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第2話

 悠真は夕闇が降りた頃、三か所あった祥無の借りているアパートのうち、二

つの部屋に侵入して、誰もいないことを確認する。

 灯油を少々まき散らし、小型の遠隔発火層装置を置くと、外の車の中なから

着火した。

 途端に黒い煙が建物から漏れて、近所が騒ぎ出す。

 シボレーは発進して、のこった最後のアパートに向かった。

 住所の近くまで来たとき、異変に気付いた。

 交差点の信号が全て消えているのだ。

 辺りは暗いく、異様に静かだった。

 答えは一つしかない。

 東久瑠の技師が戦闘を行わせる準備を施したのだ。

 一瞬、自分がターゲットかと思ったが、道の路地裏で、銃声が何発か響いて

いる。

 相手が東久瑠だ。覗いてみて損はない。悠真は車をそちらに向けた。

 ところどころにライトを照らした車が捨ててある。

 すぐに燈霞アクセスし、脳の感覚を鋭敏化させる。

 悠真は電子攪乱弾の詰まったマガジンを拳銃にセットすると、車を乗り捨て

て路上を走りだした。

 少年と少女と言っていい年頃の影が数人のスーツ姿の男に追われ、お互い時

折ノズル・フラッシュが瞬くとともに発砲している。

 東久瑠狩りに恰好のシチュエーションである。湖守に報告したなら報酬もの

だろう。

 悠真は追っている男たちに狙いをつけ、引き金を引く。

 一人が頸部に弾丸を受けて即死する。

 すぐに次の標的。弾丸は肩甲骨を貫いて心臓に達する。

 燈霞による能力強化だけではない。元々の実力があってのピンポイント射撃

だ。

 また、頭部に悠真の一発の銃撃を受けて男が倒れる。

 悠真の切れるような動作は素早く淡々としていて、まるで感情がないかのよ

うだ。

 まだまだ追手の気配は消えない。

 悲鳴が上がる。

 甲高いく、追手のものではない。

 祥無と思われる少年が、弾かれたように路上に転んだのだ。

 声を上げたのは少女だった。

 悠真は冷静に男たちを撃ち殺しながら、祥無の傍に駆け寄った。

 血だまりに倒れた祥無は、頭部に弾丸を受けていた。

 悠真は舌打ちした。

「逃げるぞ」

 彼は少女の腕をつかみ、走りかけた。だが、その足の袖を引っ張られて動き

が止まった。

「……ちょっと、僕を置いて行かれちゃ困りますよ」

 祥無だった。

 頭を撃たれたというのに、ゆっくりと立ち上がろうとしている。すぐにこの

青年が何者なのかを、悠真は察した。

「おまえは死んだふりしていろ。後でアパートで会うぞ」

 言われた祥無はうなづいて、また路上に寝ころんだ。おそらく東久瑠の連中

だろうが、どこまでわいて出てくるか知れたものではないのだった。

 悠真は少女を連れて停めてあったシボレーまで戻り、急いで発車させた。

 車を走らせている間、少女は気分が沈んだように沈黙していた。

 ベレー帽に白いシャツ、サスペンダー付きのスカートと言った恰好で、おそ

らく十二、三歳ぐらいか。

「……湖守のやつ、イマジロイド捕まえて何やろうとしてたんだか……」

 つい、口にでる。

 それほど忌々しかったのだ。ろくな情報も出さず、自己の便宜のみを図ろう

とする態度が。

「……オレのせいだ……」

 少女はか細い声で呟き、嗚咽した。

 隣で声を出さずに泣きだした彼女に、悠真は内心困りながらもどうすること

もできず、ただハンドルを握っていた。

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