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百貨店
吉田定理
文芸・その他ショートショート
2024年10月01日
公開日
701文字
完結
縄文人の心のオアシス。それは百貨店。

本文

 日本に最初の百貨店が誕生したのはいつ頃だろうか。①20世紀 ②縄文時代 ③君がいたあの夏の日。無論、百貨店第一号が誕生したのは②縄文時代だ。その証拠に、貝塚から多くのエレベーターガールの骨や従業員のタイムカードが発見されている。

 長い歴史を持つ百貨店であるが、近年は苦境に立たされているようである。若い方々はご存知ないかもしれないが、ひと昔前の百貨店といえば、お洒落をして出かけるような華やかな場所であった。たいていは地上七十三階建ての、スカイツリーなんぞ目ではない摩天楼であり、あらゆる物が揃っていた(ちなみに73という数字は、諸君の想像通り素数である)。例えば、釈迦のゲロの化石、アメリカ大統領の使用済みの靴の中敷き、犬専用のフォークとナイフ、キリンなどがシャンデリアの煌びやかな光を浴びて陳列されていた。そんなもの何に使うのか見当も付かない物も多かったし、反発したキリン愛護団体が建物入り口を封鎖したり、釈迦愛護団体が男子トイレを封鎖したりといった事件もたびたび起こったため、今では幻となった商品も少なくない。

 特に懐かしいのはぬか漬け事件である。第七次ぬか漬けブームの際、私も百貨店へぬか漬けを買いに走ったものだが、浅漬け派を自称するチンパンジーの群れが暴徒と化して上野動物園の檻の中で暴れ回った。事態は十五分後に終息したが、この事件はきのこ・たけのこ論争という形で今日まで日本人の間に火種を残している(私の好物は柿の種である)。

 このように縄文人の心のオアシスであった百貨店は、令和を生きる我々の魂にまで深く刻まれた文化であると言えよう。願わくば、いつか君と、もう一度百貨店デートをしてみたいものである。

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