神社の由来を調べてみると、平将門の三女が父親の最後の地に建てと書いてあった。
「平将門って東京に首塚があるのに、普通に神社もあるのか」
一般的には平将門は怖い、大怨霊だと恐れられているけど地元では名士でかなり気さくな人だったらしい。平日とあって境内に人はほとんどおらず、神社の貸し切り状態だった。
ご利益は何かな? と調べてみるとご神徳とあって、国家平定、勝運、開運招福と書いてあった。
「お! 国家平定。警察官の私にぴったりじゃん」
本殿に進んで鈴を鳴らして礼儀にならって二礼二拍手一礼し目を閉じて手を合わせた。
私は警察官をしています。犯罪が少なくなりますように、と願いごとをして鈴は顔を上げた。
「よかっぺよかっぺ。罪を犯す奴はいつの時代も減らんね」
ん? 私の願い事に誰かが返事をしたけど、声にした? 鈴は目を開けて声がした方を確認したら。鎧兜姿のやたら眉毛が凛々しい男が立っていた。
「えっと、地元の人、ですか?」
「ん? おめ、儂が見えてるのか?」
「見てるも何も……あ」
やってしまった! 生きてる人じゃない。久々にハッキリとした、生身の人間と変わらないから油断したと鈴は、咄嗟になかった事にした。
「そろそろ家に帰ろう。旅行の片付けもしないといけないし」
「おい。おめ、儂が見えとるよな! 誤魔化しても遅いべ」
「いや~~天気がいいし旅行日和だった」
「おい! 儂を無視するな。おめがその気なら」
武士がいきなり抜刀して鈴に向かって構えた。
「あっぶな!」
「無視をするからだっぺ。見えておるな?」
まあ悪い霊じゃなさそうだしと、鈴は武士に向き直った。
「はいはい。見えてますよ。で、どちらさんですか?」
「おう! 儂はここに奉られておる平将門だっぺ」
「――やり直し!」
「へ?」
「そんな訳ないじゃん! 平将門が奉られている神社イコール神様! 神様がそう簡単に姿を見せる訳ない」
「いんや。儂はここに奉られている平将門本人だっぺ」
「首あるんじゃん! 東京に首塚あるじゃん!」
「おお! 儂の首が飛んいったというやつじゃな。首だけが飛ぶわけないっぺ。わははは!」
「やだ。夢もロマンもない」
首が飛ぶのがロマンなのか分からないけど、と心の中で自分で突っ込んでいた。
「で、女子。警察官をしておるそうじゃな」
「何で知ってるんですか」
「さっきお参りの時に言っておった」
「勝手に心の中を覗かないでください。プライバシーの侵害です」
「神様だっぺ」
「ガチ?」
「ガチだっぺ」
「ガチが通じた」
「ずっとここにおるからな」
死者を相手にして見てきた鈴でも神様は初めてで、どうしたものかとこめかみをグリグリ揉み始める。