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第3話

 二人はアパートの一室に入った。

 必要な物だけで、無駄なものはゴミぐらいしかない部屋だった。

 家電一式にベッド、それだけである。

 ただ、薄汚れて埃が溜まっている。

 少女はベッドに座り、泣き続けていた。

 悠真はどうしたものかと、思案気に様子を見ながら、床に座った。

「……いつまで泣いてる。名前は?」

「……うっせぇ、泣きたいんだからしょうがねぇだろう!? 深羽(みう)

だ!」

 まくし立てるように一気に深羽は言葉を吐いた。

 怒鳴ってきた割には、素直なものだった。

 一向に感情を抑える様子がなく、大声を上げる深羽に悠真はどうしたものか

と考え始めた。

 ドアがノックされてから開いた。

 少年が現れたのだ。

 柔らかそうな頭髪に真っ白な肌。白いTシャツにカーゴハーフパンツ。耳は

ピアスだらけで、首から鳩尾までチェーンが伸びてアメジストのクロスをぶら

下げている。

 だがその姿は血糊がべったりと染め上げていた。

「……待ってたよ。直してきたか?」

「そんな暇はありませんでした。後ほどで。とりあえず、半径ニ十キロ圏内に

敵意ある反応はありません」

 イマジロイド。ネットワークに特化された人型生体機械だ。

「あー、まぁそれなら説明してもらおうか?」

 祥無は無言で深羽の隣にすわり、その小さな身体を抱きしめてやった。

 深羽の鳴き声が嗚咽に変わり、ゆっくりと彼女の感情が収まってゆく。

 と思ったとたん、深羽はいきなり祥無の頬を殴った。

「てめぇ、驚かせてんじゃねぇよ、馬鹿野郎!」

 祥無は顔をふきながら、苦笑いする。

 深羽は不機嫌そうに頬をふっくらませて、膝を抱え押し黙った。

 これは、大変なものだ。

 悠真は祥無に同情する。

 いくらイマジロイドと言っても、大人すぎる態度なのだ。

 理由無く老成する子供はいない。

 祥無は電子タバコの煙を吐いた悠真に視線を向けた。

「……知っての通り、人工知能衛星燈霞は、人のHPS能力を拡大して、サイ

バー・スペースに変わるフラクタル・スペースというものを造り上げました。

燈霞の進化はそこから飛躍的に上がったのです。僕は燈霞内で造られた意識

で、イマジロイドの体を借りている存在です。そして深羽は燈霞内で生成され

た人間です」

「……生成された人間、だと?」

 燈霞は地球の人間に補助機能を付与するためだけの存在としてあるはずだっ

た。

 正直、悠真は燈霞に詳しくはない。彼が得意なのは殺しに関することで、あ

とはさっぱりな青年だった。

 意思が出現しているのは可能性としてあるのは想像できる。だが、今燈霞内

はどうなっているのか? 人体生成など突飛すぎる。もはや、本来の機能を超

えているだ。

 この少年は妄想でも持っているのだろうか?

「……で、燈霞出身のおまえらは、地上に何しに来たんだ?」

 祥無は人懐こいと言っても良い微笑みを見せた。

「逃げてきたんです。燈霞のチップを独占している伊瑠コミュニティよりも、

そこに入りたいと思っている東久瑠コミュニティのほうが保護してもらえるか

とおもったのですが、失敗でしたね。超高度人工知能が聞いてあきれるザマで

した」

 悠真は嫌な予感がして視線を外し、電子タバコの煙を吐いた。

「まー、色々大変だったんだな……」

「それで、僕は自分で何とかしますので、悠真さんに頼みがあります。深羽を

守ってください」

 淡々とした口調で言われたが、悠真も無表情でそっぽを向き電子タバコを咥

えたままだった。

「何、黙ったままなんだよ、オイ!」

 急に深羽が声を上げる。

 悠真は目だけを少女にやった。

「別に……面倒は嫌だなぁと思って」

 悠真は遠慮無く思ったことを口にした。

「お願いします、悠真さん。我々は誰かに頼らなければならないのですが、誰

も助けてはくれないのです」

 欠伸がでた。

「探せばいるだろう?」

「探しましたよ?」

「いただろう?」

「ええ、ここに」

 ニッコリと笑顔で言われる。

「他人と関わるなんてゴメン被る」

「あなたが適材なんですよ」

 祥無は畳みかける。

 悠真は面倒くさげに無言になった。

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