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第9話

 時間は二十二時四十八分。

 伊瑠コミュニティ本部は、煌々とした窓の明かりで、暗い路地を照らしてい

た。

 異様な雰囲気はさらに強調されている。

 黙って湖守の執務室に入ると、彼は何やら難しそうな様子で机についてい

た。

 すぐに悠真に気づき、驚いたような表情になった。

「……こんな時間に珍しいな?」

「色々あったんでね。詳しい話は端折るが」

「出来ればその端折った部分を聞きたい」

 無言で、悠真は電子タバコの煙を吐いた。

 入り口前で立ったままだ。

「とりあえずガキどもを確保した。後は勝手にこちらでやらせてもらう」

「おやー?」

 湖守は興味深げな目で、見つめてきた。

 立ち上がって、サイドボードからスコッチとグラスを取り出すと、少々乱雑

に中身を注いだ。

「一杯どうだ?」

 悠真は、グラスを一気に仰ぐと、勢いよく机を鳴らして机に置いた。

「助けるとき、東久瑠の連中を数名殺した。幾らか貰いたい」

 グラスを片手に持っていた湖守は苦笑して、サイフを出すと、また五十万を

差し出す。

「……舐められたもんだな」

 蔑むように見下ろしながらも、受け取る。

「まぁ、しばらくは様子をみよう。好きにするがいい」

 ニッコリとして、湖守はうなづいた。

「ついでに、ラ・モールとかいう会社の奴にも襲われた」

「ラ・モール? それは災難だ。こちらも対処しよう」

「頼むぜ。五十万じゃ割にあわねぇんだわ」 

 湖守はうなづいて、ウィスキーを軽く飲むと、今度は百万の束を差し出して

くる。

 内心、ケチさに舌打ちしつつも受け取った。本当なら何千万単位を出しても

おかしくはないのだ。

「最近、頭の痛いことだらけでね」

 湖守は愚痴を吐きはじめる。

「そら、おまえの立場ならそうだろうよ」

「最近現れはじめた連続猟奇殺人を知ってるか?」

「ヴィジョンは観ないんでね」

「ニュースも読まないとな」

 楽し気に笑う。

 残りを飲み干して、机に着くと浮遊ディスプレイという空間に映像を出すウ

ィンドウを 悠真の前に広げた。

 そこには、張り付けにされて、裂かれた腹から内臓が地面に垂れている男性

の姿が映っていた。

「釘打ち事件というらしいな。これがウチのシマで起きている。さっさと犯人

を見つけて始末しなければしめしが付かない」

「……ご苦労なことだ」

 素っ気なく言ったが、それは以前悠真が見た死体と同じ姿をしたものだっ

た。

「どうだ? 手を貸してくれるなら、弾むぞ?」

「それどころじゃないんでね。わかってんだろう?」

 即答すると、湖守は苦笑した。

「まぁ、それもそうだ。仕方ない」

「ラ・モールの件は頼んだぞ、アレは本当に面倒で鬱陶しい」   

「大丈夫だ。私がおまえの頼みを無視したことがあったか?」

 悠真は鼻で笑っただけだった。

 出て行こうとする彼に、背後から声がかかる。

「ちゃんと祥無とかいう奴を守ってやってくれよ?」

 肩越しに振り向いて、悠真はニヤリとした。

「俺が、あんたの頼みを無視したことあったか?」

















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