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第11話 沢田くんと覚醒


「話は終わりだよね。それじゃ」

「あ、まだ俺たちLINEのアドレス交換してなかったよね? 教えて欲しいんだけど──」

「ごめん、今日スマホ忘れたの」

 これ以上二人で話しているのはまずい。

 私は強引に森島くんと離れて沢田くんのところに戻った。でも、時すでに遅し。


【森島くんと佐藤さん、お似合いすぎる。俺、終わった_(┐「ε:)_チーン】


 沢田くんはこの世の終わりみたいな顔でどんよりと沈んでいた。



「沢田くん、しっかりして! これから予選の決勝だよ⁉︎」

「うん……【そうだ、しっかりしないと……。でも、俺なんかがいくら頑張ったって森島くんには敵わないよな……。イケメンの上、性格も良くて、爽やかで、みんなの人気者。俺とは大違い……】」



 ダメだこれ。かなり重症。

 沢田くんが森島くんに嫉妬してくれてるみたいなのは嬉しいけど、試合に負けちゃったら森島くんがますます調子に乗りそうでなんかムカつく。



 こうなったらもう、最後の手段だ。


 私はごくっと唾を呑んだ。

 沢田くんのモチベを上げるには、沢田くんの自己肯定感を大幅に上げるしかない。

 そのためには、「あの言葉」を沢田くんに伝えるしかない……!

 私の、沢田くんへの気持ち。

 本当は試合後に言うつもりだったけど……。


 心臓がバクバクして、一気に指先が冷えてきた。

 でも躊躇している場合じゃない。

 私は意を決して沢田くんをじっと見つめた。



「あ、あのね沢田くん、聞いて。実は私、前から沢田くんに言いたいことがあって──」

「えっ……?」


 沢田くんが暗い顔を上げようとしたその時だった。



「おおおい、沢田あああああああ!!!」



 突然、どこかから殴り込みに来たような声がした。

 振り向かなくても分かるその声の正体は小野田くんだ。



「運良くここまで勝ち上がったようだが、次こそ年貢の納め時だな! お前がぶざまに負けるところを見に来てやったぜ、感謝しろ! まあ、どうせお前はここまでの男だ。潔くあきらめるんだな! ハッハッハ!」



 ちょっと小野田くん、いいところにやって来て沢田くんのモチベを奪うようなこと言うのやめてーーー!!!



【がんばれ、沢田! 俺の憎まれ口をバネにして、次も勝てよ!!】



 そういうことはストレートに言ってやって、お願い!!



「……うん【どうせ俺はここまでの男だよね。腑に落ちすぎて反論する気が一切起きない(´・ω・`)】」



 ほらああ!! 沢田くん、ますますどんよりしてきちゃったよ!!



「沢田くん、小野田くんの言うことなんか気にしないで、頑張ろ?」


 私は必死に沢田くんを盛り立てようとしたけど、集合の笛が鳴って私たちはコートに呼び出された。



 どうしよう。小野田くんのせいで、モチベーションダダ下がりのまま試合が始まっちゃったよ──!!





「それでは試合開始!」


 予選トーナメントの決勝がついに始まった。



「よろしくな、沢田【俺の方がモテるってことをお前にとことん思い知らせてやる!】」

 開始直後、センターラインの向こう側から、爽やかな笑顔で森島くんが声をかけてきた。


「……うん【勝てる気がしない_(┐「ε:)_】」

 こっち側の沢田くんはほとんど無表情で覇気がない。



 負けないで、沢田くん! 

 歯がゆい気持ちで沢田くんを見つめていると、森島くんがダメ押しの一言。



「佐藤さん、あとでメアド交換よろしくね♡」

【メアド交換……!!Σ(゚д゚lll)二人はもうそんな仲なのか……!!】



 沢田くんはさらにずーんと闇を背負って、肩をだらんと下げた。



【終わったな。ふふふ】

 森島くんが早くも勝利を確信した笑みを浮かべている。

 しまった、森島くんめ!! 悔しいなあ、もう!



「沢田くん、森島くんは他の女子にも同じことを言ってるから、あんまり気にしないで──」


 森島くんを睨んだ後で、沢田くんのいる方に顔を向けた時だった。


 私は驚いた。


 沢田くんがいない。消えてる……!

 辺りをキョロキョロしてみても、コートの中のどこにもいない。


 あれ? おかしい、さっきまでそこにいたのに──。



【どうせ、俺なんか……佐藤さんにメアドを聞く勇気もないミジンコ野郎だよーーーっ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。】



 心の声は聞こえるのに、沢田くんが完全に見えない!!



【あれ? 沢田はどこだ⁉︎】


 ボールを持った森島くんも戸惑っている。

 彼は仕方なく、近くの集団に向かって初球を投げつけた。


 すると、飛んできたボールの軌道上にゆらりと黒い影が現れ、やられかけていた味方の前でそれを受け止めた!


「あっ!」


 私は目をこすってパチパチとまばたきをした。

 受け止めたのは、沢田くんだ!



【沢田⁉︎ いつの間に現れたんだ⁉︎】



 ひるむ森島くん。するとまた沢田くんがボールを持ったまま消えた。


 これはいったい、どうなってるの⁉︎

 目を凝らしてよーく見ると、かすかに黒い残像のようなものがコート上を動いているように見える。


 あれは多分、沢田くんのぼっちボール奥義、『おんみつ』だ。

 影が薄くなりすぎて、究極まで見えなくなっているんだ!


 私が目を丸くしたその時だった。



【どうせ俺なんか……佐藤さんに触ることもできないヘタレ便所スリッパ野郎だよーーーっ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。】



「ぎゃああああっ!!」



 突然目の前に現れた沢田くんから『ぶしのなさけ』をかけられた敵チームが驚きのあまり尻餅をついて倒れた。



【どうせ俺なんか……佐藤さんに「あ、うん」しか言えないエターナルへっぽこ金剛力士野郎だよーーーっ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。】



「うわああああっ!!」



【どうせ俺なんか……佐藤さんに笑顔を見せることもできない8ビットの2Dドット絵ゲームキャラ野郎だよーーーっ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。】



「ひゃああああっ!!」



 気がつくと、いつの間にか現れては無差別攻撃をくり返す沢田くんに相手チームは阿鼻叫喚あびきょうかんでバタバタと倒れていっていた。



 そうか……!! 

 私は不意にハッと気がついた。



 ぼっちボールは孤独の競技。沢田くんが孤独を感じれば感じるほど、その技の切れ味はますます鋭くなって──むしろ強くなるんだ……!!






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