あれから聖を監視する日々がはじまった。
いつなんどき、誘拐されるかわからない。絶対に
24時間監視するのは難しかったが、さくらの出来る限りの時間を聖の監視に
仕事もなるべく早く終わらせ、聖を監視する。
自分のことはおざなりに、聖を常に遠くから見守ることに生活のすべての時間を費やしていた。
だから、さくらを見つめる他の目に気づけなかった。
異常なまでに聖に張り付いているさくらを怪しむ人物、誠一に。
「あいつ、絶対怪しい……」
聖を追うさくらを誠一は監視していた。
そんな誠一の動向に気づいた旭は誠一のことを監視する。
このように監視の
すでに日常化している監視のため、さくらは聖のあとをつけていく。
いつもの学校からの帰り道、今日も何も変わったことはない。
あの映像を見てから三日
いつもなら映像は直前に見ることが多かったが今回は違ったようだ。
いったいあと何日後のことなのだろう。
いや、油断は禁物だ。いつそれが起こるかはわからないのだから。
そのとき、後ろの方から車の音が近づいてきた。
勢いよく走って来た一台の黒いワゴン車が聖の横に停車する。
その車から降りてきた黒ずくめの男が聖に近付き、彼の腕を
「聖様!」
さくらは叫ぶと同時に聖に向かって走り出していた。
声に驚いた男が聖を無理やり車に押し込もうとするが、聖の抵抗により男は苦戦している様子だった。
その隙にさくらは男に
「放しなさい! ……誰か!」
さくらが騒ぎだすと、車の反対側から新たな男が現れる。そしてさくらの動きを止めると口を
「おい、どうする?」
「しかたない、そいつも連れていく」
二人の男のやり取りが聞こえた。
しまった、このままでは二人とも連れ去られてしまう。
男たちが聖とさくらを車に押し込もうとした。
次の瞬間、さくらを捕らえていた男が吹っ飛び、数メートル先の地面に転がった。
いったい何が起きたのかわからないさくらは目をしばたかせる。
「本当に、あなたからは目が離せませんね」
突然聞こえてきた声に振り返ると、そこには旭がいた。
旭は汚いものに触ってしまったかのように服を払い、あきれた様子でさくらのことを見つめている。
「旭さん!」
旭は聖を捕らえている男の
男は低く
「聖様、大丈夫でしたか?」
聖は戸惑いながら頷くと、すぐにさくらの方へ駆け寄る。
「さくら、大丈夫だったか?」
心配そうに目を細めながらさくらの顔を覗き込む。
「ええ、私は大丈夫です。聖様こそご無事でよかった」
さくらが言い終わらないうちに、聖がさくらを抱きしめる。
「あの、聖様っ」
さくらは突然のことであたふたして手をパタパタと動かす。
いったい何が起きているのかわからなかった。どうしていいかわからず、聖の腕の中で
「さくらが無事でよかった。
俺のせいでさくらに何かあったらって、生きた
聖はさくらに熱い視線を向けると、何かを決意したように口を開いた。
「さくら……、僕は君が好きだ。ずっと前から君を愛している」
突然の告白にさくらの頭は真っ白になる。
え、今なんて?
え、え? えーーーーー!
さくらの頭の中はパニック状態だ。
いったい何が、どうなってるの!
まさかこんな日が来るなんて……。
その言葉はさくらが一番、望んでいて、望んではいけないものだった。
さくらは口にギュッと力を入れる。
感情を殺し、涙が出るのを必死で押さえ、震える手でゆっくりと聖を押し返した。
「聖様……それは勘違いです。
非日常の中で起きた、吊り橋効果ですよ。
……さあ、旭さんもついていますし、もう心配いりません。屋敷へ帰りましょう」
さくらは作り笑顔で微笑み、聖から目を逸らす。
聖はさくらの肩を
「吊り橋効果なんかじゃない! 僕は前から君が好きだったんだ。
なんで信じてくれないんだ? 僕のことは主としてしか見れない? それならそう言ってくれ!」
懸命に叫ぶ聖。
その表情は真剣そのものだった。
さくらだって本当は好きだと言いたい、心から愛していると言えたらどんなに楽だろう。
でも、聖とさくらは
それに……さくらの能力のことを知ったら聖はなんと思うのだろう。
拒絶されたらと思うと恐かった。
さくらが苦し気に下を向き押し黙っていると、見かねた旭が声をかける。
「さあ、聖様、先ほどのこともありますし、ここにいるのは危険です。
いったん、屋敷へ戻られた方がいいでしょう」
旭がそっと聖の肩を抱き歩き出すと、聖は
さくらを苦しめるつもりはなかった、ただ本当の気持ちを話してほしかった。
さくらが何か隠していることを薄々感じ取っていた。いつか話してくれることを信じ聖は待ち続けている。
さくらが使用人だろうが、どんな身分だろうが構わない。そんなことは聖にとってどうでもよかった。
隠していることがどんなことでも受け入れる自信はある。
さくらのことを心から愛しているから。
聖はさくらを見つめるが、下を向いていて表情がよく見えない。
「さくらさん、行きますよ」
旭に
二人の空気は重かった。
その空気を感じながら旭は小さくため息をつき、そっとさくらの様子を心配そうに見つめていた。