「だ、誰もいないよ! それより、麻由香ちゃんが沢田くんを倒したってほんと?」
ベッドの陰に沢田くん。
そんなドキドキシチュエーションをごまかすために話を振ると、麻由香ちゃんは「そーなの!」と嬉しそうに手を叩いた。
「景子ちゃんが退場した後、沢田くんが変な動きしなくなったからさあ、女子のみんなでボールの奪い合い! とにかく沢田くんさえやっつければ、森島くんがデートしてくれるって約束してくれてたからね。それでさあ」
麻由香ちゃんはずしっとベッドに座り込んでしまった。
スプリングの軋むベッドに沢田くんはますます身を縮ませる。
【ああああああ、見つかったら袋叩きだ! いや、火炙りの刑だー!「保健室のベッドで佐藤さんと何してたの?」なんて言われたらなんて言い返せばいいんだ! いや何もしてないよ! 何もしてないけど……あれ? 俺、何かしたっけ? 何もしてなければ隠れる必要ないのに隠れてる。ってことは、何かしたのかな? 何かしたような気がしてきた! でも、覚えがないっ……!!。゚(゚´ω`゚)゚。】
落ち着いて沢田くん、覚えがないのは何もしてないからだよ!
取調中の容疑者ってこんな心境なんだろうな。何もしてないのに何かしたような気になっちゃうっていう。
「それで、思いっきり投げたのね。そしたら沢田くんにバコーン! って当たったの。だから私がデートしてもらえるんだーと思ったじゃん? でも敵を倒した人数を言い出した奴がいて、MVPはいっぱい敵を倒した人のものになっちゃったんだよね! くやしー!!」
「そうだったんだ、残念だったね」
こうなったら、一刻も早く麻由香ちゃんに帰ってもらわないと。
フルパワーで頭を回転させていると、麻由香ちゃんがニヤニヤしながら言った。
「景子ちゃんも残念だったね」
「え?」
「もしうちらのチームに勝ってたら、沢田くんと手繋ぎデートできる権利は確実に景子ちゃんのものだったのにね!」
「!!」
【!?】
きゃあああ! それ、今は言っちゃダメな話ーーっ!!
【手繋ぎデート……って??】
沢田くんがソワソワし始める。
「あ、あ、あのっ、それは……っ!」
「景子ちゃん、沢田くんとデートするために頑張ってたのにねー。ごめんね、夢を打ち砕いちゃって。沢田くんって、こんなチャンスでもない限り女の子とデートなんかしてくれない感じだもんね。まあ、勝てばデートするって約束してくれただけでも奇跡っていうか?」
あああ、なんかご丁寧に全部説明してくれちゃったよ!
【デートの約束……! 俺、そんなことしてたんだ!! そういえば、みんなに囲まれて無理やり何かをオッケーさせられたような記憶がある──!】
あわわわ、沢田くんが思い出しちゃった!
【ちょっと待って。今この人、佐藤さんが俺とデートするために頑張ってたって言ってた⁉︎ 俺とデートするために⁉︎ 俺とデートするために⁉︎ 俺と……dファギャzごぎゃjなおkhfyなああああああ!?!?!? ええええええ〜〜!! 佐藤さんが俺と手繋ぎデートってどういうことーーー!!!((((;゚Д゚)))))))】
ぎゃああああ、沢田くんがいろいろと気づいちゃったーーーっ!!!
どうしよう、どうしよう?
私が沢田くんのこと好きだって分かっちゃったかな⁉︎
ドキドキしながら沢田くんの反応をうかがってみる。すると。
【お、落ち着け……! まだ佐藤さんの口からは何も聞いていない! 浮かれるな! 佐藤さんが俺とデートしたいと思っていたなんて、そんなこと何かの間違いに決まってる……!】
あれ、意外と冷静?
【でも、もし本当だったらどうしよう! はうあああああ〜〜(੭ु´͈ ᐜ `͈)੭ु⁾⁾】
あ、やっぱめっちゃ浮かれてた!
しっぽパタパタ振っちゃってるよ!
「あっ、そういえば、Bチームの女子が沢田くん探してたんだけど、沢田くん来なかった?」
【ドッキーン!!((((;゚Д゚)))))))】
麻由香ちゃんの言葉に、ベッドの陰の沢田くんの髪が縦に揺れた。
「き、来ていないよ……」
私は思わず目を泳がせちゃったけど、麻由香ちゃんは気づかなかったようだ。
「ふーん。どこ行っちゃったんだろ? 沢田くんって雲隠れうまいよね。本当に忍者の末裔なんじゃないの?」
「そうかもね。あはは……」
「じゃあもし沢田くんが来たら、Bチームの子が一緒にお疲れジュースじゃんけんやろーって言ってたって伝えといて。負けたらチーム全員分のジュース代払うんだって」
【なにその鬼イベ。そんなの俺が負けるに決まってる!! マジで雲隠れしたい!!((((;゚Д゚)))))))】
言いたいことだけ言って麻由香ちゃんが去った。
静まり返った保健室に、私と沢田くん、二人だけの空間が戻る。
【どうしよう……。佐藤さんに聞いてみようかな。本当に俺とデートしたくて頑張ってくれたのかどうか……】
まだベッドの陰に隠れたまま沢田くんが呟いた。
私の心臓がまた大きな音を立てて鳴り始める。
私たちの緊張感が部屋いっぱいに広がって、壁を突き破ってしまいそうだ。
……もうだめ、耐えられない。
「あ──あの……」
思い切って「沢田くんとデートに行きたい!」と切り出そうとしたその時だ。
【ここで問題です】
え? 問題?
【もしも佐藤さんが本当に俺とデートしてくれるなら──俺たちはどこへ行ったらいいでしょうか?
A:映画館
B:遊園地
読者の皆様、コメント欄にどちらか行きたい場所を書いていってね!
よろしくお願いしまーす(((o(*゚▽゚*)o)))♡】
ここでまさかの、マルチエンディングシステム搭載……!?
っていうか、誰に向かって呟いてるの、沢田くん!!!