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第4話

 要するに、軍部から妬まれたのだ。

 フールーエラーはそう結論付けて、ウンザリとした。

 藍国社などが暗躍されては、どちらにしろ面倒が起こる。

 彼は夜に黙って、二階の事務所に、クローズの札をかけて、リビングに戻ってきた。

「どゆこと、にぃやん?」

 しばらく事務所を閉鎖すると言われて、建築シミュレーションゲームを何となくやっていたミリシィリアが驚いた。

「嫌になった」

「は!? いきなり、また!? またなの!? それでどれだけウチが貧乏になってゆくか、わかってないの!?」

「少しぐらいなら、前の戦いの報酬があるだろう」

「そんなので足りると思ってるの!?」

 ミリシィリアは頭を抱えた。

「ああ見える、見える! 請求書の山が! 支払えない金額の要求が! 追い込まれる毎日が!」

「待て、おまえ何買った!?」

「アイス」

 即答だった。

「嘘つけ! 請求書の山ってなんだよ、どれぐらいかったんだよ、流氷か? 流氷でも買ったと言いたいのか、おまえは!?」

「あ、当たりだよ。さ、冴えてんじゃん」

「嘘つけよ!」

「で、クファイルドとの話はどうするの?」

 露骨に話題を変えてきたのが見え見えだったが、フールーエラーは乗ることにした。

「知らないな。もう、何も知らん。病気として籠るか、どっか遠くに行くか、どっちにする」

「駄々っ子か、にぃやんは」

 ミリシィリアは呆れたようにソファで丸くなるフールーエラーを見た。

「ダメだからね、にぃやん。ちゃんと、クファイルドに会ってもらうからね。さもないと、請求書で埋めてやる」

 銀行からの書類で山になる図が浮かび、フールーエラーはため息をついた。

 ミリシィリアは、また株に手を出したらしい。

 あれだけ、仕手戦なんかやめておけといっているのだが、彼女はすでに中毒になっているらしい。

「ったく。面白くもねぇ事ばかりだ」

 フールーエラーは思い切り頭を掻いて、起き上がった。

 ミリシィリアは再び息を吐く。

 この用兵家として一流の能力を持つ男は、自らその場に立ってこそだが、それにすら気分を悪くするという、相反した性格をしている。

 彼女は心底、複雑な心情をもったフールーエラーの不幸に同情するが、どうすることもできない。

 『二年間の平和』に『アスカフート海戦の勝利者』という二つの名誉も、彼にとっては、鬱陶しいものでしかないらしい。

「おまえさぁ、ミリシィリア、わかってるのか? どうしてクファイルドに関わるのが嫌な理由」

 彼女は、一瞬眉を寄せて首を振った。

「そうか。なら、教えてやるよ」

 フールーエラーは、携帯通信機を耳に当てて、誰かを穏やかな口調だが乱暴な言葉で、呼び出していた。

 しばらくして、三階の住居をノックする音が聞こえる。

 ミリシィリアが玄関に訪問者の対応しに出てゆく。

 現れたのは、ロルライカだった。

 この腹に何もつも抱えた男は、いい具合に寄っているらしく、アルコール臭をぷんぷんとさせて、リビングに入ってきた。

「何だよ、おまえから直接会いたいなんて珍しいじゃねぇか、フールーエラー」

 キッチンから椅子を一つ勝手に持ってきて、ソファの近くに置くと座った。

「ああ、ウチのモンが事態をよくわかってないらしいから、説明に来てもらったんだよ、ロルライカ」

「浮遊ディスプレイで足りるだろ。こっちだって、忙しいんだぜ?」

 怒った様子もなく、極々当然のようにうそぶく。

 ミリシィリアは、フールーエラーが座るソファの脇に、刃の長いカランビットが置かれているのに気が付いた。

 へらへらと嗤っているのも不気味で、何か、とんでもないことが起こりそうな予感を抱いた。

 わざと、彼女はカランビットのそばに腰かける。

「どういうことさ、二人とも」

 ミリシィリアは落ち着いて土地らにともなく訊く。

「忙しいだろうよ。だけど、用があるのは、おまえのほうだろう、ロルライカ。それとも、まだ準備不足だったか?」

 一体何の話かと、ロルライカは鼻で嗤った。

「とぼけるなよ。参謀本部二課別班が動いているって、動かしているんだろう? クファイルドのことで」

「・・・・・・へぇ。随分鋭いなぁ、フールーエラー」

 ロルライカは否定しなかった。

「そう、まだ準備が整ってないさ。だが、いずれおまえにはやってもらうことがある。もちろん、依頼として報酬は払う」

「また金かよ。金さえ払えば、何でも思う通りに動くとでも思っているのか?」

 フールーエラーは不機嫌になったのを隠しもしない。

「依頼ってなに?」

 ミリシィリアは空気を宥めるように、冷静な声をロルライカに向けた。

「何ちょっとなぁ、クファイルドに手を貸してやってだ、下の連中をごっそり海軍に突っ込んでしまいたいんだわ」

「それだけか?」

 フールーエラーの声は冷たい。

「まぁ、二代目のクファイルドは、おまえだな、フールーエラーよ」  

「・・・・・・な、ミリシィリア。おれが、面倒くさがった理由がわかるだろう?」

 彼女は、まだよくわからないといった様子で首をかしげる。

 フールーエラーは付け加えた。

「俺に、クファイルドを殺させる気なんだよ、最終的に。で、サイロイドたちを、主に海軍で勤務するように整備して、人間たちはめでたしめでたし。ってことになるらしいぞ、ロルライカ達の頭のなかではね」

「何それ・・・・・・」

 ミリシィリアは、彼の気持ちがわかった。

 一度関わったら、泥沼のように引きずりこまれるの世界の一つを見た気がし、世間から背を向けたがった理由に納得した。

「それでだ、ロルライカ。俺はしばらく仕事を辞めることにする。一切、世間ともおまえらとも全てから手を引く。わかったか?」

 フールーエラーの口調は、はっきりと力のこもったもので、まっすぐロルライカを見つめていた。                ロルライカは、へぇっと感嘆したように息を吐きた。

「それじゃぁ、困るんだよなぁ、フールーエラー? わかってんだろう、断れないってことに」

「おまえ程度の相手じゃ、話にならないようだな・・・・・・」   

 フールーエラーはそっと右手をカランビットの方へ移動させた。

 ミリシィリアは、その上に自分の手を重ねて、ロルライカを見つめつつ小さく首を振った。

「ロルライカ、一旦帰って。早く」

 彼女が珍しく真面目に強い態度を現したため、察したのか驚いたのか、ロルライカは大人しく、リビングから姿を消した。

「・・・・・・にぃやん、思いつめちゃ駄目だよ・・・・・・」

 彼が去って、しばらく静かなになった部屋の中で、ミリシィリアはフールーエラーを見つめる。

「・・・・・・ああ、ちょっと憂鬱なんだよ。確かに、あいつ一人を殺してどうにかなるってことでもなかったな・・・・・・」

「うん。今日はもう、寝よう。そして、明日、ちょっと出かけよう」

「よくわからんが、とりあえず寝るわ」

 フールーエラー彼女の目に送られて、面倒くさそうなまま、私室へ向かった。




 次の日、まだ足掻こうとしているのか、フールーエラーは、総督のリューシリィに会いに行くと言い出した。

「行こうぜ、にぃやん」

 昨晩と違って、ミリシィリアはいやに素直だった。

「ああ・・・・・・」

 彼女の変化に気づかないフールーエラーはさっそく水上バイクに乗り、ミリシィリアを連れた二台で首都圏に向かっていく。

 総督府のビルに到着したが、フールーエラーは一介の探偵で市民でしかない。

 断られるのを覚悟でカウンターの受付嬢に名乗り、総督に会いたいと告げたところ、意外にもすぐに部屋まで通してくれた。

 シンプルな総督室では、Tシャツにジャージの半ズボンを履いた少女が、ソファに寝ころんでテレビのバラェティ番組を、つまらなそうに見ているところだった。

「閣下、フールーエラー様がお見えです」

 受付嬢は言って、リューシリィの意識が彼らに向かったのを確認すると、すぐに退出していった。

「あー、よく来たな。まぁなんだ、好きなところでくつろいでくれ。どうしてこんなところまで来たのか、わからんが」

 リューシリィは、身を起こすと疑問だらけだという様子で、彼らの方に向いた。

 フールーエラーは立ったままで、ソファ傍の壁にもたれた。

 ミリシィリアは、飛び込むようにリューシリィの隣に座り、満面の笑みを浮かべた。

「閣下、おひさおひさー!」

「おー、ミリシィリア、久しぶりー」

 眠たげな顔をしたままだったが、リューシリィはミリシィリアの頭を乱暴に撫でて歓迎した。

「楽しい再会は後にして、話をきいてくれないかな、リューシリィ」

 フールーエラーは、昔の上司に敬語も使わなかかった。

 相手が気にした様子はないのは幸いだった。

「何だい、どうしたい?」

 背もたれに顎を乗せると、丁度フールーエラーの正面に顔が向いた。

「店じまいする。今回はその挨拶に来た」

 リューシリィは別段驚く風もなく、頷いた、「いいねぇ。私もそろそろ引退しようかと思ってたところだ。一緒に仕事辞めるか」

「は? ちょっと待て・・・・・・」

 意表を突かれたのはフールーエラーのほうだった。

「あんたが辞めたら、スフィルはどうなるんだよ。駄目だろう、さすがに」

 フールーエラーは、多少なりとも慌てた。

「だって、仕事したくないんだもの」

「いや、わかる。だけど、俺とあんたじゃ責任の重みが違うし」

「職業に貴賤はないと言いたい」

「あのなぁ、それもそうだが・・・・・・」

 フールーエラーは、彼女の反応で格の違いを思い知らされた気分だった。

 彼のせいでリューシリィが辞めたとなると、それこそタダでは済まない。

「え、ダメなの?」

 ミリシィリアだけが、素直に疑問を声にする。

 フールーエラーはため息をついた。

「わかったよ。わかりましたよ。やめなければいいんでしょ、まったく・・・・・・」

 諦めた彼に、リューシリィはうんうんと返事をする。

「まー、世の中こんなもんだよなー」

 彼女は悟ったようなことを言う。

「・・・・・・じゃあ、ちょっと聞きたい。俺にサイロイドをまとめさせて、何をするつもりなんだ?」

「あー、一応ハユーリに対抗しようという話だなぁ」

「人間だけを集めて、か?」

「そういうことらしい。あいつらも人間なんだかどうなんだか知らんが、計画している連中が言っていたよ」

「それなら、それでまたやることができた」

 フールーエラーはすぐにでも考えを切り替えた。

「そうかい。そりゃ、良かった」

「さてと、じゃあもう行くぞ」

「えー、来たばっかじゃん」

 ミリィシリアが残念そうな声を上げる。

「来たばっかじゃん」

 リューシリィも同じことを言う。

「ここにいても、やることないし」

 彼は冷たいともいえる答え方をした。

「あー、傷つくこというねぇ。再会をしるして、ポテチパーティーでもしていかないか?」

「するする!」

「いくぞ、ミリィシリア」

 リューシリィを無視して、フールーエラーは持たれた壁から離れた。

「まぁ、おまえが言うなら仕方ないか。好きにしてくれやー」

 リューシリィはもう止めはせずに、再びソファに寝転がり、上げた細い手を振った。

 フールーエラーらは、短い再会を終えて、総督府ビルから出た。

 次に水上バイクで向かったのは、スフィル都市の郊外だった。

 柄の悪そうな歓楽街がひしめき、若者たちが大勢行き来しながら、遊んでいる。

 その外れのビルの前で、先を進んでいたフールーエラーの水上バイクは止まった。

 アスファルトの水路脇に直接建っているビルは、そこらの物と変わらない。

 ただ、正面入り口に監視カメラがついて、上に行くほどにフロアが広がった緩やかな逆三角形の形をしている。

「にぃやん、どこはここ?」 

「ホーエン・ファミリーってマフィアのフロント」

「ほぇー・・・・・・」

 くだらない驚きを現した彼女を無視して、 フールーエラーはインターフォンを押す。

「・・・・・・どちら様で?」

 インターフォン・マイクで、若い男の声が訊いて来た。

「フールーエラー事務所の所長だよ。ちょっと、あんたらのボスに用事があるんけど、ここにいる?」

「ああ、あなたが。ここにはいませんが、近くの歓楽街で、今飲んでいる最中です。場所、浮遊ディスプレイに送っておきますね」

 やけにフレンドリーに教えてもらい、フールーエラーらは、歓楽街に向かった。

 店に入ると、カウンターでホーエンがいるか聞いた。

「おりますが。あなたはどちら様で?」

 男は不審者を見る目で訊いて来る。

 フールーエラーは名を名乗り、取次を頼んだ。

 すぐにでも戻ってきた男は、失礼しましたと口調と態度を改めて、すぐに案内城といわれたらしく、店の奥に二人を連れて行った。

 二部屋を使い、ホーエンは二人の男を後ろに威控えさせて、芸人にネタをやらせながら、冷酒を飲んでいた。

 生粋の人間だが、過去に身体改造を繰り返した跡がある、中年だ。

 彼は、老化防止処置も拒んでいた。

 理由は、自分の状態ぐらい周りが一目で見られなければ、気が緩むとのことだ。

「初めまして、ホーエンさん。フールーエラーと申します」

 彼は入り口で丁寧に挨拶した。

 横を向いていたホーエンが顔を向けると、無邪気とも思える破顔した表情をする。

「これはこれは。アスカフートの英雄殿でしたな。たしか。私のようなむさ苦しい男に、何か御用でしょうか」

 ゆっくりと重々しい口調だ。

 それでいて、妙な親近感を感じさせる。

 だが、座れとは一言も口にしなかった。

「俺とクファイルドの話はすでに聞いていると思いますが・・・・・・」

「ああ、あれですか。確かに耳にしています。あなたも大変ですねぇ」

 慎重に話の内容にまで突っ込んでこない。

 まどろこしろうなミリシィリアを制して、フールーエラーは落ち着いた態度を崩さなかった。

「お願いがありまして。いざというときに、あなたを頼りたいのですが」

「いざ?」

「はい」

 ホーエンは黙った。

 フールーエラーは彼の真似をして、具体的な言葉を持ってはこない。

 ファミリーのボスはしばらくして一つ、うなづいた。

「よいでしょう。その代わり、約束していただけますでしょうか?」

「何でしょう?」

「そこにいるお嬢さんに、怪我をさせない。で、どうです?」

 フールーエラーは思わず、ミリシィリアを見ると、彼女と目が合った。

 彼女は嬉しそうに笑顔になる。

 よく考えたものだと思った。

 ミリシィリアに怪我をさせるなの一言で、半ば人質にとり、半面、別な意味でも実質の脅しをかけてきたのだ。

「・・・・・・わかりました。彼女は全力で俺が守ります」 

 フールーエラーは了承するしかなかった。

 店を辞して、水上バイクに乗ったミリシィリアは、上機嫌だった。

「なんだおまえ、気持ち悪いな」

「いやぁ、にぃやん、カッコよかったなぁとおもってさ。『彼女は全力で俺が守ります』んー、痺れるー」

「馬鹿なこと言ってないで、帰るぞ」

 フールーエラーはわざと冷たく言って、水上バイクを発進させた。

「ああ、ちょっと待ってよー」




「あー、面倒。マジ勘弁」

 机に突っ伏していたリューシリィは、呪文のように、同じ言葉を繰り返す。

「なに言ってるんだよ。おまえがやることなんて、ほとんどねぇじゃねぇか」

 ロルライカが、ソファーにふんぞり返り、スキットルからブランデーを喉に注いている。

「有っても、無くても面倒なことは面倒なんだよ」

 ロルライカが報告した話である。

 ハユーリ艦隊が最近活発に活動を再開したらしい。

 少なくとも、何処からともなくやってきた雷雨時期を狙って、二都市が集中した艦砲射撃で破壊されている。

 周辺の都市部に難民が押し寄せていったとのことだが、彼らが一様に言うには、艦砲射撃だけではなく、なにか恐ろしい亡霊のようなものが襲ってきたというものだった。

「ゴーストだよ、面倒くさい」

 もはやリューシリィの口癖になりかけている。

「正規軍は?」

「アスカフートを潰させる予定だよ」

「そうか、それならちょうどいい奴がいる」

 リューシリィは、目だけ動かしてロルライカをみた。

「ミリシィリアか? フールーエラーのところの」

「ご名答」

「また使うのか。あいつら今、クファイルドの件で忙しいだろう」

「それで、できた艦隊をハユーリ討伐に使えばいいんじゃねぇの?」

 適当なのか真剣に考えた結論なのか判断しかねる口調だ。

「まぁ、そうしてみるか。早速連絡して、頼んでおいてくれ」

「おいおい、待てよ。あいつまだ、クファイルドに会ってないぞ」

「へぇ。じゃあ、急がせてー」

 頬杖を突いて身体を起こしたリューシリィは、だらりとした手を振った。

「急かすんじゃねぇよ。まぁ、あいつのことだから、会うだろうけどな」

 リューシリィは、ロルライカらの計画をしらない。

 教える必要がないと、思っていた。

 彼女は、ぼんやりとしているが、意外と頑固なところがある。

 余計なことは知らせなくともよい。

「でだなぁ、ロルライカ」

 リューシリィは見透かしたような半眼と偽悪的な笑みを浮かべる。

「あの、何て言ったかな? ゴルゴダ会だっけか。そいつらは今どうしている?」

 腐っても鯛か。

 ロルライカは、舌打ちしたいのを我慢する。

「ほう、よく知ってるじゃねぇのよ、総督閣下。あいつらはあいつらで行動してるんじゃねの?」

「なーに誤魔化してるんだよ。おかしいんだよなぁ。ギフスが変なところで急に拠点作ったりさぁ。それも、ベラルミルコ派の話じゃん?それに、最近のサイロイドと人間を分けるtって話。偶然とは思えないんだよなぁ」

 ゴルゴダ会とは、広い都市国家群から人間達にエリートや政財界人達の一部が集まってできた組織だった。

 その目的は友好会だとうたっているが、実際のところは、更に人間という存在を高みに上らせようという目的があると言われていた。

 彼らがそんな考えにとり付かせたものは、二度目の大洪水の影響と、三度目への恐怖からだ。

「偶然だ。気にしないで、寝てろ」

 ロルライカは短く答える。

 リューシリィの表情は変わらず、頬杖に浸かっていない腕の肘をたてて、ゆらゆらと左右に揺らしている。

「そんなにマズイのか、ゴルゴダ会は」

「マズイね。おまえが総督だろうが、サイロイドだろうが、目的を邪魔しようってんなら、手段を択ばないだろうな」    

 ロルライカはスキットルに口をつける。

「へぇ。まぁ、関わらないのが一番か」

「そうだな」

「じゃあ、次に会うときには報告をたのむよ、ロルライカ?」 

 言われた彼は、リューリシィを改めて見つめた。

 今度は遠慮することなく舌打ちする。

「期待するんじゃねぇぞ・・・・・・」

 彼は言い捨てるようにして、部屋をでた。




 ハユーリの艦隊六隻は荒い波のなか、戦略上邪魔な水上都市を破壊し、連絡線のとれる都市を最後に攻撃するため、進んでいた。

 トロップスというその都市が水平線上に見えて来たとき、ハユーリは提督室に一緒にいるランティーヒルを見た。

「出番が近いぞ。準備しておいてくれ」

 壁に長い鉈のような剣を立てかけていたランティーヒルは頷いた。

「どうせ、雑魚だろ。すぐに終わらせるわ」

 不遜なまでに不敵に、彼は言う。

「まぁ、トロップスは従属都市のうえに、先の二都市と違って、防御力は薄い。おまえたちなら、余裕だろうよ。余計な力も使う必要がない」

 ハユーリは同調した。ただ、最後に油断はするなと付け加える。

 ランティーヒルは提督室からでて、突撃艇に乗り込んだ。

 防具もなしにいつもの民族系の服を着ただけの姿だった。    

 やがて艦隊は、トロップスを艦砲の射程距離まで近づいた。

「突撃艇、一斉射出!」

 ハユーリは命令をくだした。

 六隻の艦は発射口から、次々と膨大な量の細長い艦艇を海に走らせた。

 水面を走るように高速で進む突撃艇は、

 城壁を貫いて進み、水路に出ると、それぞれに担当する地区にばらけた。

 ランティーヒルは、市長のいる都庁に向かう。

 背の高いビルの前で突撃艇が止まると、一人で中に乗り込む。          

 受付を無視して事前に調べておいた市長室までまっすぐ向かった。

 ドアをけ破り、同時に鉈を鞘から引きぬいたかれは、執務机に着く男に駆け寄って、相手が何か言う前に、横薙ぎの一閃で首を飛ばしていた。

 すぐに浮遊ウィンドウで市長ビルの全員に介入して、机の上に置いた首を背後に映した。

『この町は、我々ハユーリ艦隊が占拠した。皆には通常の仕事・生活を保証する。ただ全ての報告は最終的にハユーリが造る臨時政府に上げること。意見を反対に持つものは、すべて斬る』   

普段の乱暴な口調はでていないが、代わりに簡潔な言葉になった。

 報告では、電力会社や放送局など、重要施設がどんどん占領されていく。

 都市の市民達は一時のパニックがあっただけだった。

 諦めが早いのか、すぐに混乱は平静に収まり、トロップスの住人たちは敗北を認めた。

 ハユーリは、軍港に艦隊を入れた。

ここから、スフィルの首都まで、十日の距離である。

 かれらは、しこに首都を捉えたといってよかった。




 フールーエラーは忙しい。

 辞めたいと思うのに、強引に事態がそれを許してくれない。

 大体、仕事が性に合ったものではないのだ。

 根回しなど政治の分野で、彼が主に趣向する軍事ではない。

 しかも、その軍事もうまくいけばいく程、彼を追い詰める。

 どんどん、気分は沈んでゆくばかりだった。

「ねー、良いところ一杯あるよー」

 浮遊ディスプレイを広げて、ミリシリィアは言った。

 画面には、あらゆる観光リゾートの写真と解説が映っていた。

「今回の仕事が終わったら行こうよ、にぃやん」

「・・・・・・ああ、そうだな」

 フールーエラーは笑顔を作って応じた。

 彼らは、水上バイクから陸に上がって、小さな喫茶店の前まで来ていた。

 先客がいるようで、中に入ると、一斉に視線が集まる。

「おお、フールーエラーさんですね」

 親密さのある声を上げて、一人の男が席から腰をあげた。

 ダークスーツ姿で、丸刈りで耳にピアスをした、細く背の高い男だった。

 調べたうちでは二十七歳で年齢を止めている。

「初めまして、私はクファイルドという、辻説法をしている者です」

 その脇には、眼鏡をかけた冷静な表情の男が、椅子に座っている。

 メロウリだ。

「辻説法とか。あなたは名演説家として、すでに有名ですよ」

 フールーエラーは相手の和やかな雰囲気に、肩の力が自然に抜ける思いだった。

「参りましたな。なにをお飲みになります?」 クファイルドは、照れ隠しなのかすぐにウェイトレスを呼んだ。

 適当にブレンドの珈琲を二つ、フールーエラーが頼む。

「あなた方が、我々の手助けをしていただけると知り、光栄のいたりです」

 クファイルドは、無邪気な笑顔を見せた。

「ええ、まぁ。ただ、本当に良いんですか? 艦に乗せる人員にするというのは、普通に戦場送りになるのですが」

「致し方ないことです。現在、他の都市国家はわかりませんが、少なくともスフィルではサイロイドの職に関して、かなりの差別があるのです。無論、雇用すらしてもらえないという話もざらです。少なくとも生活できる職を与えていただけるだけで、感謝しています」

 フールーエラーは、納得がいかなかったが、あえて黙っていた。

「軍人という職は安定したものの一つだとおもっていますので」

 クファイルドは付け加え、フールーエラーはうなづいた。

「何か私共にできることがあれば、おっしゃってください。喜んで手を貸しましょう」

 演説家は親し気に言う。

 珈琲が運ばれてきて、四人の前にカップが置かれる。

「ありがとうございます。しかし、今のところ何もありません」

「そうですか・・・・・・では困ったことがあったら、連絡ください」

「はい、お世話になります」

「いえ、当然のお礼です」

 あ、美味しいと、ミリシリィアが珈琲に口をつけてつぶやく。

 フールーエラーはメロウリにチラリと視線をやった。

 彼は至って生真面目な表情だった。

「あの、クファイルドさん、メロウリとちょっと話たいことがあるのですが」

 クファイルドはうなづいた。

「そうですか、丁度私もこれから小用です。どうぞ、ごゆっくり」

 気分を害した様子もなく、一人席をたった。

「・・・・・・どうしました?」      メロウリは眼鏡を覆うように手をやってから、静かに訊いた。

「クファイルドさんのことですが。はっきり言うと、政府に狙われています」

「知っています」

「どこまで?」

「別班が動いているところまで」

「それでも、彼に活動を辞めさせないのですか?」

「私では止められないのです・・・・・・」

 メロウリは歯がゆそうだった。

 クファイルドは元孤児で、サイロイドの両親に育てられたという。

 善良だが、貧しい家庭だった。

 だが、そのおかげで、人間からもサイロイドからも迫害を受けて、苦しんでいたのは事実だ。

 やがてそれもエスカレートして、両親はと恋人が人間至上主義者に殺害されたという。

 クファイルドが大学院で、歴史の博士号を取ったその日の深夜のことだ。

 以来、マフィアの事務所に出入りしたりして、復讐をしようとしたが、犯人は未だ見つかってはいない。

「不幸な身の上の方なのですよ」

 メロウリは諦めたような様子だ。

「まぁ、俺がいうのもなんですが、人間はサイロイドに対して驕りすぎな面がありますからね」

 フールーエラーは難しい表情で言う。

 メロウリも頷いた。

「とにかく、ご忠告ありがとうございます・我々も全力でクファイルドを守るつもりです」

「そうですか。なら安心ですね」

 フールーエラーは最後に珈琲を一口飲むと、店を去った。




 北方にあるハユーリの艦隊が動きだしたと聞き、ホーゥグロウは躍起した。

 ギフス本国からベラルミルコ派のメンバーが到着して、二日経っていた。      

ベラルミルコ本人はアスカフートの提督用建物の一室に部屋を与えて、あとは周辺に住ませることにしていた。

「今こそ、機会である」

 ベラルミルコに会った時、ホーゥグロウは言われた。

「まさしくその通りです」

 ホーゥグロウはうなづいた。

 彼がアスカフートを造ったのは、ベラルミルコの考えに大いに触発されたからである。

 曰く、スフィルの人間による、サイロイド差別は異常である。スフィル人達は驕っている。天から見放された証拠に、幾多のゴーストに襲われながらも、不遜に天に昇ろうとしている姿勢は余りに神を恐れない所業である。。近く第三回の大洪水を呼び込むのは、彼らが原因となることは間違いないといってよいだろう。

 ベラルミルコのこの考えに触発され、彼の門下生たちは、まず自国の改革を思いついた。

 でなければ、スフィルを滅ぼすほどの力がなかったからだ。

 だが、計画は失敗し彼らは、対スフィルの拠点としてホーゥグロウが設置しておいたアスカフートに事実上、追放された。

 それでも、ベラルミルコらの考えは変わっていない。

 危機を誘発しかねないスフィルを滅ぼすと。

 たまたま、事情を聞いたイルファネは、彼女特有の人を小馬鹿にするような表情で、鼻を鳴らした。

 彼女は一人、城下の繁華街に降りて、昼間からバーでカクテルを飲んでいた。

 横手にあるドアが開き、黒いパーカーにハーフパンツ姿の男が左手に鞘をぶら下げるように持ちながら入ってきた。

「あら、リンドル。珍しいわね・・・・・・」

 首を向けたイルファネが、挨拶でもかわそうとした瞬間である。 

 リンドルは狭い室内で鮮やかに抜刀して、袈裟切りに肩口から彼女を両断した。

 床に倒れたイルファネに一瞥をやり、彼は茫然とするマスターに背をむけて店をあとにした。

 ホーゥグロウは早速、ベラルミルコ派などの艦長や参謀達を集めて、対スフィル戦のブリーフィングを行う。

 彼らは、城塞の一郭にある広間に通されていた。

 リンドルの姿がホーゥグロウの影のようについている。

「どうして私まで呼ばれたの?」

 第一声を切ったのはイルファネだった。

 リンドルは何も言わない。

 イルファネも、そこにリンドルがいないかのように、相手をしていない。

「君は元ハユーリ艦隊で艦長を務めていただろう。今回の任務では、同じく艦を一つ任せようと思う」

「・・・・・・そ。まぁいいけど」

 相変わらず愛想は無いが、彼女は承諾した。

「ハユーリの艦隊は今、スフィル首都を眼下に収めているといっていい距離にいる。我々はこれに呼応して、スフィルを攻略するものとする」

 ホーゥグロウは概要を説明して、アスカフート艦隊の六隻に出撃を命令した。

 だが、ここでホーゥグロウ意外な難関が立ちふさがった。

 ベラルミルコの指導下にある者たちの、命令不服従である。

 理由は、妬みによるものだ。

 ホーゥグロウがアスカフートの城塞支配者だとしても、他の者たちには、同じ思想を持つ者として同格という意識があった。

 これにはホーゥグロウも参って、直接ベラルミルコに訴えた。

「すまんが、それはできない」

 意外と若く、さわやかな風貌をしているベラルミルコは断った。

 すぐに理解できたので、ホーゥグロウは謝罪し、あとは何も言わなかった。

 もしもベラルミルコがホーゥグロウを擁護するならば、一定の納まりは着くだろうが、より、過激な心理に陥る者が出てくるだろう。

 ホーゥグロウの暗殺が懸念されるのだ。

 結局、彼は何も対処せずに耐えることにした。

 とにかく、この現状でスフィル艦隊に勝たねばならない。




「来たぜ。ハユーリとギフスの艦隊がよ」

 ロルライカは、十一時頃にフールーエラーの事務所にやってきた。

「一応、両方をそれぞれに対するプランは考えているんだけど、俺はどっち担当だ?」

 フールーエラーは確認までにとでも言いたげだった。     

「それな。どっちも任せたいところだが、一応北方のハユーリを頼みてぇ」

「ああ、わかった」

 あっさりと簡潔に承諾したフールーエラーは、機嫌がよさそうだった。

 戦う前はいつもだ。

 しかし、いざとなったらまた。ふさぎ込むのが、ミリシリィアにはわかっている。

「今回は、何隻貸してくれるのさ?」

「ああ、基本の艦隊数である六隻だ。問題あるか?」

「いや、無い」

 フールーエラーは納得したが質問は重ねる。

「出航準備は?」

「明日には終わる」

「定員だろうね?」

「ああ、全員サイロイドだがな」

「わかってる。そうだろうよ」

 クファイルとの話で、そうなっているのだ。

 新兵がいきなり実践という点は不安要素だが、フールーエラーはどうにかするつもりだだ。

「勝算はあるのかね?」

 ロルライカは意地の悪い表情になった。

「どうにか、なるんでない?」

 フールーエラーは適当に言う。

「おいおい、頼むぜ・・・・・・」

 ロルライカが珍しく心配げに言うのを、フールーエラーは鼻で笑った。




ホーゥグロウは信頼する同志のランティーヒルに、アスカフートの統治を任せていた。

 彼は八隻の鉄甲戦艦と輸送艦を引き連れ、アスカフートを出航した。

 もちろん、彼が提督である。

「敗軍の将が」

 そんな声も聞こえたので、人選に力をいれた。イルファネも艦長として、一隻を任せていた。

 彼はこれでも、軍では提督として評価が高かった。前回は、初めて敗北したのだ。

 そのため、作戦にも細心の注意をはらっている。 

 艦隊は二列縦隊で進み、最短距離で、スフィル領海内に向かう。

 海は相変わらずの凪ぎである。

 出航から、五日目の朝だ。

 監視員が、衛星にスフィル艦隊を捉えたと、報告が来た。

 相手は一個艦隊の六隻。単縦陣でこのままでいけば、接敵はまで二時間になるという。

「相手の提督は誰かわかるか?」

 ホーゥグロウは冷静に、映像を眺めた。

『わかりません。ただ、前回と違い正規軍であることは確かです』

 あのホーミーエラーとかいう男ではないか。

 安心と落胆が混ざった複雑な感情がわきあがるのを自覚し、ホーゥグロウは自嘲した。

 意外と引きずるものだ。

 彼はいつもの通り、提督室でワインを片手にシートに座っていた。

 背後には、リンドルと従僕が控えている。

『すでに全艦は、第一級戦闘配備をするように命令が下っています』

「よろしい」

 報告を聞き終わると、ホーゥグロウはうなづいた。

「いよいよ酔っぱらわなければならんな」

 ホーゥグロウはリンドルに言う。

 恐怖の為ではない。逆である。

 提督も艦長も、戦闘となると兵士の前で恐れを見せずに堂々としていなければならない。

 それが、ホーゥグロウの場合、戦闘中でも、不動で飲んでいるという行為になるだけである。

 従僕が無言で彼の中身の減ったグラスに、更にワインを注ぐ。

 ホーゥグロウは、旨そうに口をつけた。

 やがて、浮遊ディスプレイに通信士が現れる。

『敵艦隊、射程距離まであと十分です』

「全艦、砲白兵戦用意」

 左翼最後尾の艦に座上する彼は命令を下す。

 まっすぐ向かってきたスフィル艦隊そのまま、右翼側に反行のをしてきていた。    ホーゥグロウは、できるだけ正面に相手の艦隊を捉えるようにさせた。

 そして、前面の左右二隻のスピードを急速に落とし、二列目戦闘速度で脇から、三列目は猛スピードでさらにその外側から前進させた。

 スフィル艦隊は回頭する暇もなく、袋状の中に包まれるように突入してしまった。

 一気に突撃艇が三方から発信し、同時に砲撃も開始すされた。

「出るぞ」

 刀の鞘を一本、左手にぶら下げたリンドルがつぶやいて、提督室から消えようとしたとき、ホーゥグロウはうなづいた。

「なら、俺も下に行こうか」

 二人は途中まで並んだ。

 彼と別れたホーゥグロウは、第一甲板に立ち、銃弾や弾丸が飛んでくる中、砲手達の背後に酒を持ちつつ仁王立する。

 リンドルは突撃艇に乗り込み発射管からすぐに発進していった。

 鋭い衝角の付いた小型艇は、水面を滑るように突進し、並んだ敵の三番艦艦腹に胴体の半分まで突き刺さった。        

 枡子状の防壁を持つ艦は多少浸水しても影響はない。

 衝角のすぐ後ろにあるコックピットから第三甲板に飛び降りたリンドルは、枡形の隔壁を過ぎて第二甲板に駆け昇る。

 大砲とサイロイドの砲手たちがひしめき、他の突撃要員と白兵戦を繰り広げていた。

 リンドルは鞘から刀を抜くと、立ちふさがるサイロイドだけを遠慮無く片っ端から切り捨てて進んでいく。

 階段から第一甲板に出ると、三の丸の曲輪だった。

 あらゆる方向から銃弾が飛び交い、白兵戦用に装備したサイロイドたちが、襲いかかってくる。

 リンドルは、冷静に相手を斬り伏せる。

 どっとアスカフート艦隊の白兵戦要員も三の丸に押し寄せてきた。

 乱戦が始まる。

 リンドルは無駄を避けて、すぐに二の丸に向かう。

 途中の道は一本の坂だけで、土嚢を持った壁から、ライフルで狙えるようになっていた。

 だがすでに、アスカフートの鉄甲戦艦が艦に両舷から激しい砲撃で、半壊させていた。

 打ち壊された門から、中に跳び込む。

 サイロイドがカトラスを振り上げて、襲いかかってきた。

 リンドルは、一歩足をずらして半身になって、上段からのカトラスをよけた。

 がら空きになった相手の後ろの首元に、刀で一撃を叩き降ろす。

 首が飛んで、サイロイドはつんのめるようにして倒れた。

 次を待たずに、近くのサイロイドとの距離を一気に詰めると、慌てた相手の胴をすり抜けざまに横に刀を薙ぐ。

 リンドルはまだ息が上がっていない。

 彼の返り血にまみれた姿に、サイロイドたちは恐怖して、距離をとり遠巻きにする。

 リンドルは船尾楼を見上げた。

 砲撃を食らってボロボロに崩れかけているが、戦闘員の士気はまだ衰えていないようだ。

 椅子に座って戦況を眺めている艦長らしき男の姿が見える。

 リンドルは早速船尾楼に昇る。

 一段下がった掘状のものに囲まれて、その奥で高々とそびえている。

 掘りのそこは、多数の短い剣状の物が先を向けて埋められていた。

 リンドルは器用にその空間を駆け抜け、

粘着指向性爆弾を腰から取り出すと、船尾老の壁に張り付かせて、爆破した。

 できた穴から突入すると、すぐに船尾楼にでた。

 三十人ぐらいが詰めていた船尾楼に、リンドルに続いていた者も一緒に、乗り込んだ。

 一斉に射撃がくわえられ、リンドルの周りにいた兵士が数人倒れる。

 振り返る事もなしに、中に乗り込んだリンドル達は、サイロイドの射手達に一斉に襲いかかり切り伏せた。

 リンドルは、何か言いたげだった敵艦長をのところに跳び、有無を言わさず喉から首を刀で貫いた。

 彼は、艦長の首を船首楼から甲板上に見えるようにかざす。

「降伏しろ! すでに勝敗は付いた!」

 大声で言うと、各曲輪で戦っていたサイロイド達は、急に戦意を消失して、武器を手からおとす。

 彼はあとは別の白兵戦要員に任せて、載ってきた突撃艇に戻っていった。

 スフィル艦隊は防戦一方だった。

 ホーゥグロウの袋は相手艦隊が停まると先頭の三隻を無力化させた。

 袋状から進み、残った三隻を挟撃の態勢に持ってくる。

 各突撃艇の白兵戦要員も、同じく狙いを新たにして続いた。

 そのとき、スフィル艦隊の最後尾艦が、突然、甲板上で爆発を起こした。

 突入前だったので、ホーゥグロウ側に損害はない。

 だが確実に艦長以下幹部は爆死して、航行不能になっていた。

 残った二艦が降伏旗を上げる。

 ホーゥグロウはすぐに武装解除を命じた。

 彼と反対の先頭艦となっていたイルファネは上手くやっていた。

 敵三番艦の制圧に主に活躍し、多大なる戦果を上げていた。


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