なんやかんやでその後も私たち2ーF・Bチームは勝ち進み、とうとう予選トーナメントの決勝まで駒を進めてしまった。
沢田くんの【おんみつ】と【かげろう】の効果が絶大で、誰も沢田くんにボールを当てることができなかったのが勝利の要因だったんだろう。
私も密かに相手の心を読んで、狙われそうなチームメイトに「そこ行くよ!」「次そっち!」なんてアドバイスで貢献。少しはチームを有利に導いたかな、と思っている。
「沢田くん、この調子なら優勝も夢じゃないかもよ?」
「勝ったら例の約束、ちゃんと果たしてよね!」
二試合が終了した後、Bチームの女子が興奮しながら沢田くんに声をかけた。
女子に囲まれてかつてないほどのモテ期が来ていると思われる沢田くんは、喜んでいるかと思いきや。
【優勝⁉︎ 冗談じゃないよ、そんなに急に目立っちゃったら、どうしたら良いのか分かんない……! 陰日向でひっそりとしていたやつが、急に太陽の光浴びたら死んじゃうって!!((((;゚Д゚)))))))!ああ、土にかえりたい……!!】
優勝の二文字にびびってモテ期に気がついていないようで、いつにもまして無口になっていた。
良かった。沢田くんがビビりで。
モブの私は遠くから少しホッとする。こんな時、みんなの間に割り込んでいって、「沢田くんは私のもの宣言」でもできたらいいんだけど、それはまだ恥ずかしい。
でも次の試合で森島くんのチームに勝って、沢田くんとの手繋ぎデート権を手に入れることができたら……。
できたら、どうしよう?
勇気を出して、こ、告白……する⁉︎
にわかに胸がドキドキしてきたその時、
「やあ、Bチーム!」
爽やかな声が飛んできた。
見ると、森島くんがたった一人で沢田くんに近づいていくところだった。
「お互いよくここまで残ったよな。次の試合では正々堂々、頑張ろう!」
森島くんは優等生のスマイルを浮かべる。でも心の中は、
【クソっ。本当にここまで勝ち上がるなんて運の良い奴らだな。次で絶対ブッ倒してやる】
やっぱり真っ黒だった。
【森島くん、そんなこと言いにわざわざ俺のところへ……? なんて良い人なんだ! あっ、眩しい。森島くんの笑顔、眩しすぎてチリチリ焦げちゃうっ(;´д`)】
沢田くんは素直に感動しているみたいだけど、本当にそれだけのためにわざわざ来たのかな?
怪しんでいると、不意に森島くんが振り向き、私とバッチリ目が合った。
偶然かな? と思ったけど、そうじゃなかった。
森島くんは私に向かって歩いてきた。
そして、沢田くんが見ている前で、私にそっと耳打ちするような距離でささやいた。
「佐藤さん。ちょっと二人きりで話がしたいんだけど、いいかな?」
な、なんだろう⁉︎ 嫌な予感しかしない!!
「二人きりで話って……?」
なんだろう。森島くんはにっこり笑っているけど、黒さがちょっと滲み出ている。
【森島くん、あんなに佐藤さんに近づいて……。何を話してるんだ⁉︎ き、気になる……!!】
沢田くんは落ち着かない様子で何度も私たちに視線を送っていた。すると、
「じゃあ、行こうか」
さりげなく、森島くんが私の背中に触れた。
【ああああああああああああ〜〜〜っ!!! さ、さ、触った……!!。゚(゚´Д`゚)゚。】
沢田くんの悲痛な叫び声がして、私はすぐに森島くんから離れた。
「話ならここで聞くよ。早く話して」
【ちっ】
森島くんは心の中で舌打ち。よくもまあここまで内面と外面のキャラを変えられるものだと感心する。
【まあいいか。沢田もこっちを見ているし、これはこれで好都合か】
森島くんの呟きで、私はなんとなく彼の意図を察した。
つまり、森島くんは沢田くんを動揺させようとしているのだ。
「佐藤さん、髪の毛切って正解だったよね。超可愛いよ」
「……ありがとう」
「あと、今日大活躍なんだって? すごいな。特訓でもしたの?」
「うん、まあ、少し……」
「そっか。やっぱり、沢田が狙いなの?」
森島くんは声のトーンを落として私だけに聞こえるようにささやく。
「だったらちょっと残念だな。佐藤さんとは敵になりたくなかったから」
寂しそうな眼差しでドキドキさせるような一言。
普通の女子なら多分一発アウトだろうと思うけど。
【沢田は試合中に佐藤さんが狙われると自分が身代わりになってまで助けようとしたっていう噂だからな。佐藤さんとの仲を引き裂けば、沢田のモチベーションは下がってBチームは自滅する。フフフ……】
残念ながら、森島くんの心の声は私にダダ漏れですからね。
どんな卑怯な手を使おうと、私には通用しないよ!
けど。
【佐藤さんが、森島くんと仲良くしゃべっている──。゚(゚´Д`゚)゚。ただそれだけなのに何故だろう、胸が痛いっ……!】
残念ながら、沢田くんにはめっちゃ効いてるんだな、これが!
どうしよう、このままだと沢田くんのモチベーションが下がっちゃう!!