お互いに早く来てしまったので、その場で開園を待つこと15分。
「あのー。すみませんけど写真撮ってもらえませんかあ?【キャーッ、超イケメン!】」
沢田くんに話しかけてきた女子グループはこれで五人目だ。
話しかけるきっかけとしてスマホを渡し、ついでに連絡先も交換してしまおうという魂胆がまるっと透けて見える。
もちろん私は完全にスルーされている。なんだか沢田くんのぼっちボール奥義『おんみつ』を伝授されたかのようだ。
「……できません【写真を撮るなんて、そんな重大責任負わされるのは無理ですって((((;゚Д゚)))))))!! もし半目の時にシャッター押したらと思うと心臓潰れる!! っていうかなんでみんな俺に話しかけるのーーっ⁉︎ 学校じゃ無視されまくってるのに! 遊園地だからみんなテンションが高いのか⁉︎ 恐るべし、遊園地!】」
まあ、沢田くんがいつもと同じクールな反応をしてくれるおかげで、ヤキモキしないで済むけどね。
「沢田くん、開園したらまず一番人気のジェットコースターに乗っちゃおう! 遅くなってから行くと待ち時間がすごいことになるから」
「う……うん【いきなりジェットコースターかああああ!!! 失神だけはしないように頑張るぞ!】」
「あ、あと……」
「ん?」
急に語尾が小さくなった私を沢田くんが見つめる。それだけでドキーンとしちゃって、私は「なんでもない」とはぐらかした。
言えないよ、私の方から「手を繋いで」なんて。
【どうしたんだろう、佐藤さん。今、何か言いかけたよな。なんだかちょっと顔が赤いような気がする……ハッ、もしかして、俺の歯に青のりでもくっついているのでは──⁉︎ いやいや、今日は青のりがつくようなもの食べてないよ。それにしても恥じらって何も言えない佐藤さん、可愛いな。天使か】
沢田くんのせいで私はますます赤くなってしまったと思う。
まあ、手繋ぎはまだハードル高いよね。焦らずに行こう。
開園と同時に真っすぐ向かったおかげで、私たちは待ち時間ほぼ無しでジェットコースターに案内された。
「よかったね、沢田くん」
「……うん【ぎゃーっ!! 意外と早く乗れたー!!((((;゚Д゚)))))))ちょっと待って、心の準備がっ!】」
硬いシートに座って上から降りてきたU字の安全バーを胸の前で固定されると、私もやっぱり緊張してきた。沢田くんはもっと緊張しているはずだろう。
「ここ、落ちる途中で写真を撮ってくれるサービスあるんだよ」
雑談で落ち着かせようとしてみたけど、沢田くんは何故か【写真⁉︎】とますますビビった声を出した。
【どうしよう、写真撮られている最中に失神して白目剥いていたら……!!((((;゚Д゚)))))))】
どうやら沢田くんはとにかく半目とか白目とかが気になるらしい。
電車の発車ベルと消防車のサイレンを合体させたようなけたたましい音がした。出発の合図だ。
沢田くんの表情は相変わらず無だけど、
【今ので寿命が三十年縮んだっ。゚(゚´ω`゚)゚。】
心の中ではかなりビビっていたもよう。
次の瞬間、いきなりコースターが発進し、しばらく直進してから斜め上方向に進んでいった。
上りきったらあとは落ちるしかないことが誰にでも予測可能なのにもかかわらず、わざとかというくらいゆっくり登っていくコースターに、沢田くんは複雑な想いを巡らせる。
【断頭台までの助走が長いっ……! いやあああああ!! やるならひと思いに……あっ。やっぱそれもダメええええ!!】
私も怖い。怖いけど、やっぱり乗って良かった。
沢田くんと一緒だから、楽しさ百倍だよ。
沢田くんの手を握る代わりに、ぎゅっと胸の前の安全バーを抱きしめた。
そしてついにコースターは青ざめる沢田くんを乗せて頂点から一気に真っ逆さまへ!
【あああああああああああああああああ〜〜〜〜!!((((;゚Д゚)))))))】
と思ったら今度は横へ!
【うおおおおおお〜〜〜!! Gがきついきついきつーい!!】
一回転!
【あはははははははおえええっ、うははははははは!!】
沢田くんも恐怖が一周回って笑っちゃったみたいだ。途中でちょっと吐きそうになったみたいだけど。
こうして、全長2400メートルのコースを約3分間で暴走し続けたコースターはあっという間に乗り場へと戻ってきた。
「はあ、楽しかったね、沢田くん」
「あ、うん」
眉ひとつ動かしてない沢田くんだけど、心の中はこうだ。
【俺、生きてるのか……? 全然乗った後の記憶がない。゚(゚´ω`゚)゚。 気がついたらここにいた。おのれジェットコースターめ、奴はとんでもないものを盗んでいきました。俺の記憶です_(┐「ε:)_チーン】
なんだ、意外と元気だな。