夕方になってきて肌寒い風が吹くようになる頃、私たちの足は自然とそこに向かっていた。
園の中で一際目立つ、巨大な円を描く観覧車。
最後の乗り物はこれにしようって、初めから決めていたんだよね。
「いこっか、沢田くん」
「うん【これで最後か……(;ω;)楽しかった出来事が走馬灯のように蘇るよ!】」
私も同じ気持ちだよ、沢田くん。これで終わりだなんて、本当に寂しい。
無言で順番を待って、茜色が煌めくワゴンに私たちは乗り込んだ。
【はあ〜〜。これが観覧車か。意外と早く終わっちゃいそう】
一周約10分だってパンフレットには載っていた。確かに、早く終わっちゃいそう。
終わる前に、沢田くんに今日のお礼を言わなくちゃ。
あと、もう一個だけ、伝えたいことがあるんだけど……。
向かい合って座る沢田くんは落ち着かない様子で外の景色を見ている。
【な、なんか言えよ俺! このままダンマリしたまま一周終える気かっ? バカ!(((((;`Д´)≡⊃)`Д)、;'.・俺の意気地なしっ! 本当は佐藤さんに言いたいことがあるんだろっ? 早く言えーーっ!!】
沢田くんも何か言いたいことがあるらしい……。
何だろう。期待しちゃうな。
とにかく、黙っていたら時間がもったいない。
あと9分。
「あの……」
「あの……」
二人で同時に声をかけてしまった。
「な、何? 沢田くん」
「佐藤さんから……どうぞ【うおおおおお〜〜〜!!((((;゚Д゚)))))))ドキドキしたああああ!!!】」
沢田くんはかしこまって膝に手を乗せている。その膝がちょっとブルブル震えている。
顔はクールでカッコいいのに、やっぱりこのギャップが好きだなと思う。
「今日、すごく楽しかったよ」
「うん【俺も(*´Д`*)】」
沈黙ができてしまった。頭が真っ白になっちゃって、次に続ける言葉が出てこない。すると──。
【佐藤さん、可愛い(*´Д`*) どうしよう、ドキドキが止まらない!! ああああ〜貧乏ゆすりも止まらない!! このままじゃ、俺の震えで観覧車が破壊されてしまうかもしれない!! この高さから落ちたら二人とも助からないよっ!! 俺は死んでもいいけど、佐藤さんだけは守らなければ……!! 落ち着け、俺の膝〜!!:(;゙゚'ω゚'): そ、そうだ。こういう時は、手のひらに人という文字を3回書いて飲み込むんだ!!】
沢田くんは膝の上の手をさりげなく動かし、文字を書く手の動きを私に見せないように片手で隠しながら文字を書く。
【人……人……入……。あっ!? 三文字目が「入る」って文字になっちゃったかもしれない! だめだ、「入る」じゃ緊張が取れない!! もう一度……! 人、人……あああああ〜〜手が震えてそもそも字が書けない。゚(゚´Д`゚)゚。】
沢田くんも相当緊張しているみたいだな。
もう、一生見つめていたいくらい可愛いよ!!
沢田くんの可愛さに何だかほっこりして、私の肩の力が抜けた。
気がつくと、沢田くんの背後に差す夕陽が観覧車のガラスでプリズムを作っている。
綺麗だけど、私の位置だとちょっと眩しすぎる。
「沢田くん、そっちに行ってもいい?」
四人乗りの観覧車には、二人で並んで座れる余裕がある。
「えっ……【佐藤さん⁉︎ なんて大胆な……!((((;゚Д゚)))))))】」
沢田くんの足の震えがさらに異常なスピードになる。
やばい、もっと緊張させちゃった。
「あっ……ごめん。嫌だよね」
「いや……【いやいや、嫌じゃない! 違うよっていう意味の「いや」だよこの「いや」は!!】いや……【だから嫌じゃないの否定の「いや」ね!! ああややこしいな日本語!! なんで嫌と否定のいやが同じ「いや」って音なんだよ!!! これじゃ佐藤さんに誤解されちゃうよ!!】いや……【あああ〜〜。゚(゚´ω`゚)゚。今のは「いや〜まいったまいった」のいやだから!! クッソ日本語がああああ〜〜!!】
行っていいのかいけないのか迷っているうちにもう3分経った。
「……どうぞ」
沢田くんはロボットのように硬くなりながらやっと一人分のスペースを空けてくれた。
「ありがとう!」
もう眩しくない角度にはなっていたけど、せっかくだから私は喜んで沢田くんの隣に座らせてもらった。
ふと隣を見上げると、夕陽が沢田くんの黒髪をキラキラと輝かせていた。
カッコ良すぎて私まで言葉を失いそう。
「あ……見て、夕陽。すごく綺麗だね」
私は沢田くんを意識しながら、ごまかすようにガラス窓の外を見る。
「あ……うん」
と沢田くんも時々私を見つめては視線を外す。
【佐藤さん、可愛い】
その時不意に聞こえてきた声に、私の心臓がドキッとした。
【夕陽なんかよりずっと、佐藤さんの方が綺麗だよ……】
き……きゃあああああああ〜〜〜!!!
生の声で聞きたいセリフナンバーワンが飛び出した!
キュン死にする前に、お礼が言いたい!
「沢田くん。私……沢田くんとデートできてすっごく嬉しかったよ。誘ってくれてありがとう」
何とか最後まで言ってから、私はそっと口角を上げた。
その瞬間、沢田くんの心臓がパアン! と破裂する音が聞こえた。
【ぐはあああああああ〜〜!!_:(´ཀ`」 ∠): 何それ、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い〜〜〜(*´Д`*)!! ああ、幸せだよーっ!! 俺、生きてて良かったーっ!! 神様ありがとう、父ちゃん母ちゃんありがとう!! 佐藤さんありがとうーっ!!】
沢田くんの無言の叫びが観覧車を揺るがす。
……ああ、もうダメ。
言いたくて仕方ないセリフ、言っちゃうよ。
「沢田くん」
それはちょうど観覧車がてっぺんに差し掛かった時だった。
「私……沢田くんが、大好き」