はい? ついていくって?」
「そうじゃ。色々あってな。どうしようか悩んでおったら鈴が現れたっぺ」
付いて行くなのか憑いて行くなのか分からないけど、見える鈴にとっては傍迷惑でしかない。
「謹んでお断りいたします」と深々とお辞儀をした。
「儂が付いて行くと決めたっぺ。断れん」
「いやいやいや。平将門さんはここに奉られて神様でしょ? 離れたダメでしょ」
「心配無用じゃ。よし! そうと決まったら、鈴と一緒に帰るぞ!」
そう言うと、ス――ッと平将門は姿を消してしまった。
「え? 平将門さん? え? どこ? マジで私に憑いたの?!」
自分の背中を見ようとしたりしたけど、平将門が付いている気配を感じなかった。
車を駐車場に止めて、自宅マンションに着いた鈴はとりあえず洗濯機に服を突っ込んだ。
「何か、凄く疲れた~~」
少しだけ寝ようと鈴はソファに寝転んで、スマホでアラームをセットしておく。
「あれ? ピーポー君がいない。古かったしどこかで落としちゃったか」
また売店で買えるからいいかと、スマホをテーブルに置いて目を閉じようとした時だった。
「鈴。鈴」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「鈴」
「平将門~~!」
鈴はソファから飛び起きて、思わず構えを取った。
「ど、どこ?!」
「ここだっぺ。ここだっぺ」
床で黄色い物がピョンピョン跳ねていた。
「ピーポー君が動いてる!」
「儂じゃ。将門じゃ。この人形に入ってきたっぺ」
「は? マジで憑いてきたんだ。でもなぜにピーポー君」
「おめには入る訳にはいかんじゃろ」
「良心的だ」
「当たり前だっぺ」
「でも何で人形?」
「人の形は入りやすかったっぺ」
床でピョンピョンしていた黒ずんだピーポー君を拾い上げて、会話がしやすい様にテーブルに移動させた。
「それで何で付いてきたんですか?」
「色々あると言ってたじゃろ?」
そう言えばそんな事を言っていたかも? と鈴は首を傾げた。
「覚えてないですけど、それが何の関係があるんですか?」
「今の都、東京に儂の首塚があって、大怨霊と恐れられておるのは知っておるか?」
「有名ですからね。あの辺りのオフィスビルでは、首塚にお尻を向けて座らないようにしているとか、噂では聞いたことはありますね。祟りがあるとか」
将門、もといピーポー君が腕を組んで頷いている。
「儂は怨霊でもないし、そこに儂の首はないし祟ってもないんじゃ」
そう言えば、首が飛ぶ訳がないとか言ってなと、神社で話した事を思い出した。
「え? じゃあ祟りの話しは? 怨霊の話は?」
「祟りの前に怨霊だっぺ。儂の怨霊と言われているものは、人が創り上げたものだっぺ。儂じゃない」
「どういうこと?」
「初めから説明するとじゃな、儂は側近に裏切られて殺されたんじゃ。世が世じゃったから気を付けてはおったんじゃが、よりにもよって一番信頼していた側近だったんじゃ。確かに無念ではあったがそんな怨霊になる程、恨んではおらんよ。それに儂はこの通り、祀られて神格を得ておるじゃろ?」
確かに、神社に祀られることによって神格を得た平将門が目の前にいるなら、大怨霊と言われるのは真反対過ぎておかしい。それに首が飛ぶ訳がないと言っていた。
だからと言って、鈴は自分に引っ付いてきた真意がわからなかった。
「都心にある首塚に将門さんの首は入ってない?」
「ないっぺ。入っていても儂のではないっぺ」
何て事だ。長きに渡って恐れられてきた平将門の首塚に将門の首は入ってないのに、大怨霊だと恐れられてきたことになる