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第1話 沢田くんとXデーPART2

 遊園地デートから数日たったある日のことだ。



【Xデーが近い……!!】


 またもやなんだかデジャブなんだけど、隣の席で沢田くんがそんなことを心の中で呟いている。


 いったい、今度は何だろう?



 ドッジボール大会ことスポーツフェスティバルも無事終了し、次の学校行事と言えば夏休み前の期末テストが待っているくらいだ。テストはXデーと言えないこともないけど、沢田くんの場合はちょっと普通と違うからなあ。


 ちなみにスポフェス、うちのクラスの森島くん率いるAチームは3位という輝かしい結果に終わっていた。森島くんはそれで自尊心を満足させたようで、しばらくの間沢田くんに自慢げな態度をとっていた。

 もちろん沢田くんはマウント取られていることに全く気づかなかったけど。


「森島くん、ナツミと映画館でデートしたんだって! ナツミに自慢されちゃった〜、悔しい〜〜!【くそナツミのブス! 本当は私が森島くんとデートに行くはずだったのに!】」


「へえ、そうなんだ〜」


 麻由香ちゃんの愚痴を聞きながら、私はチラッと沢田くんに視線を送る。

 私と沢田くんがデートしちゃったことは、まだ誰にも言っていなかった。多分この先もずっと二人だけの秘密になるような気がする。


 テストが明けて夏休みが来たら、枇杷島公園花火まつりに沢田くんと二人で行くって約束してあることも──。


 ほっぺがニヤニヤしちゃいそうになるのを指で隠していると、麻由香ちゃんが言った。


「そういえば、景子ちゃんと沢田くんがデートするらしいって噂が一部で広まっていたけど、本当なの?【まさかだよねー】」


 ドキッ。

【ぎくっ】


 沢田くんの背中が一瞬震えたのが分かった。


【はわわわわわ〜(〃ω〃) そんな噂が一部で広まっていたなんて!! そういえば、森島くんに壁ドンして「佐藤さんとデートに行くのは俺だ」みたいなこと言っちゃったんだっけ! ああ、なんであんなイケイケなことしちゃったんだろう。俺、そんなキャラじゃないのに! 隠キャのぼっちのコミュ障でみんなの嫌われ者なのに〜!!】


 いえいえ、クールなイケメン、イケボで隠れファンが多いみんなの憧れの人ですけど……。

 そしてあの壁ドン以来、ワイルドで強引でカッコいいっていう文言も加わり、人気がさらに急上昇中だということを沢田くんは知らない。


 麻由香ちゃんの問いには「さあ、どうかなあ?」とはぐらかし、私はまたこっそりとニヤニヤした。


 沢田くんの実像とみんなのイメージがどんどん離れていくのが面白い。

 本当の沢田くんを知っているのは私だけなんだと思うと、つい優越感に浸ってしまう。



 でも、そんな楽しい日常がXデーと共に終わりを告げようとしていることに──私はまだ気づいていなかった。



【Xデーまであと3日……。それまでに俺ができることって何だろう】


 ここのところ、沢田くんは何やら真剣に考えている。

 あと3日で何が起きるのか、私には見当もつかなかった。テストはもうちょっと先だし、デートはもっと先だし。本当に、何だろう?


【助けて、おじさんおばさん。俺、どうしたらいい?】


 久々に登場したのは土下座おじさん(シャーペン)とのりせんべいおばさん(ボールペン)のコンビだ。

 沢田くんは机の上で二人を握りしめて話しかけている。


【出会いがあれば別れがある。それが必然ってもんよ、空。受け入れな!】

【いやいや、空はもう覚悟決めてるよおばさん。問題は、佐藤さんにアレをするべきかどうか……だろ?】


 えっ、私に関係があることなの? そこんとこ詳しくお願いします、おじさん!


【ちょっと待って。聞き捨てならないわね。誰がおばさんですって! 失礼ね! 私はまだ43よ! ピチピチよ!】


 おばさんがどうでもいいところで引っかかってる。43歳か……私からしてみると充分……っていう気がするけど。

 それより、さっきの話の続きして!


【えー、おばさん43なんだ? 俺まだ42だけどヽ(*^ω^*)ノ】


 おじさんっ! 一個下なだけでそんなに威張らない!


【やだ、あんた年下だったの? ハゲてるからもっと上だと思ってた】

【ハゲとか言わないでくださいよ、気にしてるんだから】

【ちょっと、急に敬語使うのやめてくんない? なに? 自分が年下だってことアピールしたいわけ? あんたってほんとに小さい男ね!】

【何だとぉ〜〜? 黙って聞いてりゃこの三段腹が──!】

【もう、二人とも喧嘩はやめてよ〜〜。゚(゚´Д`゚)゚。】


 沢田くんは二人の喧嘩を止めているけど、全部沢田くんの脳内で起こっていることだからね?


【元はと言えばあんたがうじうじしているからいけないのよ、沢田空! 男らしく、やるならやりなさい!】

【そうだぞ。今できることを精一杯やるんだ! 佐藤さんの隣に居られるのはあと3日だけなんだから】


 おばさんとおじさんの言葉に、沢田くんは頷いた。


 えっ……?

 私の隣に居られるのはあと3日って……?

 私は驚いて隣にいる沢田くんを見た。



【そうだ。もうすぐ席替えだから──俺は佐藤さんと離れ離れになる】



 えっ……席……替え?



 私は、失念していた。

 うちのクラスでは日直が一周したら、くじを行って全部の席をシャッフルする決まりがあったことを。いつまでも沢田くんの隣の席には居られないのだということを。



 Time waits for no one.

 時間は誰も待たない。

 突然の別れが目の前に迫っているのを感じた時、私の頭にそんな言葉がふと浮かんできた。



 沢田くんと離れ離れになる──Xデーまで、あと3日。







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