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第5話 沢田くんとランチタイム


 その後もゾンビが次々現れては私たちに襲いかかってきたけど、中の人の心の声が聞こえてしまう私と、ゾンビより手つなぎ、手汗に集中していた沢田くんの前では障壁にもならない存在だった。


 気がついたら、私たちは手をつないだまま、あっという間に天国から追放されていた。



【ええっ、もう終わり?(・Д・) 佐藤さんとの手つなぎタイム終了早すぎ。゚(゚´ω`゚)゚。】


 出口に差し込んだ明るい陽の光がこんなに悲しいなんて。

 名残惜しんでいると、後ろから来たカップルが半泣きで飛び出してきた。


「何このお化け屋敷、めっちゃ怖!」

「ゾンビが本気で追いかけてきたんだけど! なんか俺たちに恨みでもあんのか?」


 ごめんなさい、ゾンビさんたちが苛立っていたのは、多分あんまり驚かなかった私たちのせい。鬱憤うっぷん溜まっちゃったんだろうな。



「ああ楽しかったー」

 残念な気持ちを隠して笑みを浮かべると、沢田くんが不思議そうに私の顔を見た。

【そういえば佐藤さん、怖くなかったのかな?】

「あっ、ええと、沢田くんが手をつないでくれていたおかげで、全然怖くなかったよ! ありがとう!」

「あ……うん。【あ、うんじゃないよバカ! お礼を言え! 俺の方こそ佐藤さんと手をつながせていただいて感謝感激です!!。゚(゚´ω`゚)゚。だろーーーっ!!】俺も……ありがとう【よし、グッジョブ俺!(๑• ̀д•́ )✧】」


 照れてうつむく沢田くん。

 まだ指がくっついたままだ。



 どうしよう、離れたくないなあ……と思ったその時。

【離れたくない】



 私の気持ちと被るように、沢田くんがつぶやいた。



【このままずっとこうしていたい】




 きゃ……。

 ぎゃああああああ〜〜!!! キュン爆、きたああああ!!!

 体温が一気に上昇し、手汗が滝のように溢れてくる。



「ご、ごめんね沢田くんっ! 手をつないでもらったままだったね! 忘れてた! も、もう怖くないから大丈夫!」


 私はあわてて沢田くんから強引に手を放してしまった。

 すると沢田くんは。



【あああああああ〜〜。゚(゚´Д`゚)゚。オワタ……! ヤダヤダー(੭ु ›ω‹ )੭ु⁾⁾もう少しだけ延長お願いできませんか佐藤さんっ! ワンモアプリーズ佐藤さんっ! でもそんなこと絶対に言えないしなあ! 佐藤さんには嫌われたくない。゚(゚´ω`゚)゚。】


 と、心の中で号泣。


 本当にごめんね、沢田くん。

 勇気のない私を許して。

 しっとりと汗の浮き出た手のひらを、気づかれないようにこっそりと拭く。


 やっぱ一番恐ろしい敵は手汗だな! ゾンビの比じゃない。

 沢田くんが正しかったわ。




 それから私たちはいくつかのアトラクションに乗った。

 高速で回転する空中ブランコのようなものに乗ってみたり、ティーカップ型の乗り物でグルグル回転してみたり、遊覧船で人工池を一周してみたり。気づけばなんだか回ってばかりいた。


【楽しい……。゚(゚´ω`゚)゚。 遊園地、楽しいよーっ。゚(゚´ω`゚)゚。】


 沢田くんの表情は何に乗ってもあんまり動かなかったけど、心の中は無垢な少年のように心から純粋に楽しんでいるようだった。

 やっぱり遊園地にしてよかった。沢田くんが楽しそうだし、私も正直こんなに楽しい遊園地は生まれて初めてだった。

 疲れも忘れて遊んじゃう。


「ねえ、次はどこへ行く?」

 元気よく沢田くんに話しかけた時だった。


 ぐう。

 と、沢田くんの方から謎の音がした。



【しまった……! お腹が鳴っちゃった……!((((;゚Д゚)))))))】



 沢田くんは無表情で焦り出す。

 そういえば、アトラクションに夢中でお昼ごはんを食べるのをすっかり忘れていた。時計の針はとっくに12時を過ぎている。それどころか、もうじき午後2時になろうかという時間だ。沢田くんのお腹も空くはずだよね。



【ど、どうしよう。今の音ははっきり聞こえちゃったよな! とりあえず咳払いでごまかそう!】「ごほっ、ゴフォ」【ああ、咳払いなんて俺今までしたことないから正しい咳払いの仕方が分かんない。゚(゚´ω`゚)゚。助けて、ア○クサ! 正しい咳払いの方法教えて! いやそれより腹の音のごまかし方だろ】



 だめだ、これは笑ってしまう! 草不可避!

「ぷくくく……」

 笑いを押し殺したら変な笑い声出た。助けてア○クサ!



【はっ∑(゚Д゚) 佐藤さんが笑ってる……⁉︎ 俺の腹の音に気づいたか⁉︎】



 ヤバい、沢田くんが怪しんでいる。私も咳払いでごまかそう。

「げふん、げふん」

 待って。咳払い下手すぎか。



【佐藤さん、今のは咳払い……なのか? え。待って。なに今の可愛い。これが正しい咳払いか! 学習した】



 しちゃだめ! 恥ずかしい!!



「沢田くん、ごめん! 私、お腹空いちゃった。次のアトラクションに行く前にどこかで何か食べない? あ、あんなところにホットドッグのお店が!」



 私はちょうど近くにあった移動販売のワゴンを見つけて指を差した。

「あそこでいい?」 

「うん【佐藤さんもお腹空いてたのか。それでごまかして咳払いしてたのかな? 俺たちって本当に気が合う(*´Д`*)】



 お願い、さっきの咳払いのことは忘れて!

 恥ずかしさをごまかすため、私はダッシュでワゴンに近づいた。



【佐藤さん、走って買いに行くなんて! よっぽどお腹が空いているんだな。ワゴンめがけてダッシュする佐藤さん、可愛いよ佐藤さん(*´Д`*)】



 結果、余計恥ずかしくなった。

 完全に食いしん坊キャラの属性がついたよねこれ。






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