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第7話 沢田くんと作戦会議


 沢田くんがボールに触れたのは、その時を含めて3回程度だったじゃないかな。

 あとは『おんみつ』の力で、完全に気配を消していたから。


 勝負はその後、一進一退の攻防になった。

 お互いに10人以下になった時、さすがに『おんみつ』の効果も切れたようで沢田くんも狙われ始めたけど、『かげろう』の回避能力があったから、彼がコートの外に出ることはなかった。


 沢田くんのそばにいた私も同じだ。

 心の声を聞けるというアドバンテージがあったから、相手がどっちに投げるのかすぐに分かって、逃げられた。


 気がつけば、こちらチームは沢田くん、私、攻撃がうまい男子2人だけになり、相手チームは小野田くんを含めた5人となっていた。



「沢田あ! そろそろ観念しろや!!【観念して俺と友達になれ〜ヽ(*^ω^*)ノ】」

「……やだ【怖いよ、怖いよ〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。】」


 なんて言ってる間にまた後ろで2人やられ、とうとう残ったのは私と沢田くんだけに。


 外野三方向とコート内から狙われている私たち……。


【こんなに注目されたのは何年ぶりだろう……!!((((;゚Д゚))))))) いつもだったら適当なところでわざと当たりに行って外野でぼっちを味わっていたのに!!】


 沢田くんは私をそっと見てすぐに目を逸らす。


【でも今日は佐藤さんがいるから、逃げるわけにはいかない……! こうなったらあの奥義を出すか……!】


 まだ隠し持っている奥義があったか。

 それ、さっさと出して!


 ボールは沢田くんが持っている。彼には表情がなく、どこに投げるか分からない不気味さが漂う。すると、


【ぼっちボール最終奥義……『たらいまわし!!』】


 沢田くんは相手コートの中にではなく、味方の外野にふわっとボールを投げた。


【あとは頼んだ!】


 最終奥義、人任せかーい!!


 でも沢田くんの攻撃がくると身構えていた相手チームにとってはいいフェイントになったようで、小野田くん以外の4人がそれで消えた。


 ついにコート内には私と沢田くんと小野田くんだけになった。

 ボールを持っているのは小野田くんだけど、相手はもう小野田くんただ一人。

 これはもう勝てる……!!

 私も、Bチームのみんなも、それを信じて疑わなかった。


 ところが、沢田くんだけはなぜか浮かない表情をしているのを私は気づいてしまった。


「どうしたの? 沢田くん」

「! ……な、なんでもない……【どうしよう……】」


 沢田くんの頬に汗が浮かんでいる。


【ぼっちボールの極意は逃げるとかわすの二択。相手の球を受け止めるという術はない……! そんなに華のある行動に出られたらもはやぼっちボールじゃない。゚(゚´Д`゚)゚。!!! でもここであの怖い人のボールを止めないと、二人ともやられる!!】



 そういえば、沢田くんがボールをキャッチしてるとこ、一度も見たことがない……!



【俺が犠牲になってボールをこっちのコートに落とせば、次のターンで佐藤さんが怖い人をやっつけてくれるかもしれない。でも、もしそれが外れれば、佐藤さんが怖い人の餌食になってしまうかもしれない……! 佐藤さんを守るためには、やっぱり俺が最後まで残らないとダメだ! 次の攻撃は絶対に俺が止めなきゃ……! ああ、どうしよう。プレッシャーで左の脇腹が痛くなってきた……!:(;゙゚'ω゚'):】


 沢田くんの緊張感が私にも伝わってくる。


「沢田くん、がんばれー!」

「あと一人だぞ、沢田!」


 外野に行ってしまったBチームの声援も彼の耳には届いていないようだ。

 こんなに緊張していたら、本当に二人ともやられてしまうかもしれない。


「沢田くん」

 私は沢田くんに声をかけた。沢田くんが振り向く。


【ドキッ! さ、佐藤さん⁉︎ こんな時にどうしたのっ??】


「私のことを心配してくれてるのかもしれないけど、私だったら大丈夫だよ。今日の日のために特訓してきたから!」


 それは嘘じゃなかった。

 こんなこともあろうかと、毎日壁にボールを当てる練習や跳ね返り球を受け止める練習を繰り返してきたのだ。


 なにをやっても普通の地味なモブキャラである私が、誰よりも活躍するには並大抵の努力じゃダメだと思った。それこそ血の滲むような努力じゃないと。


「小野田くんのボールは勢いがあるけど、その分真っ直ぐ飛んでくるから、体の中心で受け止めれば私でも取れると思うの。だからここは私に任せて!」


 沢田くんは潤んだ瞳で私を見つめた。


「佐藤さん……【か、かっこいい……:;(∩´﹏`∩);: なんて男前なんだ、佐藤さん!! ビビっていた俺が情けないよ!!】」

「沢田くんは今まで十分活躍してきたから、今度は私の番だよ」


 私はにっこりと微笑んだ。


 正直取れる自信は50%くらいだったけど、当たっちゃったら当たっちゃったでボールを置き土産にできるはず。

 そう思って、私は小野田くんにも声をかけた。


「小野田くん! 沢田くんと一騎打ちしたいなら、まず私を倒したら⁉︎」


「なんだと?【やっべえ、あの子すげえ自信がありそうなんだけど!((((;゚Д゚))))))) もし女の子に取られちゃったらどうしよう、恥ずかしくて次の日から学校行けねえよーー!!】」


 小野田くんは沢田くんと私、どっちに投げようか迷っている。

 どうしよう。迷われると、どっちに飛んでくるのかギリギリまで分からなくて予測できない。私のアドバンテージはないにも等しくなっちゃう──。



 緊張で唾を飲んだその時、沢田くんがスッと私の前に出た。


「沢田くん……?」


【やっぱり、佐藤さんにそんな危険なことはさせられないよ】


 驚いている私に、凛々しい背中で彼は言う。



【佐藤さんは俺が守る。あの人のボールも俺が必ず取ってみせる……!】









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