「さくら！」

　扉を開けると、そこには驚いた表情のさくらが目を丸くしてこちらを見ていた。

　聖が勢いよく抱きつくと、さくらは後ろにあったベッドに倒されてしまう。

「聖様……」

　さくらは突然のできごとに呆然と聖を見つめている。

「会いたかった」

　聖がさくらをきつく抱きしめ、二人はベッドの上で抱き合う形となった。

「父上に酷いこと言われたんだろ？　ごめんな」

「……いいえ、旦那様は聖様のことを想ってされたことですから。私は平気です」

　さくらが微笑むと聖は愛しそうにさくらの頬に手を添えた。

　二人は見つめ合い、そのままゆっくりと顔が近づいていく。

「お楽しみのところ申し訳ありませんが、私もいること忘れないでくださいね」

　二人は慌ててお互いの体を離し、ベッドから降りた。

　部屋へゆっくりと入ってきた旭に、申し訳なさそうな顔を向ける聖。

「旭、すまない。さくらに会えた喜びですっかり君の存在を忘れていた」

　照れて下を向く聖。

　そんな聖を見つめ、さくらの表情は再会の喜びに溢れていた。

　そんなさくらを見て、旭も安心したように微笑んだ。

　ここは某ぼうホテルの一室、旭がさくらのために用意した部屋だ。

　聖が屋敷を飛び出し、さくらを探していたあの日、旭もさくらを探していた。

　旭はさくらが好きそうな場所を巡めぐってみたがなかなか見つからず、次の手を考えていた。

　そのとき、昔さくらが海を見るのが好きだと言っていたことをふと思い出した。

　旭は付近の浜辺を捜索そうさくしていく。

　すると、さくらがしゃがみ込んで海を眺めているところに遭遇そうぐうしたのだった。

　旭はとりあえずホテルの一室を借り、そこでしばらく身を隠すようさくらを説得した。

　聖にすぐ伝えたかったが、今の状態の彼が知れば、さくらを連れ駆かけ落ちでもしてしまうかもしれない。

　そうすれば事態はどんどん悪くなるばかりだ。

　ひとまず、聖の気持ちが落ち着いた頃に、さくらの居場所を知らせようと決めていた。

　そして先ほど聖に知らせたわけだが、聖が喜びのあまり暴走し、さくらにダイブするという事態になった……というわけだった。

　さくら、聖、旭はこれからについて話し合うことにした。

「やっぱり僕が父上にお願いする、話せばきっとわかってもらえる」

　意気込む聖だったが、旭は首を横に振る。

「待ってください。聖様はさくらさんのこととなると冷静さを保てなくなります。ここは、私がゆっくりと旦那様を説得していきます」

　旭の言うことには一理いちりある、聖も自覚はあった。しかし、

「その間、ずっとさくらはここにいるのか？」

「そうなりますね」

　なんだか納得しない顔をする聖を旭がたしなめる。

「さくらさんに会いたいときは、ここに来ればいいのです」

「そうか、それもそうだな」

　二人の会話に耳を傾けていたさくらの脳裏に、突然映像が流れ込んできた。

　誰かの中から見ている映像のようだった。

　数メートル先に智彦がいる。徐々に近づいていき彼の側で止まった。

　手には刃物が握られ、智彦に振り下ろされようとしている。

　そこで映像は終わってしまった。

「旦那様が危ない！」

　突然叫んださくらを、聖と旭は驚き見つめる。

「どういうことですか？」

　能力のことを知っている旭はすぐに反応する。

「旦那様がお屋敷で誰かに刺される！」

　その衝撃的な言葉に聖は目を見開き固まった。

　旭は冷静にさくらに聞き返す。

「いつ？」

「はっきりとはわかりません、でも夕暮れ時でした」

「もうすぐ夕暮れです。

　今日の夕暮れかはわかりませんが、旦那様が心配なので私は戻ります」

　旭が一人で行こうとすると、さくらが旭の腕を掴んだ。

「私も行きます、きっとお役に立てるかと」

　さくらが真剣な眼差しで旭を見つめる。

　確かにさくらがいた方が事態を把握しやすいかもしれない。

「わかりました、決して無茶をしてはいけませんよ」

　旭の忠告に頷くさくら。

　突然、聖が旭の両腕を掴み揺さぶった。

「おい、何が起きている？　父上が何だって？」

　聖は訳がわからなくて混乱している様子だった。

　聖を連れて行くのは危ないと判断した旭は聖の目を真っ直ぐに見つめ告げた。

「聖様、説明はあとで必ずいたします。今はここでお待ちください」

　聖を落ち着かせ、旭は部屋を出ていく。

　さくらも聖を心配そうな目で見つめたあと、旭のあとを追って行く。

　一人残された聖は焦る。

　事態についていけない。

　いったい、何が起きている？　

　しかし、たった一つ確かなことは、さくらが危険なところへ行ってしまったかもしれないということだ。

「父上、さくら……」

　聖は二人のあとを追いかけるため、部屋を飛び出した。