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「ぐはっ……!」
小野田くんの足元にボールが落ちて、てん、てん、と小さく弾んだ。
彼の正面に立つ沢田くんは、涼しい顔で彼を見下ろしている。
ホイッスルが鳴り、審判の浅井先生がサッと左手を挙げた。
「試合終了! 2ーF、Bチームの勝ち!」
私はまばたきするのも忘れてその光景を見ていた。
……信じられない。
まさか、アレがこうなってああ展開して、こんな結末になるなんて……!
Bチームのみんなも唖然として、誰も勝利の声をあげないでいる。
「最後のアレ、何だったの? よく分かんなかったけど……」
「なんか、小野田くんが勝手に倒れたみたいに見えたけど?」
「沢田がトドメを刺したのは見た。でもその前がわけわかんねえ」
みんながざわつくのも無理はない。
沢田くんたちの心の声を聞いていた私だけが真実を知っている……。
***
時を遡ること、試合開始直前。
「ようやく決着をつける時が来たな、沢田!【友達ゲットの時間だぜ!ヽ(*^ω^*)ノ】」
小野田くんがコートの中央ラインの向こうで恐ろしい笑みを浮かべている。
Bチームのみんなはまるでライオンと一緒に檻に入れられたみたいに萎縮しちゃって、ガチガチになっていた。
でも、一人だけいつもと変わらない顔をしていた人がいた。
沢田くんだ。
【怖いよ、怖いよ〜〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。】
普段から常にビビりまくっている沢田くんにはこんな状況なんて日常茶飯事。顔は緊張でキリッと引き締まっていて沈着冷静に見える。
Bチームのみんなにとって、それは頼もしいリーダー以外の何物でもなかった。
「みんな……行くよ【俺を一人にしないでね!! お願い。゚(゚´Д`゚)゚。!!】」
「は、はいっ♡【カッコイイ〜♡】」
みんなを見回した後で、沢田くんは最後に私を見た。
「佐藤さんは……俺から離れないで」
ズッキュウウウウウウン!!
ときめきの嵐が私を襲う。
【佐藤さんが狙われたら俺が盾になるんだ……! 怖いけど、がんばるぞ!!】
ありがとう、沢田くん。
膝が震えているのは見なかったことにするね!
そしてホイッスルが鳴り響き、いよいよ試合が始まった。
リーダー同士のジャンケンでボールを取られていた私たちBチームを、小野田くんのチームが追い詰める展開。
その時からすでに沢田くんの動きは、尋常ではないものを予感させていた……!
「死ねええええ! 沢田ーーーっ!!!」
小野田くんがボールを振りかぶって叫ぶ。
でも、その時、彼の動作が突然止まった。
どうしたんだろう。
【さ、沢田はどこだっ? どこ行った〜〜??】
小野田くんの声に辺りを見回して私も驚いた。
沢田くんがいない。
あれ? えっ、どこ?? よそ見している場合じゃないけど、キョロキョロしちゃう。
すると、私の右隣から【佐藤さん、危ないよ〜。゚(゚´ω`゚)゚。集中して!】と沢田くんの声がした。
そこには、完全に気配を消した沢田くんがいた。目を凝らして見ないと分からないくらい気配がない。
なにこのステルス機能。沢田くん、こんなことできるの⁉︎
【またぼっちボール奥義、『おんみつ』が発動しちゃった。昔からなぜか誰も俺を狙わない。完全スルーされる。気がつけばいつもぼっち。ゲームにすら参加させてもらえない、悲しい奥義……(´;ω;`)】
いやいやいやいや、すごいよっ!!
こんだけ気配消せるなんて、10年以上修行したベテラン忍者みたいだよ⁉︎
「ハッ。そこか!【やっと見つけた!!】」
小野田くんが今度こそボールを放つ。喧嘩に明け暮れ(?)鍛え上げられた腕の筋肉から放たれるシュートは、土煙をあげ、黄金の軌跡を残像としながら高速回転で沢田くんへと向かってくる!
【ぼっちボール奥義……『かげろう』】
沢田くんはユラッとした陽炎のように柔軟かつ儚い動きでそれを華麗にかわした!
沢田くんの後ろにいたBチームのメンバーが悲鳴を上げながら3人犠牲になったけど、沢田くんは無傷だ。
す、すごい……! 沢田くんにこんな才能があったなんて!!
「沢田くん、攻撃ターンだよ!」
転がっていたボールを彼に渡すと、沢田くんは普通に受け取り、普通に相手のチームとのラインに近づき、普通に近くに立っていた相手チームの人の背中にポスッと当てた。
えええええええ〜〜〜!!! なんですか今のは!!
【『おんみつ』で近づくと誰も気づかないから当て放題。でも痛くすると可哀想だからそっと当てる……ぼっちボール奥義『ぶしのなさけ』】
ぼっちボール、どんだけ奥義があんのーーー⁉︎