【ほ……ほわああああああああ〜〜〜っ。゚(゚´ω`゚)゚。!!!!】
突然、小野田くんが心の中で絶叫した。
【沢田が……沢田が初めて俺のこと、名前で呼んでくれた〜〜〜!!!うっ、嬉しっ(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)!!】
私は思わず顔面から転びそうになった。
小野田くんは大きな体をフルフル震わせて喜びに浸っている。
【しかもちょっと微笑んでた! これはもう、友達と認められた証と言っても過言ではないだろう……!! 10年間の俺の思いがやっと沢田に伝わったんだ……!】
裏を返せば10年も名前を呼ばれなかったってすごいな。
機会はいくらでもあっただろうに。
良かったね、と言ってあげたいところだけど、感動に嬉し泣きしそうな小野田くんを見つめる沢田くんは困惑顔だった。
【どうしたんだろ、この人。もう、こっちはいつやられるのかと思ってずっと緊張してるのに〜! やるならひと思いにズバッとやってよ! 蛇の生殺しだろ〜!。゚(゚´ω`゚)゚。】
沢田くんはなかなか投げてこない小野田くんに、ちょっぴりイライラしているようだった。
「さあ、やれよ」
無抵抗に手を広げる沢田くん。小野田くんは一瞬振りかぶりかけたけど、沢田くんを見てそのままピタッと動きが止まる。
「くっ……!」
【だめだっ! 俺にはできない……! 大切な友達にボールをぶつけるなんてそんなひどいこと、いくらゲームでもできるわけがない!!】
苦悩して友情を取った小野田くんの手からボールが落ちた。
えらいよ、小野田くん。
それでこそ友情だよね!
私もちょっぴり感動して拍手しそうになった。
ところが……。
てん、てん、とボールがラインを越えて沢田くんの元へ転がった。
感動中の小野田くんはそれに気づかない。
【あっ。隙だらけ】
「ていっ」
沢田くんはボールを拾い、何の迷いも容赦もなく小野田くんに投げた。
ボールはボスッと小野田くんのお腹に当たった。
「ぐはっ……!」
小野田くんの足元にボールが落ちたその瞬間、ホイッスルが鳴り、審判の浅井先生がサッと左手を挙げた。
「試合終了! 2ーF、Bチームの勝ち!」
えええええええええええ〜〜〜⁉︎
私はまばたきするのも忘れてその光景を見ていた。
……信じられない。
まさか、アレがこうなってああ展開して、こんな結末になるなんて……!
Bチームのみんなも唖然として、誰も勝利の声をあげないでいる。
「最後のアレ、何だったの? よく分かんなかったけど……」
「なんか、小野田くんが勝手に倒れたみたいに見えたけど?」
「沢田がトドメを刺したのは見た。でもその前がわけわかんねえ」
でしょうね!!
私もまさかこんなわけのわかんない決着になるなんて、想像もしていなかったよ!
可哀想な小野田くん。
せっかく沢田くんとの友情を取ったのに、あっさり攻撃されて。
【奥義を出す間もなく勝ってしまった……!((((;゚Д゚)))))))この人、何考えてるのかよく分かんなくてやっぱり怖い!!】
沢田くんは青い顔をして小野田くんに背を向けた。すると小野田くんが「沢田!」と声をかけた。
沢田くんがそろそろと振り向くと、小野田くんが渋く微笑みながら近づいてきた。
「……いい試合だったな。
小野田くんから握手の手が差し出される。
試合後にライバル同士が心を通わせ合う感動のシーンに、沢田くんは──。
「はぁ?【(ㆀ˘・з・˘)】」
眉根に皺を寄せた顔でそう冷たく言い放ち、再びクルッと彼に背を向けた。
「行こう、佐藤さん【あの人、怖い!!((((;゚Д゚)))))))】」
「う、うん……」
沢田くんに促されて私もBチームのみんなのところに戻りかけたけど、小野田くんが気になったから途中で少し振り返ってみた。
「…………」
小野田くんは地面に両手と膝をついてガックリと項垂れていた。_| ̄|○
ドンマイ、小野田くん!
いつか思いが伝わる日が来るよ! きっと……多分……。