沢田くんはますますドアに隠れながら葛藤していた。
【どうしよう……! 佐藤さんを門前払いするのは失礼すぎるからできない! でも、あの怖い人は帰って欲しい! 知らない人を家にあげたら後で母ちゃんに怒られる! っていうか誰なのマジで。怖いよ、めっちゃこっち睨んでるよー!】
怖い人=小野田くんは、その時こんなことを考えていた。
【沢田のやつ、恥ずかしがってるな! まあ俺も照れくさいけど!(//∇//)無理もないか、今までほとんど話したこともない小学校からの同級生が突然家に来たんだもんな。そりゃあ照れるし困っちゃうよな〜!】
いやいや、沢田くんは別の意味で困ってるよ、小野田くん。
【どうしよう、通報する? でも佐藤さんの知り合いっぽいしなあ。っていうか佐藤さんとどういう関係? まさか……佐藤さんの彼氏……⁉︎】
「ちっ……!」
違うよ!! と全力で答えかけて、沢田くんの心の声に反応するのはまずいと理性で踏みとどまる。
それにしても、なんていう誤解だ。
こうなったら、沢田くん自身に小野田くんのことを思い出させなきゃ。
「小野田くん、沢田くんの知り合いでしょ? 近所に住んでるみたいだし、もしかして小学校の同級生だったりした?」
【その通り!(//∇//)】(小野田)
【ないない】(沢田)
二人の声がかぶった。
【同級生だったらさすがに俺でも覚えてるって!】
忘れてるくせに。私が呆れかけた時だった。
【佐藤さん……この人と仲が良さそうだったな……。こういうオラオラ系の人が好きなのかな? 俺と真逆なタイプだな……って、なに暗くなってんだ俺。当たり前だろ、俺なんかが佐藤さんに好かれるわけがない……】
落ち込んでいるような沢田くんの声に、私はドキッとした。
もしかして……沢田くん、私と小野田くんに嫉妬してる……?
嫉妬ってことは、つまり、沢田くんは私のこと……好き、なのかな⁉︎
ど、どうしよう⁉︎ 沢田くんが私のこと……⁉︎
私の心臓がドキドキ加速し始めた。するとその時、小野田くんが沢田くんの家のドアを強引に引っ張って開けた。
「とにかく、邪魔するぜ【わーい、沢田んちに初上陸〜ヽ(*^ω^*)ノ】」
小野田くん、やっぱり帰ってーーー!!!
……って思うのはやっぱり悪いよね、うん。
小野田くんが先に初上陸してしまったので、私もその勢いに便乗することにした。
ドアの陰に隠れたままの沢田くんに、まずはドア越しに「お邪魔します」とご挨拶する。
「ごめんね、沢田くん。具合悪いのに押しかけて。すぐに帰るから」
「うん……【佐藤さんはいいんだよ、佐藤さんは! 問題はあの怖そうな人!! どんな会話したらいいのかさっぱり分からないよ〜!!】」
沢田くん、私と会話するのも難しいのにね。
心中お察しします。
「ところで、今ご両親は?」
「……仕事【二人とも夜まで帰ってこない】」
「そうなんだ。夕飯は用意されてるの?」
「うん……【一応、バナナが10本】」
先生、バナナはごはんに入りますか?
相変わらず沢田くんのお母さんはメニューが尖っていると思う。
「食欲ないの?」
「……うん【胸がいっぱいなんだ】」
どうしたんだろう、沢田くん。元気がなくて心配だなあ。
【どうしちまったんだ、沢田。元気がなくて心配だよー!!】
私の心の声と重なるように聞こえてきたのは、小野田くんの心の声だ。
「とにかく、こんなところにいないでさっさと部屋へ戻ったらどうだ?【沢田の部屋!! 楽しみ〜〜!!\(//∇//)\】」
「あの……【帰って】」
「何だよ【何でも言えよ、遠慮なく!】」
「……何でもありません【顔が怖くて帰ってなんて言えない〜〜。゚(゚´ω`゚)゚。】」
小野田くんの顔面インパクトにビビった沢田くんはいつも以上にピヨピヨしている。
小野田くんは無害だって伝えたいけど、どうしたらいいのだろう。
小野田くんを追い出すことを諦めた沢田くんは、私たちを自分の部屋まで案内してくれた。
「ここ……【俺の部屋、何もなくて恥ずかしい】」
沢田くんがドアを開ける。
そう言えば私、男の子の部屋に入るの初めてだ。どんな部屋なんだろう、ワクワクしちゃう。
そんな私の目に飛び込んできたのは、謎の民族が愛用していそうな細長い怪しげなお面だった。
「え?」
その数、実に20個以上。壁一面にズラッとお面が勢揃いしている。
何だこれ。呪われそうなんですけど!!
【……つまらない部屋でごめんね、佐藤さん。面白いものは何もないよ】
いやいや、つまらないことはない。ものすごく興味がひかれる部屋だよ!!
「何だこれ! お前んち、呪われそうだな!!【怖えよ〜〜!! 何だよこのお面、どこで手に入るんだよ!! 現地感がすごいな!!】」
小野田くん、あなたは私の代弁者か。
「別に【呪われないよ。父ちゃんが仕事で行った国のお土産が溜まっているだけ】」
「お土産品かなあ? お父さんから?」
「……うん」
「へえ〜。お父さん、何やってる人?」
私が何気なく尋ねると、沢田くんは恥ずかしそうに目を逸らした。
「……吟遊詩人」