「くそっ、どうなってんだ……!【沢田のやつ、佐藤さんと気まずくなって落ち込んでいたはずじゃ……!】」
向こうサイドの森島くんの焦る声がする。その彼の周りでバタバタと死人が増え続けている。
【うう、どうせ俺なんか……だれの目にも見えないくらい影がうすい男だよーーーっ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。】
沢田くんは確実に落ち込んでいる。
森島くんの作戦通り、彼は見事に凹んでいる。
けれども、その分彼は強くなっている。それは森島くんにとって大きな誤算だったことだろう。
「すごい、沢田くん……! 一人でみんなやっつけちゃってる!」
沢田くんの強さは圧倒的だった。
沢田くんの戦法にAチームはなすすべもなく、このままあっさりと撃破されそうな勢いだった。
だけど……。
私は時々残像で見える沢田くんを目で追いながら、なんだか不安な気持ちになってきた。
【あいつ、ぼっちを極めようとしていやがる……!】
その時、見物人エリアの中から小野田くんの心の声が聞こえた。
【やめろ、沢田! このままじゃお前、本当のぼっちになっちまうぞ!!】
本当のぼっち……?
そういえば、周りを見回してみると、味方チームの誰も沢田くんに近づいていない。
【沢田がすごすぎて近づけない……っていうか、どこにいるのか分かんない】
【私たちなんかいなくても勝てそう】
【沢田に全部任せとけばいっか】
みんな、楽勝モードで気を抜いている。
それに、相手チームのみんなも……。
【沢田くん、こわ!】
【情け容赦ねえなあ。仮にも同じクラスメイト相手に】
【何が起きたのかさっぱり分からないまま負けちゃった。悔しい……】
納得のいかない不満げな表情で戦線を離脱していくAチーム。
でも元はと言えば、彼らは同じF組の仲間たち。
小野田くんの言う通りだ。
このままじゃ、試合が終了した後、沢田くんはみんなから孤立したまま、本当のぼっちになっちゃう!
【どうせ……どうせ俺なんか、みんなの嫌われ者なんだよーーーっ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。】
沢田くんの悲痛な叫び声に、私の胸がズキッと痛んだ。
大変だ……!
これ以上ぼっちボールを続けたら、寂しさで沢田くんの心が壊れちゃう──!
私はコートのどこかにいる沢田くんに向かって叫んだ。
「沢田くん、もうやめてーーっ! 一人で戦わないで!」
私の声が届いたのだろうか。沢田くんの『おんみつ』が解けて、1メートルほど離れた場所に砂煙と共にフッと沢田くんが現れた。
【さ……佐藤さん……⁉︎】
沢田くんが驚いたように私を見つめている。
私の頬がホッとして緩んだ。
「沢田くんはひとりじゃないよ。私たちがついてる。だからそんなに強がらないで。沢田くんのピンチの時は、私たちが守ってあげるから……!」
「佐藤……さん……」
「一緒に戦おうよ、沢田くん」
沢田くんを孤独から救うために、私は沢田くんに手を伸ばした。
【佐藤さん……。゚(゚´ω`゚)゚。 俺……ぼっちじゃ……ないの?】
沢田くんの瞳がみるみるウルッとし始めた。
その時だった。
完全に『おんみつ』が解けた沢田くんに向かって、森島くんが不意打ちのボールを投げようとしたのは。
【今だ! 死ね、沢田!!】
「あ、危ない! 沢田くん!!」
私は無我夢中で沢田くんの前に飛び出した。
すぐにドカッと背中へボールが当たる感触がして、私は顔を歪めた。
やられた……!
「佐藤さん!!」
フラついていた私を、正面にいた沢田くんが素早く手を伸ばして抱き止める。
抱き……。
え、ちょ、まっ、抱き……⁉︎ 抱き止めた⁉︎
えっ、待ってきゃあああああああああっ!!!
人一倍動いていたはずなのに汗ひとつかいていない沢田くんの爽やかな香りとぬくもりが私を包んでうぎゃああああ!!!
やばいやばいやばいやばい、死ぬーーー!!!
「佐藤さん、しっかり……!【佐藤さんが俺をかばってくれた……! 俺を守って倒れるなんて……うっ(´;ω;`)なんて優しいんだああああ!! 俺がぼっちじゃないってことを身をもって教えてくれたんだね、佐藤さんっ!!!】」
いや、今それどころじゃないでしょ。
死ぬよ!!
沢田くんの腕の中で私、シャレにならんくらい体温上昇してるんですけどーーー!!!
【チッ、佐藤さんに当たったか。千載一遇のチャンスだったのに】
森島くんも今、それどころじゃない!
【森島くん……あんなに仲良さそうだったのに、佐藤さんになんて冷たい目を向けているんだ……! 友達じゃなかったのか⁉︎ 許せない!!】
いや、だから沢田くんも少年マンガ風に盛り上がってるとこ悪いけど、今はそのノリじゃない!!
こっちは胸キュン学園モノの青春ジャンルでピュアラブ部門に飛び込みエントリーしたいくらいのドキドキハートなんだってばーーっ!!!
「さ、沢田くん……あの……」
「……分かってる【佐藤さんの仇は、俺が討つ!】」
沢田くんは凛々しい顔で私をギュッと抱きしめてトドメを刺した。
うん、もう試合とかどうでもいいや。
私はカクッと首を垂らして気絶した。